「なんで同じ間違いをできるんですか?頭使ってますか?」
「すみません。気をつけます」
「何度言っても間違ってばっかり。本当、やめた方がいいかも」
アットフォームな会社です。
少人数なので色々なポジションを経験できます。
スキルアップにつながります。
新卒大歓迎。
その謳い文句に誘われて、鈴元(すずもと)那乃(なの)は履歴書を送った。
すると面接になり、トントン拍子で決まって、四月から入社。
三か月たった今、那乃は絶賛後悔していた。
(上司の言い方がきつい。何度も間違う自分が悪いんだけど。辛い)
ーー今夜は楽しい夢をみよう。
そう思いながら、那乃は帰宅して、食事とお風呂を終わらせ就寝時間を待つ。
彼女は夢を見るのが大好きなので、寝る時間は早い。
鈴元(すずもと)那乃(なの)の娯楽は夢を見ることだった。
いや、寝る事の間違いではないか。そうではない。
寝る事には間違いないのだが、目的は夢を見ることだった。
那乃は好きな夢を見ることができる。
夢の中でも、彼女は自身の意識はあり、自由自在に夢の内容を変えることができる。
彼女が小さいときに気が付いて、親に言ったり、友達に言ったりしたが誰も信じてくれず、今はもう誰にも話さなくなった特技だ。
(今日は、あの上司を見返す夢だ)
「橘さん。その言い方はパワハラです。あなたのような社員は必要ありません」
夢の中で、那乃の上司の橘は社長に解雇された。
「鈴元さん。よく頑張ったね。今日はもう帰ってもいいから」
「ありがとうございます!」
夢だからなんでもありだった、
那乃は帰宅途中で、大好きな喫茶店によって、プリンを食べる。
クリームたっぷりのプリンに香りのよいコーヒー。
(夢の中だけど、美味しいって思えるんだよね)
幸せを堪能した後に、目覚まし時計によって起こされる。
そして現実世界に戻され、彼女は嫌な気持ちになる。けれども仕方ない。
ーー働く者食うべからず。
社会人になったら家を出る、がモットーの家で育ったため、那乃は家から離れた会社に就職。
一人暮らしを始めた。
彼女は家でも家事を担当していたので、一人暮らしで困ることはなかった。
けれども、朝食はおざなりになってしまい、大概菓子パンになってしまう。
那乃は夢で食べたプリンの味を思い出しながら、パンを頬張る。
喫茶店で飲んだコーヒーには大分劣るが、お気に入りのコーヒーをドリップしたものをじっくり味わう。
(コーヒーはやはり美味しい)
那乃は食器を片付けると、出勤。
現実の橘は今日も元気で、注意されないように仕事に集中する。
同じミスだけはしまいと思い、黙々と仕事した結果、五時がやってきた。
金曜日は橘の帰りが早く、周りも同様だ。
というのは、彼女が自分より早く帰る社員を見ると嫌味をいったりするので、彼女より早く帰りづらいのだ。
橘はお局的ポジションで、新人いびり以外にも他の社員に対しても厳しい。
けれども、面と向かって彼女に文句言える人が誰もおらず、この状態が続いているようだった。
橘が帰ると、他の皆も帰り支度を始める。
那乃もそうで、みんなと一緒にお疲れ様と会社を出た。
電車の中で席が空いていて、周りを見渡してもお年寄りや、妊婦さんが見当たらず、那乃は遠慮なく座らせてもらった。
隣の席の男性の顔が視界に入り、その整った顔に慄いてしまった。
那乃はイケメンで苦手だった。
というのは、イケメンとどうして接していいかわからないのだ。変な誤解されてるのも嫌だったので、極力違う方向を見るようにした。
疲れてもいたし、那乃は椅子に座り続ける。
隣なので、横目で彼の動きはわかる。
彼はウトウトと居眠りをしていた。
邪魔にならないように、那乃は少しズレてスペースを取るようにした。
しかし、イケメンの頭が電車の動きと連動するように左右に揺れ始める。
そしてついに那乃の肩に置かれ、ひゃーと変な声を出しそうになった時、急に眠気が襲ってきた。
それはまるで麻酔薬を打たれたようで、信じれないことに那乃はそのまま眠りに落ちてしまった。