授業が終わると先生に注意された影響なのか、後ろにずっと付きまとってきていたあいつらは今の時間にはいなくなっていた。
なんとかなった、、なんか疲れたな・・・・・・。ステージの練習もあるのにいちいち体力使ってたらやばいよほんと。
体の疲労はすでにマックスに達していた。遅刻一つ許されない緊迫感が俺の体力を奪っていったのだ。廊下も二度にわたる全力疾走、教室に入った時の余裕な感じの登場とは違って本当は塵ほどの小さい余裕の一つすら無かったのである。
「あ、アントワーヌさん。」
「え。はい!先生。」
廊下で一人突っ立っているところを保健室の先生が突然話しかけてきたので、壁によっかかった姿勢をすぐに正し返事をする。
「マリンさんの体調が回復して、お礼を言いたいって言ってましたよ。行ってあげてください。」
「本当ですか!わかりました、ありがとうございます!!」
疲労はマックスだ。なのに好きな人のこととなれば廊下をまた全力疾走をしていた。できるまで体力が戻ったわけじゃないけどなぜかまだまだ走れるようなそんな気がした。
満腹なのにデザートは嘘みたいに食べられるあれと似ている。
マリンは俺を完全に嫌ってしまったと思っていた。だからマリンを助けたときにまた振り向いてほしいなんて希望を持ったりお願いしていたわけじゃなかった。ただ無視することが難しかっただけ。もう諦めていたのに、もしかしたら、もしかしたら・・・・・・!
「失礼します。」
息が切れていることに自分でも気づかないまま保健室にゆっくりと入った。
「アントワーヌくん、」
保健室の奥にあるベッドからその声が聞こえた。カーテンをそっと開くとそこにはまだ少し体調の悪そうなマリンがいた。
「大丈夫?ごめん無理しないでいいよ。」
「大丈夫。ありがとう。」
体を起こしてマリンが続けて話す。
「謝りたくて呼んだから私の心配はしなくても大丈夫。・・・・・・アントワーヌくん、本当にごめんなさい。私あんなに一方的に酷いことばっかり言っちゃって傷つけたよね。なにも分かってなかった。」
マリンに嫌われたと確信したあの日。
「みっともない・・・・・・・。」
あの日のマリンから言われた言葉は正直かなり傷ついた。心の中にあった破裂させちゃいけない爆弾が全部爆発してしまったような感じがした。
ズタボロになってしまったメンタルに一時的にだが夢をあきらめようとさえしたのだ。でもそれは確実に俺が間違っていたと今だからこそ言える。
あれも夢の形と言えばそうだったかもしれない。香水をプンプンと匂わせることも大人のざっくりとした姿だったためにやったこと。パリの街の大人達は俺の知る限り誰しも香水を匂わせて歩いていた。だから大人、スター、その目標に近づくためには手っ取り早いと考えた。
しかし学校ではそんなことは絶対に許されなかった。校則というルールがあったことを知りつつ俺は香水をつけていた。
マリンはそんな曲がり切った俺の姿勢を正そうとしていた。あの時のマリンの行動は全て正しかった。
「でもねあの時言ったことは本音。私は今みたいなアントワーヌくんが好きなの。だから変わっちゃったのが悲しかった。どこかでずっと待ってた、いつもみたいなアントワーヌくんに戻らないかなって。」
「俺の方が絶対に間違ってたと思う。マリンにはずっと感謝してる。マリンがいなきゃずっと俺はあのままだった。だからありがとうって遅くなったけど言わせてほしい。本当にありがとう。」
「私も助けてくれてありがとう。実は話しかけたいって思ってたんだけどなかなか勇気出なかったの。また話しかけてもいい?」
「もちろん!すごくうれしい!」
「よかった!じゃあいつか私もステージ見に行く!」
「うん!絶対いい演技するから見てて!」
「期待してるね!」
マリンから「話しかけてもいい?」とか言われちゃうなんて・・・・・・。信じられないくらい嬉しい、、また話せるのかと思うと自然と心も体も楽になってきた!
俺が歩けば街に音と光が奏でられる。高揚感で満ちた証明が並んでいた。
「それでは・・・・・・。主人公のマルケット役、アントワーヌさんです!お願いいたします!!」
「はいっ!!これからよろしくお願いしますっ!!!」
人生最初のステージに向け、練習がいよいよ始まった。
俺は・・・・・・主人公のマルケットだ。