・冒頭追加分
恒常的に続く気温上昇は、ついに日本から四季を消し去った。
通年40度を超える異常気象の継続に、ついに日本はその政府機能を喪失。乾ききった大地を残して、人々は地下へと逃れた。社会機能を復帰することもできず、人々は地下世界で、未だ少数の集落を作って、かろうじて生き延びている――。
・続き
アキラにはなにもわからない。考えれば考えるほど、わからなくなる。わからなくなるのに、不安と疑念が大きくなるのだけははっきりとわかった。
「アキラ、おはよう」
「わっ!」
考え込んでいたところに後ろから声をかけられて、アキラは思わず声を上げてしまった。キョウコはその様子を見て、おかしそうに笑う。その笑顔に、アキラは救われた気分になった。
「どうしたの、ぼーっとして。考え事でもしてた?」
いつものようにキョウコと「拝水」の列に並びながら、アキラは周囲を見渡した。いつもの列だ。……あの老人はいない。当然だ。死んだのだから。だから今日の列に、「水が我々を殺しているのだ」などという世迷言を叫ぶ不審者はいない。
だが……あれは本当に、死にかけの老人の世迷言だったのだろうか。アキラの脳裏に、死に際の老人の眼光が蘇る。あの、落ち窪んだ眼窩からまっすぐアキラを見据えていた眼光。あの眼光に、アキラは拭いきれない真実味を感じていた。どうしても戯言の類として切り捨てることができない。
「なあキョウコ、もし、もしだぞ? 俺たちが毎日飲んでるこの水が……」
「げほ、げほっ……!」
アキラが精一杯さり気なくそう聞いたとき、キョウコは身を負って激しく咳き込んだ。いつもの軽い咳ではない。アキラは背筋を伝う悪寒に突き動かされるように、さらに咳き込んでいるキョウコを抱き起こす。周りの大人たちが異常に気づき、キョウコを粗末な担架に乗せて運んでいくのを、アキラも足早に追う。
「おい、キョウコ! 大丈夫か!?」
担架に揺られているキョウコは、返事もできずにまだ咳き込んでいる。その顔は青ざめ、今にも意識を失いそうだ。その手を、アキラはぎゅうっと握りしめる。この手を離せば、今日この命はこの肉体から脱け出てしまう、そんな強迫観念すらあった。
担架に乗せられたキョウコが担ぎ込まれたのは、集落で唯一の医者のところだった。