神経ガスを浴びせられたセレナが横たわり、3人のセキュリティが立ちはだかる。そこに立ち向かうは小さな影。赤馬零羅の小さな体が3つの存在に立ち向かいその小ささを際立たせている。
ゴヨウカタパルト3体の攻撃でライフは既に200まで削られている。自身のモンスターであるフィルムマジシャンをリリースしフィールドはガラ空き。
こんな時、何をすればいいか、否、何をしないか。委細承知している。ただ、あの時あの方はなんと仰っていただろう。とても慈悲深く、強く気高いあの方は。
部屋の真ん中に鎮座するマホガニー製の机。目立つ椅子に腰掛けた女性の影。他にはソファーに挟まれた少し小さめのテーブル。ただそれだけだった。しばらく眉間に皺を寄せて呻き声が響く。またしばらくすると、観音開きの扉が片方開いた。そこから小さな影がひょっこりと顔を出す。
「姉様」
『あら、零羅。どうしたの? もう寝る時間でしょう』
寄せられた皺はすっかり消え失せ、柔和な笑みが浮かんだ。すぐに立ち上がり零羅へと駆け寄ると、目線を合わせるためにしゃがむ。
「あの、眠れなくて……。その……」
もじもじと指を絡ませ呟く零羅は困ったように目を逸らす。本人は迷惑をかけてしまったと気にしている様子だった。しかし姉の方は全く気にした様子も見せずにっこり笑う。
『そう。そんな日もあるわよね。大丈夫。眠れるまでお話しましょう』
慣れた手つきでソファーへ誘い、自分はその隣に座る。
『さて、何を話しましょうか。 それともこっそりデュエルでもする? 零児には内緒で』
イタズラっぽく笑うが、提案された方はふるふると首を振って隣に座る姉の袖を掴む。
「おはなし、する」
『そう? わかったわ。零羅は最近どんなことをしたの? チャンピオンシップのジュニアクラスで優勝したのは聞いたわ。 見に行けなくてごめんね』
再び首を振った。
『あなたはどんどん成長していくわね。これからまだまだ強くなるわ。 楽しみね』
零羅の頭をその微笑みと同じ優しさで撫でる。姉であり母でもある彼女は先を見通すように目を細めた。
「兄様とデュエルして、半分までライフを削ったんだ。 結局負けちゃったけど……」
『零児からライフを半分も? 充分よ。 あなたは強いわ』
「いつか、兄様に、勝てるかな……」
こくり、こくりと船を漕ぎ始める。そろそろ眠くなる時間だろう。その瞬間が来る前に、いや、むしろそれを邪魔しないように、囁き声で耳打ちする。
『勝てるわ。 兄を越える強い人に、あなたならなれる』
『……月影、いるわね』
健やかな寝息が響く室内で冷ややかに告げられた。音もなく背後に降り立つ。
「……ここに」
ずっと見ていた。覗き見ていたわけでは決してない。ただ護衛として見守っていただけだ。そこに偶然姉と弟の穏やかな時間が被っただけだった。
『お願いがあるの』
「なんなりと」
背後をとっているのは自分なのに、心臓を掴まれたように冷や汗をかく。 そのまま女王陛下に傅く従者のように要件を伺う。
『……いつかきっと、この子がひとりで立ち向かわなくてはならない時がくる。その時が来たら、手を出さずに見守っていて欲しいの』
告げられた内容は自身の職務に関するものだった。守らず手を出さずに見守る。これがどれだけ難しいか。それでもこの方は赤馬零羅の姉として続ける。
『たとえ無謀な挑戦に見えても、必ず零羅を成長させてくれる経験になるはずだから』
この方は疑わない。この小さな存在が放つ可能性を。
『大丈夫。 零羅ならやれる。守られるだけじゃなく、誰かを守る存在になれる』
顔は見えなかった。しかし強い確信に満ちた表情をしていたと、今でも思っている。
そして今、融合、シンクロ、エクシーズで3人の敵を葬った。見事にセレナを守りきり強さを証明した。そしてこちらも確信した。零羅殿はこれからもっと強くなっていくと。あの方の仰っていたことは本当だったと。
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あくふぁ夢
初公開日: 2025年11月29日
最終更新日: 2025年11月29日
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