知らなかった。なんか、あれだ。ジェットコースターに乗って、地上におりた時。あんな感じのふわふわ感。あとは、風邪で熱が出た時。寝転がってても、立ってるのか座ってるのか横になってるのか分からないみたいに頭が回る。
なるほど、どうやらアルコールというのは俺の三半規管をダメにしてしまうらしい。
「なあ、だいじょぶ?」
純太の声がして、薄ら目を開けてみた。心配しているというセリフとは裏腹に、その目は楽しそうに細められている。
「多分」
「はは、多分ね。だろうな、初めてだし」
俺より半年弱早くお酒を解禁になった純太が、余裕ぶって缶から直接中身を煽りながら言った。床の硬い感触を感じながら見上げるその横顔が、どことなく大人っぽくて少し悔しい。まあ、その手にしているのはアルコール3%の甘いチューハイだけど。俺が飲んだのは、確か7%と書いてあった気がする。俺も純太と同じにしておけば、その缶に書かれている通りほろ酔いで済んだのだろうか。
「気持ち悪いとかは?」
「ない」
「眠いとかも?」
「どうだろう……でも、起き上がるのはしんどい」
俺の言葉に、純太は缶をテーブルに置いた。こん、という音的に、まだ半分くらいは中身が入ってそうだ。
そのまま、俺の横に並んで寝転がる。本当は純太の方を向きたいのだけれど、残念ながらそれすら出来ないくらいに身体は言うことをきかなかった。
「はーじめ」
ずり、と近くに寄ってきて、耳元で言われたものだから。反射的に、肩を上げてしまう。
純太が、ふふ、と笑った音がする。
「なにい? 動けねえの」
「うん……なんか、立ったら転びそう」
「んじゃ、しゃーねえな」
普通に話せばいいのに。何故だか純太の声は静かで、耳元で囁くように話しかけてくる。それどころか、またもう少し、近付いてきて。俺の太ももに、純太が脚を乗せた。くっついたところが、服越しなのに熱い。
酔ったせいで自分の体温が高いのは自覚していたのだけど、どうやら純太もちゃんと熱い。自分だけじゃなくて良かった。
「酔ってるはじめ、初めてだな」
「そりゃ……お酒飲んだの、初めてだか、っ!」
ふう、って。純太は俺の耳に息を吹きかける。びくりと反応してしまったのは、脚がくっついているせいできっとバレバレだ。
「お前が動けないの、なんか新鮮」
「じゅ、た」
「なあに? 耳、こんな弱かったっけ」
「っ、っ」
指が、ごそごそと入ってくる。浅い所を撫でられるだけで、どうしようもなく背中がゾワゾワとする。
なんとか腕を持ち上げて、純太の胸を押し返して距離を取ろうとするのに、全然力が入らない。アルコールって、なんて怖い存在なんだ。身体が、何もいうことをきかないのだから。
「っう」
ぬる、と濡れた感触がしたせいで声を上げてしまった。確認しなくたってわかる。純太が、俺の耳を舐めたんだ。
舌先が、耳殼を撫でてから、少しだけ奥へ。濡れた音がダイレクトに響く。自分の吐く息が、熱い。
「じゅん、た……まっ、て」
「ひひ、耳弱いもんなー」
全然待ってくれない。それどころか、さらに楽しそうな声を上げて耳たぶを唇で挟んでくる。挟んだまま、口の中で舌を動かしているのだろうか。体温が上がってより敏感になっている皮膚が、純太の舌の感触全てを拾う。
「あ……耳好き?」
「いや、えっと……」
「俺が気付いてないと思ってる? おっきくなってんの」
純太の手が、デニム越しに俺の中心を撫でた。それと同時に、また耳に吐息がかかる。さっきされていたように、唇で挟んで舐めて。今度はゆるく歯を立てられる。痛くはないのだけど、純太が俺の一部を噛んでいるということに、どうしようもないくらい興奮した。
「青八木の新しい弱点みっけ」
「まって、じゅんた」
「えー? こんな気持ちよさそうなのに、待たなきゃなの」
もう、喋らないで欲しい。あんなに好きな純太の声が、今は苦しい。聞こえる度に息が上がって、アルコールの溶けた血が身体中をぐるぐる回る。
こんなにも呼吸が上がるのって、正常じゃないと思うのだけど。それなのに、純太から、耳への刺激から、逃れられない。
唾液で濡れたところを、触れるか触れないかギリギリの弱さで舌が這っていく。ちゅ、と立てられた音が驚くほど大きく聞こえた。
耳殼が、ついに口に含まれる。甘噛みされて、舐められて、外側を吸われて。
「っあ、」
「はじめ」
「ぅ、っ」
「耳、きもちい?」
「ん、」
今、動ける身体だったら。きっとこんな、純太の好き勝手させないのに。お返しだって言って、同じようにしてやるのに。
もう、これからお酒を飲むときは純太と同じものにしようと決心した。そして、酔いがさめたら。純太が嫌だって言っても、同じように耳元でたくさん名前を呼んでやろうと思う。