「大っ嫌い!!!!」
 耳にこだました声で黒尾は目を覚ました。
 早鐘を打つ心臓、上がった息、背中を伝う冷や汗がさっきのは悪夢だったと告げている。
にもかかわらず、黒尾はやけに冷静だった。
「ああ、いつものか」
上体を起こして目を瞑る。脳裏に浮かぶ。昨日のことのように。
『なんで、家族なのになんで離れなきゃなの!?』
『鉄朗のせいだ、大っ嫌い!!』
それは、黒尾の家族がバラバラになった日の記憶だった。
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以下メモ
黒尾と清水が実の兄妹(双子)の話。
小学校低学年のときに両親が離婚。
黒尾は父に、清水は母に着いていくことになる。
2人の両親が夫婦だったときは、母が嫁入りしていた。
母は再婚後相手の籍に、父も再婚後、婿入りとなったため、幼少期の2人が一緒にいたときの名字は黒尾でも清水でもない。
まだ家族だった時、両親の夫婦仲は最悪で、顔を合わせるたびに喧嘩ばかりしていた。
しかも、2人とも不倫していた。
黒尾は両親が他に恋人がいることに幼心に気付き、このままでは誰も幸せになれないと考え、「離婚すればいい」と両親に言う。
「何を言ってるの?」と母はうろたえ、父は「大人の事情に口を出すんじゃない!」と怒る。
しかし黒尾は「俺たちが邪魔なら、孤児院に預けて貰って構わない。このままじゃ、誰も幸せになれない。お父さんとお母さんが喧嘩しているのはもう見たくない!」と言い、激昂した父に叩かれる。
その後、話し合った両親は、子供を1人ずつ連れて行くことになる。
清水は黒尾と離れるのが嫌で駄々をこねる。
「家族なのに何で離れなきゃいけないの?」
「鉄朗のせいだ!大っ嫌い!」
半ば喧嘩別れのようになる。
黒尾は東京に、清水は宮城に別れる。
親がお互い再婚して名字が変わる。
清水は「大嫌い」と言ってしまったことを後悔している。
黒尾もまた、自分のせいでこうなったのかもしれないと後悔していた。
お互いにもう2度と生きては会えないだろうと思っていた。
黒尾は目が悪くて眼鏡を掛けていて、清水はまだ掛けてなかった。
清水は別れてから眼鏡を掛けるようになる。最初は伊達だったのに、いつの間にか度が入るようになっていた。
件の練習試合で音駒が烏野に。お互いに成長していて気付かないが、何となく既視感があるというか似ているような気がしてノスタルジックな気分に。けど、まさかそんな偶然がと思っている。「黒尾」「清水」という名字に聞き覚えが無くて、やっぱり他人の空似かと思っている。
「次は負けません」「次も負けません」と澤村と黒尾が握手した後、田中と西谷が清水のことを「潔子さん!」と呼ぶ。黒尾は思わず振り返ってしまう。けど清水はこちらを見ていないし、夜久や海に「何ボーっとしてんだ!」って言われてその時は時間も無かったし帰る。
合宿。清水は各校のデータを見て「鉄朗」の文字を見つける。「朗」の字を使うのは珍しい気がするが、名字が父の旧姓でないので、他人だろうと思う。
主将会議が始まった後、澤村に用が出来る。主将会議は風呂の後だった。主将会議の場所に出向いたときに、髪が下りて眼鏡を掛けた黒尾を目にする。思わず瞠目する清水に、澤村や菅原は余りの変貌に誰だか分かってないのかと思って「音駒の黒尾だよ」「寝ぐせなんだってよいつもの髪型は」と言う。そこで清水は、両親の喧嘩を聞かないようにするために、特徴的な寝方をするせいで、寝癖が凄いことになっていた鉄朗のことを思い出し、今の黒尾と重なる。
黒尾は次の日から清水を避ける。避けると言っても元々接点は余り無かったが、清水が話しかけようとすると、どこかへ行ってしまったりする。周囲の感の良い奴らは変だなって思うくらいには避ける。休憩時間になった時に、案の定外へと行ってしまったため、清水は追いかける。夜久と菅原が、他の面倒なヤツに見つかって(田中とか)面倒なことにならないようにと、単純な興味から、後を付けていき、死角で見守る。
清「黒尾、待って」
黒「……」(スタスタと歩き続ける)
清「……鉄朗!」
黒(バッと振り返るって瞠目するが、すぐに胡散臭い笑みを浮かべる)
黒「……そんなに親しかったっけ?俺たち」
清「……ごめんなさい」(頭を下げる)
黒「はっ!?」
清「私が子供だった。別れるしか無かったんだって、今ならわかる。鉄朗がどれだけ大人で、大人にならなきゃいけなくて、どれだけ辛い思いをしてたのか、今ならわかる。それを、私は……あのときの私は……」(涙声)
黒「ばっ、ま、待って!待って!泣くなって!潔ちゃんっ!」
清(顔を上げる)「……やっぱり」
黒(あっ!という顔をした後、はー……と溜息を付いて座り込む。手で顔を隠す)「……いつから?」
清(同じように座り込んで)「……練習試合の時は似てるなって思ってただけだけど。昨日、会議の時の姿を見て、確信した。鉄朗は?」
黒「……俺は、遠征の時、烏野の2年が『潔子さん』って呼んでるの聞いて、もしかしてと思ってた。でも、まさかそんな……。言うつもりなかったのに」
清「……どうして?」
黒「……俺のせいだろ。俺のせいで、バラバラになったんだろ。俺があんなこと言いださなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない。……合わせる顔がねえよ」
清「鉄朗。顔上げて」
黒(しぶしぶ顔上げる)
清「私は、鉄朗のこと間違ってるなんて思ってない。そうするしかなかった。私が子供だった」
黒「でも!もしかしたら、仲直りしてたかもしれねえし……!」
清「『もし』の話なんて、し始めたらきりがない。それより……」
黒「……?」
清「私は、また鉄朗に会えて嬉しい」(泣きながら笑う)
黒「俺も、潔ちゃんに会えて嬉しい」(泣くのを我慢して笑う)
手を取り合って立ち上がる。
夜久と菅原はびっくりし過ぎて、田中と西谷と山本が近づいているのに気付けなかった。3人が後ろまできて制止出来ず、黒尾と清水の様子を見られてしまう。
泣いている清水。手を繋いでいる2人。距離が近いの3拍子揃った場面を見てしまった3人は叫び声を上げ突進。
「何潔子さんを泣かしてんだコラァァァァ!」
騒ぎに気付いた他の部員や先生やコーチに見つかって、事情を話すことに。
武「それで、どういう状況なんですか?……」
田「返答次第じゃタダじゃおかねえからなあコラァ!!!」
山「いくら黒尾さんでもやっていいことと悪いことがありますよ!!!!!」
澤「田中、うるさい。ちょっと黙っとけ」
夜「山本うっせえ!」(蹴り)
菅「見てたのは謝るよ、ごめん。でも、ただならぬ雰囲気だし、ちゃんと説明してほしい」
黒尾が清水を見る。清水が頷く。
黒「……あー、なんつーか。驚かないで聞いてほしいんだけど」
海「何だ?」
黒「俺たち、実の兄妹なんだよ」
西「は?」
兎「けいまい……?なにそれ米?」
清「違う。血の繋がった兄と妹……双子ってこと」
一同固まる。
東「……え?」
日「えええええええええっ!?」
田「はああああああっ!?」
山「え、黒尾さんと潔子さんが双子!?え?え?」
烏「……双子って……お前らこないだの練習試合のときはそんなそぶり一切見せなかったじゃねえか」
黒「……離れ離れになったの、10年以上前なんで。確証が持てなかったんです。名字もお互いに違ったし」
木「お互いに?」
清「私は母に着いて行ったんだけど、再婚して相手方の名字になったから」
黒「俺のほうもそうだな。再婚して父親が婿入りしたから。向うの名字」
灰「研磨さん知らなかったんですか?黒尾さんの幼馴染でしょ?」
弧「……クロのお母さんが、クロの本当のお母さんじゃないってことは薄々気が付いてたけど、他は何も知らない。俺、何も聞かされてない」
黒「ゴメン研磨。拗ねんなって」
弧「拗ねてない」
黒「……言う必要も、つもりも無かったんだよ。またこうやって生きているうちに会えるなんて思ってもみなかったから」
清「……私も、最初から1人っ子だったんだって。そうやって生きようって思ってた」
弧「……」
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