レインディアの死闘をからくも制したネグザルツだったが、その代償は大きかった。機体のダメージはもちろんのこと、属性(アライメント)を闇に擬態した状態での太陽剣の使用がもたらす影響は予想以上に深刻だ。戦闘を最小限に抑えるためこのまま「奈落(アビス)」への最短距離を取るか、それとも機体を修復しつつ迂回ルートを取るか。
数ナノセコンドの思考。と、そこへ別の信号(シグナル)が割り込んだ(インタラプト)。馴染み深い、まるでもうひとつの自分の機体のような反応。
感覚機(センサー)を向け、その反応を呼び寄せる。
聖鎧「リュミエール」。
レインディアが接続していたその白銀の巨躯は、主を失った姿で宙域を漂っていた。抜け殻のように漂っていたリュミエールは、ネグザルツの放つ信号に反応した。まだ機能は正常に稼働している。
接続信号に従って、リュミエールがゆっくりとネグザルツの後方に占位した。ガイドビーコン発振。強力な自己修復機能によって太陽剣から受けたダメージすらも回復した多重装甲がスライドし、本来の主であるネグザルツを受け入れる。
聖鎧接続(アーマーコネクト)。
竜骨(スパイン)を通して、ネグザルツ単体を数倍する複雑な火器管制システムと基幹情報が流れ込み、白銀の鎧とネグザルツは一体化する――その刹那。
思考域にかすかな、しかし明確なノイズがあった。拡大していく自意識の中でもはっきりと感じ取れるほどのノイズ。
――それは憎悪。
この聖鎧に残り香のようにこびりついた、憎悪の気配。刺すような痛みを伴う、憎しみのノイズ。
思考域を一瞬、兄の姿がよぎった。
ともに宇宙(そら)を駆け、剣技を磨き――そしてこの手で斬った、兄の姿。
あの死闘の後、兄はどうなっただろうか。その思いが、ネグザルツをどんな重力よりも重く縛ろうとする。思考域に紛れ込んだノイズが増殖したのが感じ取れた。増殖したノイズがワームとなって、ネグザルツの思考域を食い荒らそうとする。
自己診断プログラムロード。ノイズを一掃。思考域をクリアに。
進むしかない。己の思考に、志向に、強烈な指向性を与える。もう二度と振り返らぬように。