我らがボドゲ部が誇る寮長二人が、最近ハマっているゲームがある。
〝五文字ゲーム〟という愛称で部員たちから親しまれているそれは、特製の二十六面ダイスを五つ振り、出た目のアルファベット五つだけを使ってしか相手と意思の疎通ができないというゲームである。二人のプレイヤーにそれぞれ違った問題シートが用意され、互いにヒントを聞き合わないと己の問題を解くことができない。会話方法までも制限されたそんな状況で、いかに相手より早く自分の問題を解き終えるか、というのがこのゲームのキモであった。当然それだけでも楽しいゲームではあるのだが、このゲームには更に上級者向けとして、追加ルールを設けることができる。毎ターンごとに振られる五つの二十六面ダイスが定められた出目をきちりと出した場合、特別なルールが適用されるというものだ。例えば、「f」「u」「k」「o」「f」の五つを出すことができたら相手に致命的なデバフを与えることができ、「w」「i」「n」「e」「r」の五文字なら無条件で勝利を得ることができる。その中でも彼ら二人がずっと適用し続けているのが、「i」「l」「u」「v」「u」、ボドゲ部内での通称「二人は幸せなキスをして終了」ルールと呼ばれるものだった。これはどう考えてもネタルールでしかなく、この五文字を出すことができてもゲームの勝敗には何ら影響しない。ただ、これをどちらかが出した場合には、目を出した方が「愛してる」と相手に愛を囁き、ゲーム終了後から帰路が別れるまでの間手を繋いで帰らねばならないという、男子校でやってそれ誰が得するんだよというどちらかといえば罰ゲームに近いルールであった。そして彼らは、このルールを適用して毎日のようにこのゲームに興じているのだった。
今日もまた、彼らは二十六面ダイスを交互に振り続けている。二十六面を五つ、その五文字が出る確率は限りなく低いけれど、それに加えて寮長を努める彼らは頭の出来も常人とは違うので、ほんのわずかなヒントだけで問題を解ききってしまうものだから、他の部員たちが遊ぶときよりかなり少ないターン数で勝敗が決まってしまうのだ。だから彼らがこのゲームにハマり始めてからこちら、一度たりともその五文字が揃ったことはない。
「……ダイスで出んでも言やいいのになぁ」
「そりゃ無理でしょ意地っ張り世界選手権代表選手二人だぞ」
「どんだけ手繋いで帰りたいんだよあいつら」
「マジで勝手にやっててほしい。ランダム五文字だけで問題なく会話成立する上に超高難易度の問題シートまで秒で解ききるとこ見せつけられるのメンタルに来る」
これだけ毎日同じゲームをしているから、購入時に付属してきた問題シートなど彼らはあっという間に解き終わってしまった。対価まで設定して部内で問題を募集し、あとは販売元がネット上で公開している追加問題集から引っ張ってきて遊んでいるが、それももうネタ切れに近い。部員たちも頭を捻りに捻ってクソ難しい問題を作ってやっているつもりだが、彼らが平然と解いていくものだから全員が全員歯噛みしていたのだった。ネタ切れが近いため、今ではオルトにまで頼み込んで問題を作ってもらっているらしい。
「あいつらアイラブユー出るまで続けるつもりなんかなあ」
「そらそーでしょ。ここまで来たら最早意地」
「勝手にやってろ、ゲーム外で言え」
部員たちはとっくに気付いている。彼らが互いに恋をしていて、その気持ちを伝えあってはいないことを。そして、互いにどちらが先に根負けをするのか、駆け引きを楽しんでいるらしいということも。
「この間アーシェングロットがファ●ク出しててウケたんだよな。偶然fukルールも適用してたからシュラウドが鬼デバフ食らってアーシェングロットが勝ったけどどっちもぐぬぬ顔してて最高だった」
「ファンブルの鬼はサイコロ運も一味違いますなぁ」
「ファ●クは出るのにアイラブユー出ないのは草。早く出目操作習得して」
「二十六面かける五は無理だって……」
今日もサイコロが机を転がる音が響いている。部員たちの嘆きは、今日も虚しく部室に消えていったのだった。
数週間後、毛先と目尻を赤く染めながら手を繋ぎ、視線も合わせられぬまま帰路につくイデアとアズールが、五文字ゲームで狙った出目を出せたのか、それともそうでなかったのかは、彼らだけが知っていた。