船を停泊させている海岸の砂浜では、シャンクスとバギーが遊んでいる。
かけっこしたりカニを捕まえたり、子どもは無邪気でいいなとレイリーは思う。
この無人島に着いたのは、ほんの数時間前。
船長のロジャーは、いつものように一番先に突っ走って行った。
クルーたちもその後を追い、島に生息する猛獣の肉や真水の確保に急いでいる。
そんな中、レイリーは船番を買って出た。
島に人がいないのならば可愛い女の子なんているはずがない。
だったら無理に降りる必要もない。
危険が多いからと、見習いたちはお留守番。
宝があるかもとゴネるバギーは、デカくて怖い猛獣がウジャウジャいると脅すと嘘のように黙った。
それでも二人とも未知の島に興味があるらしくソワソワしていたので、船の近くなら降りてもいいと許可を出した。
レイリーは甲板で酒を飲みながら、優雅に本を読んでいる。
見張りといっても、気配を探れば大抵の異常は感知できるので。
耳をそばだてていれば、シャンクスとバギーのオモシロ可笑しいやり取りが自然と聞こえてくる。
なんだかんだ言ってあの二人は仲がいいのだ。
「なあバギー、ロジャー海賊団ごっこやろうぜ」
「はァ? バカか、シャンクス。おれたち始めっからロジャー海賊団だろうがよ」
レイリーは頬を緩めて何度も小さく頷いた。
バギーに激しく同意である。
「いいからさ、やろうぜ。おれロジャー船長な!」
「おい、ズリーぞそれ!」
「早いもん勝ちに決まってんだろ!」
「ちくしょー油断した! しょうがねェな~、じゃあおれギャバンさん」
レイリーがズッコケる。
ロジャーがいるならそこは私では?なんて思っていると、シャンクスが声をあげた。
「えー? レイリーさんじゃねェのかよ」
ほんとそれ。
「ギャバンさん、この前こっそりお小遣いくれたから」
子どもを金で釣るんじゃない。
「何だよそれ! おれ貰ってない!」
「お前には可愛げってモンが足りてねェからな~!」
「ちぇ」
そんなやりとりをしてる間に、バギーは良い感じの木の枝を二本、シャンクスは一本拾い上げた。
両者が向かいあい、ジリジリと間合いを取る。
バギーが声を張り上げた。
『ロジャー船長、またあんたか。おれのインク壺を倒しやがって、今日という今日は許さねェ! 〝八十梟帥〟』
『いや、悪かったって。鬼ごっこしてたらつい当たってよ。おい、その技は、やめ……〝神避〟』
そんなしょうもないケンカで大技を使うんじゃありません。
というか、そのごっこ遊びは楽しいのか?
と思った矢先。
轟音が響き、砂浜が割れた。
数秒おいて、バギーの泣き声があたりに響く。
レイリーは急いで彼らに駆け寄り、怪我の有無を確認した。
ちゃんと目視で見ていてやらなかったことに、後悔がつのる。
幸い二人とも無傷で、しかしバギーだけがずっと泣き続けていた。
「何があった」
砂浜が割れるなんてただ事ではない。
自然現象か、敵の攻撃か、それとも別の要因か。
危険を理解し対処する、その見極めが必要だ。
レイリーの問いに、シャンクスが目を泳がせて答えた。
「おれ、悪くないよ」
「シャンクスが悪いなんて誰も思ってないさ。だから正直に言いなさい」
「おれ、ただ、ロジャー船長のマネしただけで……」
そこにバギーが泣き怒りしながら割って入る。
鼻水たらして、シャンクスを手のひらでベシベシ叩いて。
「バカシャングズが、がむざりじた~! おれ、あだるどごろだっだ~!!」
「かむさ……え、神避……?」
耳を疑った。
神避はロジャーがよく使う大技で、子どもが木の枝で真似たところで簡単にできるような技ではない。
レイリーが困惑してる一方で、当のシャンクスは軽い感じに「ごめんって、当てるつもりじゃなかったよ」なんて半笑で答える。
それが気に障ったようで、バギーはもっとヒートアップした。
「なんでジャングズばっかり~……おれの八十梟帥は出ねェのに!」
出てたまるか。
「こうだってバギー。ビューン、ヒョイって。ビューン、ヒョイ」
50m先に転がっていた大岩が割れた。
なぜ出る。
「びゅーん、ひょい……で、出ねェ~……」
だから、出てたまるか。
レイリーはなんとかこの場を治めようと、シャンクスの木の枝を小さな手から奪う。
彼が戦闘に長けているのはわかったが、取り返しのつかないことになる前に教育が必要だ。
「あ! おれのエース!」
「もうやめなさいシャンクス。そんな簡単に人に放ったら危ないだろう、神避や八十梟帥はいちおう大技だ」
「じゃあレイリーさんの技はいいの?」
おいそれどういう意味だ。
レイリーの額に青筋が走る。
どうやら本当に教育が必要らしい。
まったく、困った見習いたちだ。