注文したオイルパスタは、意外とあぶらっぽかった。オイルパスタだから、油がたっぷりなのは覚悟していた。オリーブオイルだから、それなりに大丈夫だろうと思っていた。でも、だんだんと口にてかりが増していく感じがした。
口直しにコーヒーを飲む。2杯目だ。別に1杯で十分なのに、2杯目になっていた。
コーヒーを2杯飲むはめになったのは、目の前に座る女子中学生のせいだ。

もみ消された吸殻が、ひゅうひゅうと途切れ途切れに灰色を出す。
「大学、どうなの?」
また一つ、灰色が増えた。
「ああ…まあまあ」
「小説は」
すっかり沈黙が続いた。BGMのジャズが辛うじて聞こえた。
ふと、空気が指パッチンの音を、耳に伝えた。原因を見てみると、父親が指パッチンをした形跡があった。それを見た幼い男の子は、指を絡める。でも、空気はそれを伝えない。
「どうなのって」
「…佳作落ち」
小説家になりたくて、5年間ずっとやってきた。年2回行われる小説応募にも、10回チャレンジしてきた。2年目の夏に佳作を受賞して、今回、また佳作だった。佳作でも2番目のポジション。プロ寄りのアマチュア。それが評価だった。プロっぽくしているだけのアマチュア。
「へぇ」
一応、佳作でも3万円はもらえる。最優秀賞は20万円、優秀賞は10万円、秀作は5万円。
3万円で、目の前の彼女が吸う煙草が幾ら買えるのだろうか。ま、わたしは酒も煙草もしないつもりだけれど。
「今度の小説、わたしも手伝ったんだけどなぁ」
彼女はとくに賞金をせびる素振りはしなかった。本人も、たぶん全てのお金は煙草代に消える。そう自覚している。
目の前の彼女は|矢野綾音やのあやね、高校の同級生だ。いまは2人とも大学生だが、たまにこういうランチとかもする。
「ね…」
ランチといえば大体相場はパスタだ。朝はパン、昼はパスタ、夜はごはん。
「どこが駄目だったんだろう」
「審査員が…」
スマホで、メールをチェックする。そのまま批評を読み上げる。
要約すると、あなたの作品は非常にアマチュアとして優れていますが、プロの域にはいきません。しょせんアマチュアです。どこがおかしいなどはありませんが、プロはプロ、最優秀賞を受賞した人たちとはレベルが違う。しょせん佳作。
荒い言葉で端的に説明するとこうだった。
「もうっ、せっかく5万文字も書いたのに」
「ねぇ」
綾音が不機嫌そうに煙草を手にする。この店は煙草が吸えるので、綾音のお気に入り。
「恋愛話はウケないのかな」
「そんなことないでしょ。だって、佳作受賞したんでしょ?」
「でも、わたし、恋したことないんだよ?恋したことがない人の恋愛小説なんて、リアリティが全く違う。でもミステリーとかホラーは経験がまた難しいし、青春小説はなぁ」
「青春したことないのに?」
声に詰まる。
「それに、その理論でいくと、ホラー作家は心霊体験をたくさんしてるんでしょ。ミステリ作家は殺人現場に出くわすことが多い?そんなことないでしょ。そんなの、ノンフィクションに分類される」
「でも」
「…まぁ、まだいけるよ」
楽観的なのか厳しいのか。よくわからないと思いながら、ボロネーゼを片付けた。

今日は大学を休む。受けているが、いまいちよくわかっていない。本当に授業が人生の中で必要だったのかすらあやふやだ。
ブルーライトが眩しい。わたしはキーボードを打った。
「んあ…?」
目がかすむ。メガネが曇っているのか。画面に手を触れて、そういえばパソコンだったと思い直す。
途端。
「ひぁっ!?」
情けない声を出す。
少女がパソコンの画面から上半身を出す。
「何言ってるの?あなたが1番知ってるでしょ?」
滑らかで透明感のある声。
少し色素が薄めの癖っ毛。
空色のセーラー服。
にっこりする彼女は、有り得ない存在だった。
「…だれ」
「え?困るなぁ」
分かってるはずなのに?
分かってるんだ。分かってるから言っているんだ。
「わたしの名前は|花野菜乃葉はなのなのは!私立花原学園に通う中等部1年生なんだ!」
花野菜乃葉。ハナノナノハという特徴的で、ハとナとノしか使っていない名前。紛れもなく、《《わたしが執筆している小説の主人公だ》》。
小説の中の登場人物という以上、花野菜乃葉がここにいることはありえないのだ。いま書いている小説で、誰にも見せていない。実写化予定なんてさらさらないし、ましてやドッキリでもないだろう。
「花野菜乃葉…」
「うん、そうっ。花野菜乃葉!」
口に出すと、思ったよりもいい響きだった。はなのなのは。可愛い。
性格もそっくりそのままだった。花野菜乃葉は、明るくてポジティブで天然っ子。そっくりそのまま、まるで《《花野菜乃葉がでてきたような》》感じだ。
「何そんな口開けてるの?」
花野菜乃葉は12歳の設定だ。7つほど違う歳の子に、呆然とされているのを指摘される。
「いや…花野菜乃葉って、小説の中のキャラクターだよね?」
「うん」
「だから…ここにいること自体、あり得なくない?」
「あっ、確かに」
え、自覚してないの?
「なんでここにいるの?」
「ここ?分かんない。気づいたらここにいたんだ。なんか光ってたから、ここに入っちゃえーって」
そんな軽いノリでいけるんですかね。でもいけてしまうのが花野菜乃葉だ。
花野菜乃葉が主人公で、今書いている『はなのものがたり』は、よくある学園小説、青春小説だ。他にも色々と友人やクラスメートが登場する。頑張って名前は花に関連付けている。
正直、没にしようと思っていた。青春小説はありきたりだし、とくに何が起こるか決めているわけでもない。ただ、惰性で書き続けている。それが『はなのものがたり』だった。
ただ、こんな主人公(らしい)を目の前にして、今更「ごめん、これ没にするんだ〜」とは言えない。もう言えたらたぶんどうかしてると思うし、あまりにも人間の心がなさすぎる。
「んで、あなたは?」
「わたし?|山川真由奈やまかわまゆな
「へ〜!何歳?何年生?」
「大学2年生」
こんなときだけ、「大学に行ってるんだ!」という反応をもらえる。本当は学んでいないに等しいのに、大学に行っているということだけが先行する。
「すごい!」
「あのね…わたし、貴方の作者なんだ」
「作者?どういうこと?え?」
「えーとね。貴方はわたしが書いている物語の登場人物で…」
なんか、ショート動画で見たことある気がする。
自分たちは誰かに作られた存在かもしれない。実際にインターネット上で人間のプログラムを作り、その人間のプログラムに「貴方はつくられた人間です」と言ったら、信じなかったとかなんとか。覚えてないけど、そんなこと言ってたような。あんなに時間を費やしたのに、知識はしゅうしゅうとしぼんでいく。大学も同じだ。
「…どういうことか全くわかんない」
「そっか」
「お腹すいちゃった。なんか食べよ」
昨日は綾音とお昼を食べた。わたしはボロネーゼで、綾音はなんかのオシャレなパスタだった。意外とSNSに載せようという気はないらしかった。
出費がかさむなぁ。まあ、昨日のカフェはわりとお手頃だし、2日連続でもいいか。
--- * ---
「わたしコーヒー飲んでみたいな〜」
「やめときなよ」
作者だからわかる。花野菜乃葉はコーヒーが飲めない。というか、屈指の甘党なせいで、苦いものはほぼ無理だ。
「飲みたい!」
これもわかる。花野菜乃葉は一度決めたことはほぼ曲げない。
しょうがないので頼んだ。もしかしたら花野菜乃葉もコーヒーを飲み干そうとするかもしれないから、コーヒーを2つ頼んだ。1番安いオイルパスタを食べて、2人でつつこうと言った。
「うぇ、やっぱにがい」
「だから言った…」
姪っ子の世話をするって、こんな感じなんだろうか。姉はいるが、生涯独身を貫くとかなんとか。
結局押し付けられたせいで、コーヒーは2杯になった。カフェインが2倍になる。
「あ、でもこのパスタおいしい!」
大学生にはあぶらっぽすぎるパスタは、比較的若い花野菜乃葉が片付けてくれるらしい。わたしは鉄や覚悟で、カフェインをごくりと摂取した。
「それで、登場人物ってどういうこと?」
ああそうだ、彼女と楽しくランチタイムではなかったんだ。
「わたしは大学生で、小説家になりたいんだ。だから小説応募にもずっと応募してきたけど、全部書籍化はされないんだ。今回は学園モノでせめようと思って、『はなのものがたり』を書いてるの。その『はなのものがたり』の主人公が、花野菜乃葉」
「…え?わたし、主人公?登場人物?」
「うん」
とうてい理解できないだろう。現に、わたしも登場人物、ましてや主人公などと言われたら、確実に花野菜乃葉のようなことを言って、行動する自信はある。
「え?うっそだぁ」
「本当なんだよ。パソコンからでてきたんでしょ…え?」
いや、パソコンから中1女子がでてくるとか有りえないでしょ。いや、物理的にサイズの問題として。そこはもうSFだと割り切っちゃう?
「…そっか」
花野菜乃葉はようやく納得してくれたらしい。まあ、納得しなきゃ先へ進めないからだろう。
「そう。貴方はここが現実で、いるべき場所じゃない。貴方がいるべきなのは、『はなのものがたり』の中。そこが貴方にとっての現実なんだ。ここに来るってことは、現実とのラインをこえてきてるってことで」
「…?」
一応花原学園は、偏差値が低くてもOKな中高一貫校だ。なんで受験したんだっけ?まだ書いてないんだったっけ?そこら辺、ちょっとあやふやだ。
確か花野菜乃葉はギリギリで滑り込んでて、落第生の部類で…そこまで書いてなかったっけ。それか、わたしが言ってることが意味不明か。いや、意味不明だからだろう。仮にわたしが登場人物だったとしても、そうなる。
「どうしよう。帰れるかな」
パソコンの画面に押し込む?…のは可哀想だし。
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むらさきざくら
皆さんこんにちは
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むらさきざくら
誕生日なのと合格したのも兼ねてになってます
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むらさきざくら
中学校入学したらたぶん頻度ガタ落ちしますからね…今のうちにやっておこうと
07:41
むらさきざくら
10分で2000文字目指します
10:34
むらさきざくら
やっぱり10分で2300文字!!
10:42
むらさきざくら
来たらコメントしていってね
12:59
ななし@52967b
こんにちは!
13:04
むらさきざくら
こんにちは〜!
18:02
ななし@52967b
少し遅れましたが、お誕生日と合格、おめでとうございます🎉
18:09
むらさきざくら
ありがとうございます!
21:50
ななし@1a30f8
こんにちは~。お誕生日と合格おめでとうございます
22:01
むらさきざくら
ありがとうございます!
22:17
むらさきざくら
誕生日と1周年と合格のイベントが停滞しまくってます笑
34:43
むらさきざくら
ではこれで終了します、ありがとうございました!
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誕生日テキライ
初公開日: 2026年01月12日
最終更新日: 2026年01月18日
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誕生日なのでテキライします。
4時半から5時までできたらいいな。