桜舞い散る入学式。言葉にしてみればなんとも単調で、それでいてなんとなく不思議な一幕だ。第一、卒業式で桜が散り、入学式で桜が満開になる、というイメージは一体どこからついたのだろう。明らかに時間が逆行している。
まあそんなものはさて置くとして。この度わたし……月見里 霞は、無事に高校一年生となったわけだ。中学の時とは違い、スラックスは気楽でいい。この時期でも寒くないし。
そう思いつつ辺りを見渡せば、きゃらきゃらとしたスカートの軍団だらけでほんの少しだけ気後れする。とは言え、『やっていけるんだろうか』なんて甘ったれを今更考えはしないけど。だってそうだろう、わたしは大して人付き合いが上手いわけでもないし、そもそも大勢でわーきゃー集まって話すのが大の苦手だ。
校内へ進んでも、相変わらず浮かれた人ばかり。馬鹿馬鹿しいとまでは言わないが、生憎わたしにあのノリはできない。
張り出されたクラス分けの紙は、無常にもわたしの中学時代の友人を悉く違うクラスに設定していた。……いやまあ、一応は同じ学校だった人もいる。いるけど。そう言えばうちの中学からは十人以上受けて……確かほぼ全員受かったんだっけ? 考えてみれば中々の人数だ。
で、わたしのクラスメイトは小中同じにも関わらず、ほぼほぼ接点のなかった二人なわけだけど。一体全体、なんのイジメだ。正直余計に気まずいよね、こういうのってさ
がたがた、わいわいと教室はすでに煩くて、ああなんだか既に面倒だなあ、とため息を一つ。出席番号で指定された席の隣と前は既に楽しそうに会話していて、わたしが入る隙もない。まあ良いや、大した問題じゃないし。
席に座って荷物を置いて、ヘッドホンを取り出して。高校はスマホを持ち込めるのが良いな、好きな時に音楽を聞けるし本も読める。ビバ、文明の利器。
そうこうしている内に、担任らしい人が入って来た。恰幅のいい若い男性で、まあなんと言うか人の良さそうな感じだ。どうやら新任らしい。サンタクロースに似た何かを感じるな、だとか、まあ白い髭はないけど、だとか、ほんのり失礼な思考が頭を過った。
頬杖はやめてヘッドホンを外し、滔々と話す姿をぼうっと眺める。かつかつと黒板に書いた名乗りを見るに、斎木翔駒先生と言うらしい。中々に字が上手い。かたかたと電子黒板に表示したのは体育館への移動の順番。なるほど、まあ十クラスもあれば分割で移動しないと大惨事になるか。
「さて、それじゃあそろそろ僕ら三組も体育館に移動です。一応言っておきますが寝ないこと。あとね、話はきちんと聞いておいてくださいね。僕が怒られるから。」
ユーモアを効かせたつもりなのだろうか。まあひとまず、クラスメイトからの受けは中々良かったらしい。うーい、だとか、はーい、だとか思い思いの返事を返しつつ、揃ってゾロゾロと廊下に向かう。
廊下は芋を洗うような、とでも言うのがしっくりくるだろう混雑っぷりだ。確かにクラス数もかなりあるけど、分割してもこの惨状。キッチリ並んでるのにこれとか、どうなってるわけ? 校舎、狭いの?
……まあ、考えたって無駄か。わたしがどうにかできるものでもないし。第一、そういうのはあまり趣味じゃない。無駄は嫌いだ。どうしようもないことを考えるのも、話を合わせてわいわいするのも、嫌いとまではいかないけど、あまり。
さて、人混みに酔いながらもどうにか到着だ。体育館は人が多い。なるほど、これがどうやらこの三年同じ学舎で過ごす面々らしい。見るとチラホラ知り合いがいる。同じ中学で何度か見た顔だし、同じ塾で何度か見た顔だ。
あいつ、寝掛けてるなあ。あの子は背筋が伸びている。あっちは小声でお喋りで、隣に座るのはわたしの知らない誰か。精が出ますね、と内心皮肉るが、まあそれも青春だろう。わたしの年でこれを言うには、少々クサ過ぎるけど。
ところで、きちんと聞いてみれば案外と校長の式辞が面白いのはどういう事なのだろう。こういうのは殆ど詰まらないと相場が決まっているし、実際今まで面白いと思った事もなかったが、今回は違う。どうもこのいかにも校長ですと言わんばかりの初老の人物は並大抵ではないのかもしれない。まあ、知らないけど。
一方で教頭の方はなんだか微妙だ。微妙と言っては礼儀がないが、かといってわたしはそれ以外に表現の方法を持たない。我ながら残念な日本語力だが、それでも「校長先生」だの「おっしゃられた」だの、この人のセリフは二重敬語が多いなあという事だけは理解できる。
そして大して意味を感じない情報には脳が反射で眠くなってしまうのが人間というもので、それはわたしも例外ではない。むしろ、人よりも割とひどい方だと自覚もしている。結局何が言いたいかと問われれば、わたしは船を漕ぎ始めているという事だ。わたしはどうもこういう時、ぐだぐだと語ってしまっていけない。さっさと特筆すべき事もない入学式の話など切り上げてしまうべきだろう。