続きをやります。
今日の朝の続きです。
今日中に終わらせたいので、頑張ります。
 妹の結衣がまた看病にやって来た。
 別にこれくらい、アタシ一人で治せるのに。家族LINEで母親に体調を聞かれたので、風邪気味だと答えたら、すぐこれだ。
 アタシは高校生になり、できるだけ高校の近くで暮らしたいため、一人暮らしをし始めた。
 とは言え、妹が住む実家も同じ地域内にあるので、近いというわけだが。
 結衣は多分、台所でお粥を作り終えたところで、私が布団で寝ている傍に座り、右耳をホットタオルで優しく擦りながら、話し掛けてきた。
「お姉ちゃんったら、また風邪引いちゃって。やっぱり一人暮らしじゃなくて一緒に住みましょうよ、近いんですから」
「でもギリギリまで、寝ていたくて」
 言葉にしてみると本当にカス過ぎるが、実際にそうなんだから仕方ない。
 幸い、うちの家庭はお金に余裕があるため、バイトしなくてもこうして一人暮らしができている。
 やっぱり一人暮らしは自由度が”強い”のだ。
 結衣は笑顔で語りかけてくる。
「私はお姉ちゃんと違って健康なわけですが、お風呂入った? 入ってない? 入ってないでしょ?」
「まあ入ってないけど」
「だから私がホットタオルで拭いてあげますから安心してっ。お姉ちゃんは布団で寝ているだけでいいですからぁ」
「別にお風呂は一日くらい入らなくてもいいし、拭くのも大丈夫だって」
 と言いつつも、耳を拭いてもらっていることの抵抗はしない。アタシは生粋のぐうたらだから。
 結衣は少し呆れるように、
「ホント、家族のLINEでまた風邪気味って、本当、お腹出して寝たんじゃないんですか? お腹は冷やしちゃダメだって毎回言ってるでしょ?」
 ……図星だ。
 でも暖房最高潮の部屋で腹を出して涼しさを演出するヤツ、あれは気持ち良過ぎるのだ。
 まあそのまま寝てしまったら、暖房も三時間で停止して、冷えたまま熟睡してしまって結果がこれなわけだが。
 結衣は何だか少し嬉しそうに、
「やっぱり私がいなきゃダメなんですからぁ、本当にさ、一緒に住めばいいんじゃないの? 私と。そりゃお父さんやお母さんはうるさいですけど、私はお姉ちゃんと一緒がいいですっ。まあこうやってやって来ることも何だかワクワクして楽しいですけどねっ」
 その時だった。
 玄関が勝手に開いたと思ったら、ドタバタと足音がこっちへ向かってきて、ドアを開けると同時に、
「なのー! 看病しに来たのー!」
 幼馴染の真乃が入ってきた。
 アタシは一人暮らししていることにより、実家よりも真乃の家に近くなった。
 真乃とは同じ高校に通っているので、アタシが風邪で休んだことを高校で知ったみたいだ。
 結衣は不満げに「ん!」と声を出し、真乃は目を丸くしながら、
「ひゃー! また妹ちゃんがいるのー! 妹ちゃんと付き合ってるのーっ?」
 と、トンチンカンなことを言い、結衣は、
「まだ付き合ってません。それよりもどうして貴方がいるんですか」
 と、さらにトンチンカンな返しをした。まだって、結衣と付き合うはずがない。
 真乃は結衣の質問に答えるように、
「そりゃ高校に来てないって情報を情報屋から得たからなの!」
 情報屋ではなくて、自分の足でだろ、とは言わない。口に出すことが面倒なので。
 結衣はピシャリと、
「まずお静かに。お姉ちゃんは病人なので落ち着いて喋りましょう」
 真乃は頷きながら、
「なの、確かにそうなの」
 結衣は深呼吸してから、
「で、情報屋……情報屋? 高校ってそんな裏社会と繋がっているの?」
 情報屋に引っ掛かるな。絶対重要な言葉じゃない。
 普通に同じ高校に通っていることくらい、結衣だって知っているはずだが。冷静に考えてほしいものだ。
 真乃はニヤリと笑ってから、
「もう何でも裏なの、高校生になったら何でも裏モノなの」
 と訳の分からんことを言うから、私はもうふて寝をするしかない。
 結衣は軽蔑するような瞳で、
「何だか分からないけども汚らわしい。やっぱりお姉ちゃんは家族と一緒にいることが一番ですね」
 真乃はムッとしてから、
「そんなことないの、真乃と一緒のほうが百倍真乃なの」
 結衣は呆れながら、
「そりゃ貴方は百倍になるでしょうけども」
 真乃はキリッとした表情で、
「とにかくこういうのは幼馴染が看病したほうがポイント高いの」
 真乃は結衣が既に用意していた、替えのホットタオルを掴んで、
「真乃も拭いてあげるのー」
 と言いながら、私の左耳を優しく拭き始めた。両耳ホットタオル状態だ。何だかちょっとだけ嬉しい。
 結衣は肩を落としながら、
「私が用意したホットタオルなのに……」
 真乃は何故か自信満々で、
「看病は共同作業なの」
 結衣は真乃から顔を逸らしながら、
「お姉ちゃんと私のね。貴方は関係無いんですから」
 別に結衣とも共同作業をする気は無いわけだが。
 勝手に拭いてもらっている分には気持ちが良いので、スルーしておこう。
 真乃は語気を強めながら、
「真乃はめっちゃ関係しているの。幼馴染なの」
 結衣は返り討ちにしてやったみたいな顔で、
「姉妹の仲からしたら些細な関係ですね」
 真乃は矢継ぎ早に、
「相場は幼馴染なの」
 結衣はフフッと笑ってから、
「そんなことありません。妹は最強です」
 真乃も不敵に笑ってから、
「妹は滑り止めなの」
 結衣は軽く舌打ちしてから、
「私は格下じゃありません」
 真乃は相手にしていないというような遠い目で、
「幼馴染が正ヒロインなの」
 結衣は即座に、
「その時代はもう終わりました」
 と返せば、真乃もすかさず、
「まあ別にいいの、一般論はどうでもいいの」
 結衣は素早く、
「それはこっちの台詞です」
 と言って、ちょっとした間が生まれた。
 いや、どっちも別に違うし、ヒロインはアタシだろ。
 ヒロインのアタシがイケメン白馬の王子様(または、キャタピラ軍人)と出会うんだろ。
 真乃はアタシに話し掛けるように、
「真乃のホットタオル屋さん、開業なの」
 結衣は嫌そうな面持ちで、
「そんなお店はありません、一般的感覚が無さ過ぎです」
 真乃はそんなのは無視って感じで、
「耳裏すりすりなの」
 結衣はすぐに、
「優しくしないとダメですからね」
 真乃は「すりすり」と声を出しながら、擦ってくる。
 すると結衣も負けじと「すりすり」と言いながら、擦ってくる。
 何ターンかやり合ったのち、真乃が、
「耳穴すりすり屋さんも兼業しているの」
 と言えば、結衣が、
「業種が変なタイトル過ぎです。ふざけないでください」
 真乃は「すっ、すっ、すー」と言いながら、耳の穴を擦って何だかくすぐったい。
 でも力は強過ぎず、非常に心地が良い。
 対する結衣もそうしてきて、真乃よりソフトタッチで何だか気持ちがふわふわしてくる。
 またしても二人で「すっ、すっ、すー」と言い合って繰り返したのち、真乃が突然、
「ここからはフリースタイルの時間なの」
 と言うと、結衣が不機嫌そうに、
「最初からそうです」
 真乃はフフンと何故か得意げに笑ってから、
「いや今までの真乃は業種に縛られていたから自由が利かなかったの」
 結衣は呆れるように、
「勝手にやっているだけなのに」
 結衣と真乃はそれぞれ、またオノマトペを囁きながらホットタオルで耳周辺を優しく擦ってくる。
 アタシは結衣に対しても、真乃に対しても特別な感情は無いのだが、こうやって気持ち良くマッサージのようなことをしてくれることは本当に有難いと思っている。だから二人のやり取りにも文句を言わない。
 全てを受け入れる。最終的には銀行口座にお金とか振り込んで欲しいと割と本気でそう思っている。
 ふと真乃が、
「それにしてもまた風邪ってちょっと病気が多いの、真乃心配なの」
 すると結衣も即座に、
「私のほうが心配していますけどもね、ね、お姉ちゃん」
 真乃はムッとしてから、
「真乃の心配、五リットルなの」
 結衣は少し驚きながら、
「何故水分」
 真乃は続ける。
「汗五リットルなの」
 結衣は鼻で笑ってから、
「びちゃびちゃでクサそうですね」
 真乃は安心しきった顔で、
「でもその分、パートナーが良い香りなの」
 と、ほっこりすると結衣も同じようにほっこりして、
「なぁんだ、ちゃんと彼氏がいるのかぁ」
 と言ったところで真乃が、
「今、真乃が耳を擦っている子なの」
 結衣は真乃を睨みながら、
「えっ? 告白とかついに正規の手順を踏んだんですか?」
 真乃は依然やわらかい笑顔で、
「まだ非公式なの。真乃だけ承認している状態なの」
 結衣は馬鹿にしたように笑い、
「妄想でしたね。焦って損した」
 真乃は全く結衣のことは気にせず、
「良い香りなのー、くんくん」
 結衣は焦りながら、
「ちょっ、勝手にお姉ちゃんを香らないでください」
 真乃は一切やめる気もなく、
「好きな人の香りは良い香りなのー、くんくん」
 すると結衣も一緒になって、
「相思相愛のほうが良い香りですよね、くんくん」
 真乃はハッとしながら、
「何勝手に真乃のパートナーを香っているの……」
 結衣はハハッとカラ笑いしてから、
「そんな絶句されても。貴方のパートナーじゃないですから、お姉ちゃんは」
 どっちも違うんだけども。
 何でこんな恋愛的な意味合いで言ってくるんだ?
 まあ恋人というかパートナーって好きになった人の性別がたまたまどっちかという話だし、不思議なことではないけども。
 真乃は自信満々に、
「いずれそうなることになっているの、占いではっ、なのっ」
 結衣はフフッと笑ってから、
「占いなんかよりも、もっと大きい運命で結ばれていますからね、私たちは」
 真乃も負けじと、
「真乃とパートナーはもうものすごい太い綱で結ばれているの」
 結衣がすかさず、
「綱て」
 とツッコむように言うと、真乃は得意げに、
「いや出雲大社の注連縄なの」
 結衣は目を丸くしてから、
「出雲大社は絶対ダメです! ……じゃあ私も出雲大社で縁結びです」
 真乃は首を横に振ってから、
「ダメなの、出雲大社は真乃のワードなの」
 結衣も首をプイッとして、
「出雲大社はみんなのモノですから」
 真乃は少し焦りながら、
「ダメなのっ、この空間ではもう真乃のモノなの」
 結衣は意に介さず、
「そんなのありませんから。誰が言っても良いフレーズですから」
 真乃はムキーと口を山なりにさせてから、
「パクリなの。パクリは禁止しないといけない行為なの」
 結衣は毅然とした態度で、
「じゃあホットタオル返してください。これは私のホットタオルなので勝手に使うことは、いわばパクリです」
 そう来たか。
 せっかく二人からホットタオルをしてもらっていて気持ち良かったのに、これは困ったなぁ、と思っていると真乃が小声で、
「なの……出雲大社はみんなのワードなの……」
 と言ったので、事なきを得た、と思う。
 やっぱりダブルホットタオルは強過ぎるので。
 結衣は舌打ちをしてから、
「そう言うことによりホットタオルを返させないほうにしましたか」
 真乃の声量はまた通常に戻り、
「真乃はホットタオル屋さん、ずっとなの」
 結衣は冷たい感じで、
「そうですか、じゃあ勝手にやっていてください。ただし、あんまりお姉ちゃんを動かさないようにしてくださいね」
 真乃は自信満々に、
「勿論、安静にさせてあげるの」
 すると結衣がまるで動画の編集点を作るような「はい!」と言うと、
「お姉ちゃん、ここからは耳かきですよー。寝ながらで大丈夫、優しく、まずは綿棒でホットタオルの水気を取りましょうか」
 とアタシの右耳を綿棒で優しく擦り始めた。時にはタップするように、とんとんとんとんと右耳を鳴らしてくれて、何だかもうテクニシャンって感じ。
 本当に結衣はこういうのが上手いなぁ、と感心する上に本当に有難い。有難い祭り発動中だ。
 ちょっと経ってから真乃が、
「なのっ、これはもう大丈夫なの」
 とよく分からないことを言うと、結衣も分かっていないみたいで小首を傾げながら、
「何がですか? お姉ちゃんに耳かきしてあげないとダメなんですよ?」
 真乃は淡々と、
「真乃のホットタオルの話なの。耳かきはね、真乃も一式持ってきたの」
 キタコレと心の中でガッツポーズしたアタシ。
 これだから真乃を拒むことは絶対しない。
 結衣は少し真乃を認めるような声で、
「用意周到ですね」
 真乃はフフッと笑ってから、
「だってまた風邪って聞いたから、そりゃ持ってくるの」
 結衣は諫めるように、
「まあ手元が狂わないようにしてくださいね」
 真乃も頷きながら、
「それは分かっているの」
 左耳も綿棒で真乃が擦り始めた。
 真乃の擦り方は若干音圧強めだが、それでアタシの耳の中がおかしくなったことはないので、全然大丈夫だ。これも有難い。
 結衣は囁くように、
「優しく、優しく」
 真乃は少し頑張るように、
「なのっ、なのっ」
 と繰り返す時間が少しあったところで、結衣が、
「何なんですか、貴方の”なの”って」
 真乃はうんと頷いてから、
「真乃の名前の”ノ”を強く込めたいの。脳に響かせたいの。つまり一種の洗脳なの」
 結衣は目を見開きながら、
「じゃあ絶対ダメですけども」
 真乃は少し焦りながら、
「うそうそ、口癖なの」
 結衣は溜息をついてから、
「口癖なら仕方無いですけども。でも洗脳だったら力づくで押し返しますからね。貴方にもお姉ちゃんを看病したいという、ちゃんとした気持ちがある、ということは理解していますので、だから無下に扱っていないだけですからね」
 すると真乃のほうから「チュッ」という音が響いて、それに即座に結衣が目を光らせながら、
「今何しましたか?」
 真乃は漫然と、
「音だけなの、口は付けてないの」
 結衣は少し声を震わせながら、
「今日またしたら無理やり押し出しますからね、窓から」
 真乃は身体全体を震わせながら、
「ここ二階なの……もうしないの……」
 結衣は溜息交じりに、
「全く、何でこんな悪い虫が付くんですかね」
 真乃は笑顔で、
「パートナーが良い香りの花過ぎるのー、くんくん」
 結衣はムッとしながら、
「お姉ちゃんが良い香りの花ということは認めますが、香ることは許可できません」
 真乃は照れ笑いを浮かべながら、
「へへへへへー、そろそろ耳かきに変えるの」
 結衣もすかさず、
「それなら私だって」
 と言って、綿棒から竹耳かきに代わった。
 結衣も真乃も同じように「かりかりかりー」と囁きながら、優しく竹耳かきをしてくれている。
 竹耳かきは綿棒と違って硬めなので、真乃のほうも強さは非常に控えめで優しくしてくれている。
 めっちゃ心地良い。有難うショコラ。
 すると徐々に真乃のほうだけ「かりかりなのー」と言っていることに気付いた、のは結衣も同じタイミングだった。
「また”なの”って言ってますね」
 真乃は冷静に、
「まず妹ちゃんから洗脳することにしたの」
 結衣はムッとしながら、
「同じ空間にいるお姉ちゃんにも利きませんか、それ」
 真乃は得意げに、
「流れ弾は御愛嬌なの」
 すると結衣が語気を強めて、
「押し返します。窓のほうへ」
 真乃は慌てながら、
「嘘なのっ、冗談なのっ」
 結衣は大きな溜息をついてから、
「それならいいですけども」
 真乃は話を変えるように少しだけ大きな声で、
「耳かきは優しくするのー」
 結衣は落ち着いた声で、
「それはそうですよ、敏感な部位ですから」
 真乃はまた囁き声に戻って、
「ビンビンカンカンなのー」
 結衣は疑問符のある声で、
「空き瓶・空き缶回収でもしているんですか」
 真乃は満面の笑みで、
「ビンビンなのー」
 結衣は小首を傾げながら、
「ビンビン……?」
 真乃は同じトーンで、
「ビンビンなのー」
 結衣は呆れるような笑みを浮かべながら、
「あんまり良いオノマトペじゃないですよ、貴方は無邪気過ぎですね」
 真乃は笑顔を崩さず、
「高校では無知と言われているの」
 結衣は少し憐れみの目で、
「直球でディスられているんですね」
 真乃は意に介さず、
「でもパートナーは分け隔てなく接してくれて優しいのー」
 結衣は少し自慢げに、
「貴方のパートナーではないですが、お姉ちゃんはそういう人ですからね」
 真乃は満面の笑みで、
「大好きなのー」
 結衣は呆れるように、
「ハッキリ口にしてしまうんですね」
 真乃はほっこりとした面持ちで、
「しちゃうのー」
 結衣はキリッとした目で、
「でも私のほうが好きですからね」
 真乃はもう自分の世界に入り込んでいるような顔で、
「好きさは真乃のほうが上なの」
 結衣は矢継ぎ早に、
「そんなことないですけども」
 真乃は同じトーンで、
「どのくらい好きかと言うと、タッパのお粥、用意したの」
 結衣が鼻で笑ってから、
「何か汚いですね、タッパのお粥。私が作っておいたモノがあるので大丈夫です」
 真乃はカバンからタッパのお粥を出しながら、
「真乃のタッパお粥食べるのー」
 と言ったところで結衣が焦りながら、
「ちょっ、今私が台所からお粥持ってきますから、お兄ちゃんはお口チャックでガードしてくださいね」
 真乃がいなくなった隙にといった感じで、真乃が少し早口で喋り出した。
「なのー、真乃のお粥ー。作る時ちょっとだけ汗垂れちゃってるけど、後は平和なの。平和汁なの。真乃のお粥は平和になれる平和汁なの。食べちゃうの、食べちゃうの、大丈夫なの。妹ちゃんが来る前に一口いっちゃえばいいの。全然洗脳する、洗脳汁じゃないから大丈夫なの。真乃は正攻法なの。洗脳とか怪しい方法は使わないの。そもそも使えないの、知っての通り賢くないの。お粥作るだけでもいっぱいいっぱいなの。いっぱいいっぱいさんなの。一杯作るだけでいっぱいいっぱいさんなの」
 グイグイと口に押し込んでくるわけだが、真乃が料理下手なのは知っている上に、なんと言ってもタッパに入ったご飯とか食べる本当に無理なので拒んでいると、結衣が戻ってきて、
「ちょっと、無理やりスプーンを押し込もうとしないでください」
 真乃がシュンとスプーンをさげながら、
「口移しにすれば良かったの。そうすれば押し込めなくてもキスだったの」
 結衣はバカにするように笑ってから、
「作戦がアホ過ぎる。それ絶対やらないでください」
 真乃は肩を落としてから、
「しょうがない、真乃がお粥、自分で食べるの」
 そう言って真乃が自分のお粥をもちゃもちゃと食べ始めた。
 真乃の咀嚼音が左耳から聞こえてくる。アタシは割と咀嚼音が好きなほうだ。こういう寝たい時は特にグッド。
 勿論知らんジジイの咀嚼音とか聞きたくもないが、真乃は幼馴染なので全然慣れているというか、別に好きなくらいだ。
 そう考えるとアタシは真乃のことを拒絶しているわけではないらしい、いやでもずっと友達なわけだし当たり前か。
 真乃はアタシとパートナーになりたいとか言っているけども、まあ仲が良いわけだから、その選択肢もありえるというわけか。
 可能性は可能性としての話だが。
 そんなことを考えていると結衣がムッとしながら、
「何かちょっと、貴方の顔とお姉ちゃんの耳が近いですね、まあいいでしょう。お姉ちゃん、私のお粥食べてくださいね……ちょっと熱かったですか? ふーふーしますね」
 すると結衣のふーふーする音が右耳に掛かって、何だかくすぐったい。
 でもこういう音、嫌いじゃないよなぁ、というか結衣だから大丈夫どころか良いまであって。
 これが知らんジジイなら絶対に嫌だけども、結衣なら全然良い。気持ちが良いくらいだ。やっぱり結衣にもアタシは心を開いているんだぁ、といった感じだ。
 依然、真乃の咀嚼音を聞きながらも、結衣が、
「はい、お姉ちゃん。私も自分の分、少し食べようっと」
 すると結衣の咀嚼音が右耳から聞こえだした。別にこれも悪くない。良いくらいだ。
 真乃がうんと力強く頷いてから、
「やっぱり看病も力つけないとダメなの」
 結衣も同調するように、
「そうですね、体力勝負ですからね」
 真乃は自嘲気味に笑いながら、
「でもまさか自分で自分のお粥食べることになるなんて、なのっ」
 結衣は呆れるように、
「いつものことじゃないですか、いい加減学んでください。お姉ちゃんはタッパに入った食べ物は食べないって」
 真乃は少し照れながら、
「毎回看病に来るけども、今日こそはと思っちゃうの」
 結衣は溜息交じりに、、
「そんな、関係が変わることなんてないですから。私とお姉ちゃんがより親密になること以外」
 真乃は首をブンブン横に振るってから、
「真乃もすごいことになるかもしれないの」
 結衣はハハッとバカにするように笑ってから、
「まあすごいことになってから口移しに展開してくださいね、せめて。そんなことは無いと思いますけども」
 真乃はぐっと力を入れながら、
「真乃は負けないの」
 結衣はそんなのは無視するように、
「お粥、ゆっくり食べてくださいね」
 とアタシに語り掛けた。
 時折結衣のふーふー音が右耳に掛かる。
 心地良い、安心する音だ。
 なんというか、寝ている時にこう両耳から音が聞こえるとお姫様みたいな気持ちになる。
 実際のところ、左耳の咀嚼音からお姫様を連想することはおかしな話なわけだけども。
 なんせ多少なりに心を許している相手の咀嚼音だから全然嫌じゃない。
 すると結衣が満面の笑みで、
「やっぱりお姉ちゃんは私が作ったモノしか食べないんですから」
 真乃が相槌を打つような早さで、
「普通に購買のパン食べているのー」
 結衣はムッとしながら、
「そういうことじゃないです。プロの作ったモノは食べますからね、ファミレスとかでも」
 真乃は返す刀で、
「じゃあ真乃はプロのファミレス屋さんをやるのー」
 結衣は少し弱々しい声で、
「飲食店は難しいですよ」
 真乃は反比例するかのように元気な声で、
「なのー、真乃はテクニシャンなので大丈夫なのー」
 結衣は疑問符を浮かべながら、
「その片鱗、一切見えませんけども?」
 真乃は意に介さず、
「能ある鷹は爪を隠す、なのー」
 結衣は少し呆れるように、
「爪隠し過ぎなので、もうちょっと出したほうがいいですよ」
 真乃は屈託のない笑顔で、
「アドバイスありがとうなの」
 結衣はちょっと鼻で笑ってから、
「アホ過ぎってことですよ」
 真乃はうんと力強く頷いてから、
「自覚はあるの」
 結衣はう~んと唸ってから、
「じゃあ逆にアホじゃないですね」
 真乃は首を横に振ってから、
「ううん、しっかり、じっとりアホなの」
 結衣はちょっと驚くように、
「そんな、湿り気あるアホって嫌ですね」
 真乃はちょっと俯きがちに、
「根暗なアホなの」
 結衣は少し心配するような声のトーンで、
「明るくあってほしいものですね」
 真乃は淡々と、
「もうSNSはやるなって言われているの」
 結衣は少し神妙に、
「ヤバかった時があったんですね」
 すると真乃はスプーンをタッパに入れて閉めながら、
「なのー、真乃お腹いっぱいなの」
 結衣は少し間をとってから、
「……まあ確かに、いつもお兄ちゃんは食べないのに、タッパ・パンパンでお粥入れてくるのは、じっとりとしたアホですね」
 真乃は遠くを見ながら、
「こんなにお腹いっぱいなんてあれ以来なの」
 結衣は少し興味ある感じで、
「何かあったんですか」
 真乃はずっと遠くを見ながら、
「何以来から覚えていないけども、確かにあったの」
 結衣はピシャリと言うか感じで、
「覚えていないなら、あれ以来と走り出さないでください」
 真乃は聞くような感じで、
「何以来だと思うのー? なのー」
 結衣は少し困惑しつつも、
「他人に他人の思い出を聞かないでください。普通にビュッフェとかじゃないんですか?」
 真乃は目を輝かせながら、
「それなのー」
 結衣はちょっと口をあんぐりさせてから、
「合ってたんですか」
 真乃は恥ずかしそうに笑いながら、
「ビュッフェという言葉、フェの印象が強すぎて覚えられないのー」
 結衣は疑問符を浮かべながら、
「印象が強いなら覚えられるのではないでしょうか」
 真乃はへへっと笑ってから、
「フェはもうあれしかないの」
 結衣は少し前のめりになって、
「あれって何ですか」
 真乃はぐっと語気を強めて、
「笛ラムネ!」
 結衣は冷静に、
「じゃあフェじゃなくて笛ですね」
 すると真乃はうんうん頷いてから、
「妹ちゃんは賢いのー……外堀ー」
 結衣は毅然とした態度で、
「埋まりません。そんなんでは。あと外堀って言わないほうが賢いですし」
 真乃は自分のお腹をさすりながら、
「それにしても真乃、お腹いっぱいで眠くなってきたの」
 結衣は呆れるように、
「いつもそうですね」
 真乃はフフッと笑ってから、
「また添い寝しちゃうの」
 結衣は溜息交じりに、
「添い寝、というか貴方はもうガチ寝じゃないですか」
 真乃はフフンと何故か得意げに、
「どうせ妹ちゃんが居てくれるから、ちょうどいい頃合いで起こしてくれるの」
 結衣はアホらしいといったか感じに、
「私ありきで考えないでください。一人だったらどうする気なんですか」
 真乃はうっとりしながら、
「一人だったら秘密の花園なの」
 結衣は眉毛を八の字にしながら、
「よく分かりませんが良くないですね。分かりました、私は毎回お姉ちゃんの看病に来ようと思います」
 真乃はアタシに顔を近付けて、
「秘密の花園、つまりパートナーが良い香りの花だけに、くんくんなの」
 結衣は嫌そうに、
「また香った。もう香るのはよしてください」
 真乃は意に介さず、
「くんくんなのー」
 と言って、真乃の寝息が軽く左耳に当たるようになってきた。
 まあ寝息は鼻息だけども、嫌なヤツの鼻息ではないから別にいい。
 というか鼻息も寝息なら、やや安心するくらいだ。
 結衣は負けじと、といった感じに、
「貴方、もう添い寝しちゃって。私だって添い寝するんですから」
 すると真乃はまだ寝ていなかったようで喋り出した。
「最近は妹ちゃんも一緒に添い寝するねー」
 まあさすがにまだ寝ていないか、じゃあ鼻息か、でもまあいいか。
 今度は結衣の吐息も右耳に当たるようになってきた。
 結衣の顔もアタシの顔の近くになってきたので、結衣は囁くように喋る。
「当たり前です。何で添い寝しているところを見ていないといけないんですか。私も同じ目線でお姉ちゃんと一緒に添い寝したいですから」
 真乃も囁くように、
「真乃も負けてられないなのー」
 結衣はカラ笑いをしてから、
「こういうのに勝ち負けないですけどもね」
 真乃はちょっとだけ語気を強めて、
「真乃は添い寝屋さんなのー」
 結衣は少し不安そうに、
「ちょっとだけ風営法に引っ掛かりそうですね」
 真乃は矢継ぎ早に、
「触れないから大丈夫なのー」
 結衣はムッとするような声で、
「触れたら叩いて起こしますけどね」
 真乃は即座に、
「叩かれることはネットだけにしてほしいの」
 結衣は呆れるように、
「ネットも嫌ですけどね、というか本当にSNSしないほうがいいですね、貴方は。そういう経験があるのならば」
 真乃は声は小さいけども、しっかりとした滑舌で、
「あわや今後の人生にも影響するところだったのー」
 結衣は心配そうに、
「一体何をしでかしたんですか」
 真乃はちょっと間をとってから、
「でもパートナーが止めてくれて、難を逃れたのー。だから大好きなのー、ふー」
 という、真乃の長い息が左耳に掛かった。
 結衣は「もう」と不安そうな声を出してから、
「ちょっと思い出して、深い溜息出ちゃってるじゃないですか」
 真乃はちょっと落ち込んでいる声で、
「一瞬ナーバスになったの」
 結衣はうんと頷いてから、
「でもやっぱりお姉ちゃんは、人のことを助けられる素晴らしい人なんですね」
 真乃は嬉しそうに、
「そうなのー、最高のパートナーなのー。だからいずれ結婚すると思うのー」
 結衣は少し語気を強めて、
「お姉ちゃんは貴方とは結婚しませんよね、私とずっと一緒ですよね」
 真乃は「ううん」と言ってから、
「それは分からないの未来は常に未知数なの」
 結衣も納得するように
「そうですね、それは私とお姉ちゃんの行方もそうですね」
 真乃はすぐさま、
「負けられないのー、むにゃー」
 結衣は呆れるように、
「負けられないタイミングで眠くなるの、もう負けでいいですよね?」
 真乃はもう会話にはならないようで「むにゃ、むにゃ、なのー」とか意味の無い言葉を発している。
 未来の行方は分からないか。確かにそうなのかもしれない。
 結局好きとなった時に好きになり、今の時代、性別とかも関係無いんだから、全てはアタシの気持ち次第ってところだ。
 自分のことなんて全然自分で分からないからなぁ。こういう日々を許容するとも思っていなかったし。許容どころか気持ちが良いとも思っている。
 まあ難しいことは考えず、アタシも寝れたら寝ようかな。今、一応風邪気味だし。
 結衣はちょっと驚きながら、
「もしかするとまたマジ寝するつもりですか」
 真乃はもう返答しない。
 結衣は呆れるように
「すごいですね。まだ会話していたのに普通に寝にいきますよね」
 真乃は会話というよりも寝言みたいな感じで、
「もう限界なの……ふぅー」
 結衣は少し笑ってしまいながら、
「お腹いっぱいのガチ吐息じゃないんですよ」
 真乃のすーすーという寝息が聞こえてくる。結衣も静かに息をしている。そんな時だった。
 真乃が急に囁くように、
「すー、すー、むむむっ、デッカイ、蜂蜜、なの……」
 結衣は溜息交じりに、
「……お姉ちゃん、もう寝言喋ってますよ、真乃さんが。蜂蜜ってサイズじゃないですよね、瓶があればですけども」
 真乃は寝言で、
「ビンビン、あったの、五リットル瓶」
 結衣は軽くツッコむように、
「汗じゃないですか、いや汗で五リットルは死にますけども」
 真乃は寝言状態で、
「蜂蜜でお粥作るの」
 結衣はそれにいちいちツッコむ。
「新機軸ですね」
 真乃は寝言なので、淡々と喋っている。
 結衣はテンポ良く、言葉を挟んでいく。
「みつみつ、みつみつ」
「連呼する病ですね」
「みつみつ、みつみつ」
「言っていないと忘れてしまうほどアホなんですか?」
「見つからないの」
「五リットルもあったのに? 五リットルの瓶は目立ちますよね」
「蜂蜜汁」
「蜂蜜汁って何ですか」
「蜂蜜汁、逃げてしまったの」
「いやまず蜂蜜に汁って要らないですよね」
「平和な世界に蜂蜜は要らないようなの」
「要りますから、そんな武器じゃないですから、蜂蜜は」
「平和汁のおかげなの……」
「何ですか、その洗脳みたいな汁は」
「シルシル、シルシル」
 真乃はまるで起きているような早さで寝言を言うが、顔をチラリと確認すると、やっぱりちゃんと寝ているようだ。
 対する結衣はしっかり目を開けて、真乃の言うことに対応している。
「また唐突なオノマトペ」
 と呆れるように言った結衣。
「シルシル、シルシル」
「まあこんなオノマトペ無いですけども」
「シルクハット、見つからないの」
「いつからシルクハット探していたんですか」
「おやすみなさい」
「このタイミングで寝るんですか、というか寝言で『おやすみなさい』って何なんですか」
 すると真乃はまた寝息に戻って「すーすー」と言い出した。
 結衣がハッキリとアタシのほうを見ながら、
「何か私も眠くなってきました。お姉ちゃん、一緒に寝ちゃいましょう。私も寝ますからね」
 その刹那、すぐに結衣からも寝息が聞こえてきて、結衣もすぐに寝るほうなんだよなと思った。
 というか無防備に二人とも寝てしまって可愛い。ここは割と実直に可愛いと思う。
 寝息だけの時間が続いたのち、結衣がおもむろに喋り出した。
「お姉ちゃん、も、寝ている、のかな? あっ、起こしちゃった? ゴメン、ゴメン。お姉ちゃんは寝ていてください」
 そう言って立ち上がった。アタシは別に寝ていなかったけども。まあ休まったことは確かだ。
 結衣は台所に行き、コップと麦茶が入ったペットボトルを持ってきて、
「コップ、枕元に置いて、っと」
 と言いながら、コップに麦茶を注ぎだした。右耳の耳元で麦茶のこぽこぽという心地良い音が鳴る。
 すると真乃が寝起きのような声で、
「なの……麦茶の匂いなの……」
 と目を覚ました。
 結衣は疑問符を頭上に浮かべながら、
「麦茶ってそんなすごい匂いしないですけども」
 真乃は結衣に向かって、
「なの、真乃にはコーラがほしいの」
 結衣はクスッと笑ってから、
「寝起きにコーラってジャンクですね。あっ、お姉ちゃん、真乃さんにコーラあげていいですかっ。まあ真乃さんに冷蔵庫勝手に開けさせるのも嫌なんで、私が持ってきますね……はい、コップに、コーラ、っと」
 そう言って今度はアタシの左耳の耳元で、コーラの、炭酸の、しゅわしゅわという音が響いた。
 真乃はやけに自慢げに、
「なの、コーラは昔滋養強壮に良いと言われていたの」
 結衣は相槌を打つように、
「そうなんですかね」
 真乃は得意げに、
「漢方的な扱いだったの」
 結衣は唸り声をあげてから、
「う~ん、じっとりとしたアホだからなんとも」
 このタイミングでアタシは、
「やっぱりアタシもコーラがいいかな」
 と言ってみると、結衣が、
「じゃあこの麦茶は私が飲むことにして、っと」
 とまた立ち上がってコップを持ってきて、
「コップに、コーラで、はい」
 と右耳の耳元からしゅわしゅわという爽快な音が聞こえてきた。
 というかナチュラルに甘えてしまった。これはもう相思相愛と言われても文句言えないかも。
 でもまあいいか、アタシは別に妹の結衣のこと、家族としてちゃんと好きだし。
 真乃はアタシの耳元で、
「なのー、コーラ飲むと落ち着くのー、ふぅー」
 と吐息を漏らし、結衣は安心した声で、
「まあゲップじゃなくて良かったですけども」
 真乃は幸せそうに、
「真乃、すっかり健康になったの」
 結衣は溜息交じりに、
「勝手にお粥食ってコーラ飲んで健康にならないでください。いやなる分には良いんですけどもね」
 今度は真乃がアタシを気遣うように、
「体調良くなった、のー?」
 結衣はアタシのおでこに手を当てながら、
「おでこの温度は……悪くないですが、ちょっと汗をかいているようなので、今度は冷やしたタオルで顔の周りを拭きましょうかね」
 真乃は即座に、
「真乃も手伝うのー」
 結衣も頷きながら、
「じゃあ一応手伝ってください。せっかくいますから」
 真乃は嬉しそうに、
「やっぱり妹ちゃんは優しいのー」
 結衣は台所に立って、二本分のタオルを水で濡らして絞って、一本を真乃に渡して、
「それでは拭いていきますよ」
 冷やしたタオルで優しく顔を拭いてくれている。
 耳のあたりも丁寧に拭いてくれていて、くすぐったくて気持ちが良い。
 結衣は温かみのある声で、
「いきなり動くと大変なので、ちょっとマッサージもしていきますね」
 と肩回りは揉みこみ、時にはヘッドスパのようにゆるく頭もほぐしてくれている。
 結衣は甘い声で、
「お姉ちゃん、元気になってくださいねっ」
 真乃も同じようなトーンで、
「真乃も早く元気になって一緒に学校に行きたいと思っているのっ」
 すると結衣がふと、
「お姉ちゃんって学校ではどんな感じなんですか?」
 真乃は少し困惑しつつ、
「聞いてくるのー」
 結衣はちょっと早口で、
「だって気になりますからね、私はまだ中学生ですし」
 真乃はにっこり微笑みながら、
「いつも通り、いつも同じなの。いつも優しいの。困っていたらすぐ助けてくれるの」
 結衣は驚きながら、
「そんなに困ることあるんですか?」
 真乃はうんうん頷きながら、
「日直になるともうてんやわんやなの」
 結衣は小首を傾げながら、
「高校の日直って中学校と違うのかな?」
 真乃はすかさず、
「真乃は中学生の頃から日直は無理なの」
 結衣は納得したように、
「じっとりとしたアホなだけだったんですね」
 真乃はペースを変えず、嬉しそうに、
「そうなの、でもパートナーは実直なの。手伝ってくれて優しいの。自分の日直じゃないのに、なのっ」
 結衣は同調するように、
「お姉ちゃんは家でもそうですからね。今はこう一緒に住んでいませんが、私のことを一番に気に掛けてくれて」
 真乃が素早く、
「一番は真乃なの」
 と言えば、結衣もすかさず、
「いいえ、一番は私です」
 真乃は負けじと、
「一番はマノ、一択なの」
「そんなことありません」
 と結衣が矢継ぎ早に否定した。
 真乃はフフンと何だか得意げに、
「だって高校はクラス違うのに、日直手伝ってくれるの」
 結衣は溜息をついてから、
「そりゃクラス違うでしょ。貴方はスポーツ推薦で、お姉ちゃんは進学コースですからね」
 真乃はうふうふ笑いながら、
「ラインしたらすぐ駆けつけてくれるの」
 結衣はフンッといった感じに、
「私はラインが来たらすぐ駆けつけますけども」
 真乃はムムッといった感じに、
「良い勝負なの……」
 結衣はハンッといった感じに、
「私のほうが想っている度は高いですけどね」
 真乃はでもって感じで、
「真乃が応援きてほしいと言ったら応援来てくれるの」
 結衣は即座に、
「だから私はすぐにお姉ちゃんのもとへ応援に行くんですけどね」
 真乃はほほうといった感じに、
「良い勝負なの」
 結衣はちょっとバカにするように、
「貴方は与えてもらってばっかりですね」
 すると真乃は真面目な声で、
「つい甘えちゃうの。だからこそ看病だけはしっかりしたいのっ」
 結衣は語気を強めて、
「私はお姉ちゃんから来てと言われなくても、助けたくて看病しに来ているんです」
 真乃は目を光らせながら、
「良い勝負なの」
 すると結衣が、
「同じことしか言わないアホになっていませんか」
 真乃はゴクリと生唾を飲み込んでから、
「なってはいるの」
 結衣は少し驚きながら、
「自覚はあるんですね」
 真乃はハキハキと、
「語彙がそこまでないの」
 結衣は少し眉毛を八の字にして、
「しっかり自覚しているからこその悲しさはありますね」
 真乃はうんと強く頷いてから、
「それはあるの。十二分にあるの」
 結衣は毅然とした態度で、
「無くていいところですね」
 真乃は頷いてから、
「無くていいの」
 結衣は一息ついてから、
「でもまあそういう思ったことを全部口に出せる、さらけ出せるような素直さは良いと思いますよ」
 真乃は嬉しそうに、
「褒められちゃったの。これもう外堀埋まったの」
 結衣はピシャリと、
「全然埋まってませんから」
 真乃は力強く、
「外堀、いけぇーなのっ」
 結衣がすかさずm
「埋まっていないと言っているでしょう。改めて押したらいけるかもじゃないんですよ」
 真乃は少し残念そうに、
「でも真乃は押せ押せしかないの」
 結衣はフフっと笑ってから、
「意見を擦り合わせることも大切ですよ。こうやって耳裏をすりすりと優しくすりすりとね」
 真乃はハッとしてから、
「真乃だって、そのすりすりは上手いの。すりすり、すりすり、なのー」
 結衣も負けじと、
「すりすり、すりすり」
 とオノマトペを言っていったところで、真乃が一言。
「すりすり、すりすり、真乃はもうパートナーに心をスラれているの」
 結衣が即座に、
「そういう時はスリで例えるんじゃなくて、大泥棒にしたほうが壮大でいいですよ」
 真乃はなるほどといった感じに、
「確かにそうなの、オノマトペだけでいっちゃったの」
 結衣は矢継ぎ早に、
「悪い癖だと思います」
 真乃は頷いてから、
「理解したなの」
 結衣は同意するように、
「そうちゃんと言えることはいいですね」
 すると真乃がポツリと、
「外堀」
 結衣は憐れむような声で、
「本当に外堀だとしたら、口に出さないほうがいいですよ」
 何だかんだで、真乃と結衣は仲がいいと思う。
 というか、ボケ・ツッコミで言えば相性抜群だ。
 ずっと三人で楽しくやっていきたいと思っているが、楽しんでいるのは実はアタシだけかもしれない。
 上手いこと二人をその気にさせてというか、一切袖にせず、二人にやってもらうことをよしとしている。
 アタシ、悪女かも。
 まあいいか。ちょっとくらい楽しんだってバチは当たらないだろう。まだ時間はたっぷりあるのだから。
(了)
こんな感じでしょうか。
あとは軽く読み直して投稿します。
どうも有難うございました。
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