と、コンチが手を伸ばして、わたしの頭をそっと撫でてくれた。ピリピリピリ、という電子音。
腕に抱えているコンチの帯びたバッテリーの熱が人肌のそれに感じられたのはわたしの都合の良い錯覚だっただろうか。
「……ほんとに? ほんとにそうかな?」
自分の声がいつもよりも幼くなっているのを自覚しながら、わたしは涙ぐみながらコンチのボディをなでる。
「あはは……なんだか、コンチにはお世話になりっぱなしだね」
そう言えば前に――もうずっと昔のような気がする――シュウちゃんが風を引いたことがあったっけ。そのときもコンチはシュウちゃんの熱を測ってあげてた。コンチは元はただのゲーム機だったらしいけど、シュウちゃんがいろいろ改造して、モビルスーツのメンテまでできるようになっちゃったとか言ってた。
シュウちゃんは不思議な、浮世離れしたような子だけど、こうやってコンチに身の回りの世話をしてもらってたのかな。そう思うと、なんだかシュウちゃんが少し身近に感じられた。
「――ねえ、シュウちゃんもこんなふうにコンチに、誰にも言えないような不安を話してたこととか、あるの?」
コンチはしばらくなにも言わなかった。なんだか、言おうか言うまいか迷ってるみたいで、ちょっとおもしろい。
しばらく黙ってたコンチは、ピリ、とだけ言った。
「えぇ~ズルい! 教えてよぉ!」
コンチを抱きしめてくすぐってやろうとすると、コンチはするりとわたしの腕をすり抜けて逃げてしまった。
「あっ逃げた! こら待てー!」
さっきまでいろいろ悩んで泣きそうになってたのがウソみたいに、わたしは部屋中を逃げ回るコンチとの追いかけっこに興じていた。
そのせいで――いつの間にかハロを連れたマチュが帰ってきてることに、ぜんぜん気づかなかった。
「なにしてんのニャアン」
「ナニシテンダニャアン」
部屋の入口に立ってジト目でこっちを見ているマチュと、その足元で飛び跳ねてるハロの姿を認めた瞬間、わたしはフリーズ。逃げ回ってたコンチはちょこちょことわたしに近づいてきて、ぴょんと頭に乗っかった。
「ただいまコンチ。ニャアンのお守りありがと」
マチュはそう言ってコンチとグータッチ。
「あ、あのマチュ、これは違うの……」
「まあ別に、いつもおとなしいニャアンが、わたしがいない間にコンチとおっかけっこしてはしゃいでたってそれは個人の自由だから、わたしは同居人の権利をソンチョーするけど」
とか言いながら、マチュはわたしの頭の上のコンチに向かって、「ん」とスマホを差し出した。
するとコンチは同じように手を差し出して、ピリピリピリピーピピピと電子音。
「へぇー、はぁー、ふぅーん。ニャアンってばわたしがいない時はこんなにはしゃいでるわけだ。ところでわたしはいちおう保護観察下だから、変わったことがあったら連絡するようにヒゲマンに言われてるんだよね」
ニュータイプもかくやのスピードで、わたしはマチュからスマホを奪い取った。何回も買い替えるように言ってるのにまだ液晶が割れたままのスマホには、さっきまでコンチを追っかけてたわたしのあられもない姿が!
「やだあああ!」
悲鳴を上げるわたしの手からひょいとスマホを取り返して、マチュは目にも止まらないフリック入力。
「やめてえええ! データ共有しないでえええ! っていうかコンチもなにマチュと一緒になって隠し撮りとかしてるの!」
頭の上のコンチを捕まえようとしたけど、コンチはぴょんとわたしの頭の上から飛び降りて逃げてしまった。
「まあニャアンもずいぶん明るくなったってことでいいんじゃない?」
「マチュが面白がってるだけでしょ……」
「当たり前じゃんそんなの」
「にゃあん……」
悪びれもせずに言うマチュに、わたしはもうなにも言い返せない。ううう恥ずかしい……。
「でもまあ、安心したよ。わたしがいない間も、ニャアンは楽しくやってるみたいで」
そう言ってマチュに笑いかけられると、それこそもうなにも言えなくなってしまう。
と、床の上に逃げてたコンチがまたわたしの腕の中にぴょんと飛び乗って、ピリピリピリと電子音を発した。
「もう……しょうがないなあ」
「で、ニャアンとコンチはわたしがいない間、どんなふうにして過ごしてたの?」
そんなことを言うマチュ。わたしはコンチと顔を見合わせて笑った。
「それは……ふたりだけの秘密だよ」