👉お題
ライブ中継、怖い話、変身
👉タイトルを考える
Deep Fake Horror
『ねぇ、◯◯さん。僕の話を聞いてください』
ヘッドホン越しに、今にも泣きそうな男性の声が木霊した。目の前のディスプレイには通話を示すアイコンが静かに鎮座して右上にライブ配信のマークが今も中継していると主張している。
見慣れたマークの中で耳は再度、音に傾けて増え続ける同接数と騒ぐコメント欄に目を通していた。
『AI生成イラストって、最近になって人気になったじゃないですか。ほら、誰でも簡単な単語と単語を組み合わせれば、どんなものだって作れるんです。
イラストも、アニメーションも、作文も、音楽も……もう、人の手の創作なんて意味ないみたいなことを言う人だっています。
……でもね、◯◯さん。そういうのって、怖くないですか?』
長々とした手前、投稿者が一息つく音を感じる。間を置いて僕も言葉を滑り出し、言葉が交わされるような演出を画面越しに届けていった。
「怖いって、どういうことですか?」
その一言を待ってましたと言わんばかりに向こうから声は続いた。
『AIが、なんでも作れるんです。文字通り、なんでも……それで、僕……とんでもないものを作っちゃったみたいで』
「どんなものですか?」
言葉を誘うキャッチボールを投げ、ボールが向こうへ届いた感覚がする。コメント欄には今も言葉が飛び交っている。
『“呪い”です』
「呪い?」
『……さっきも仰った通り、AIはイラストを作れますよね?インターネットには所謂“呪い”が枕言葉になったようなものが多いですから、それらを再現するイラストなんかをAIを使って生成して、SNSに投稿していたんです。
その中で、変なコメントがあって……今、そこのスクショを送りますね』
飛び交う声の中で、パソコンを指が叩く無機質な音が響き、ディスプレイに添付された画像の通知が浮かび上がる。船のように浮かんだそれをクリックし、開いた画像は某SNSのコメントの『この画像、なんかヤバくない?』という若者の何気ない一言。それを皮切りに、似たようなコメントがちらほらと顕在し、体調不良を訴えるものまでと様々だった。
「……どんな画像なんですか?」
『インターネットで散々ネタにされている……3回見たら、死ぬ絵ってやつです。ズジスワフ・ベクシンスキーのものとか、有名ですね』
「ああ、あの……」
コメント欄が騒ぎに騒いで『それ知ってる!』とか『3回見たことある』と騒ぎ始める。良い調子だ。
『それで、例のコメントの一番最初の人のコメントを見たんですが、有名人とかなんでもなくて……有名人なら、その人に影響されて、で騒がれることはあるんですけど』
「へぇ、不思議ですね」
『◯◯さんは、そういうのってないですか?』
「いやぁ……どうだろうなぁ」
謙虚そうな言葉を並べ立てつつ、登録者の数を見た。あり得ない話では、ないかもしれない。
「それで、そのコメントはどうなったんですか?」
『最初にコメントなさった方にDMして、「なんで、こんなコメントをしたのか」って聞きました。そしたら、その方とは繋がらなくて』
「じゃあ、それでいいじゃないですか」
『いえ……◯◯さん、ここからなんです。その方、僕が投稿した画像を見た後に縊死されたらしくて』
「縊死?」
『あっ、首吊りのことです』
「……ああ……それは、なんとも……」
『僕、どうにも居た堪れなくなって、他にも似たようなコメントをした方に話を通したら、ノリでやっていた方の中に他にも亡くなっていらっしゃる方がいて……だから、◯◯さん…僕、本物の“呪い”を作ってしまったんじゃないかなって……』
「いくらなんでも、それはないでしょう」
コメント欄が、騒がしい。
『いいえ!そうじゃないなら、他人が一斉に同じ画像を見て死んだなんて意味不明じゃないですか!』
「偶々って説も……」
『でも、でも、でも……!』
「だって、所詮……AIが生成したイラストですよ?どんなものか、見せて下さいよ」
『けど、◯◯さん……!』
「たかがイラストですよ、ほら」
言葉が相手にぶつかる感覚がして、壁が崩れていく。顔は口角をあげて送られた画像を開こうとしている。
『◯◯さん、僕が作ったのは……AIが、作ったのは……きっと、普通のものじゃないんです』
コメント欄と同じように騒ぐ投稿者を無視して、開かれた画像を目に焼き映す。何もないダウンロード画面の先で、微笑むだけの可愛らしい少女。その少女の顔がいやに歪んで、普通の画像とは思えないほどにのたうち回り、僕と同じような顔に変身していく。そうして、できた画像は微笑むだけの僕だった。
コメント欄には今も尚、騒がれて『怖い』と似たような言葉が流れる。首筋には冷や汗が流れ、脳が否定を警告して鐘を鳴らす。
ふと、投稿者の声がヘッドホンから遠く響いた。
『偽物を、本物にしてしまったのは……やっぱり、ダメだったんだと思います』