こまdここ「りの先輩、これからよろしくお願いします。」
「えっ?そんなわざわざ挨拶ありがとうね。初めてだよ後輩にこんなに挨拶されたの!」
「そうですか?僕はこれが普通だと思っていました。」
「でも嬉しい。こちらこそよろしくね!」
「えと、、、はい!」
文化祭のステージ係で僕はその先輩に初めて出会った。係のリーダーを担った先輩に対して挨拶をしとこうと思ったのだが、「わざわざ挨拶なんていらないだろう」と言って同級生は揃って帰ってしまった。残ったのはたった一人、僕だけ。なんだか気まずい空気の中で僕は勇気を振り絞り話しかけた。
するとりの先輩は予想以上に僕をべた褒めしてくれた。ただ挨拶をしただけでこんなに褒められたのは今までで初めてだった。笑顔が優しくて年上なのに身長が僕より低くて自然となるその上目遣いに正直可愛いとまで思ってしまった。
だけど堪えるしかない。また笑顔とか上目遣いとかで見惚れて変な感情を抱いてしまうのはダメだ。絶対にダメ。
前の恋愛ではそれで失敗してあんなに痛い目見たんだからもう絶対に繰り返したくない。
心に負った深い傷がもう動かないようにくぎで叩きつけて固定していく。その固定する作業こそ、心の傷を大きく広げてしまっている理由であることは薄々気付いていた。
それでも、僕はそれすら誤魔化していたのだ。
未だに治りきらない傷が治っているフリをするのには心底疲れる。だから恋愛はこりごりなんだよ。僕に何回も告白をしてくるひさきを振るのにもちゃんと訳がある。誰にもまだ話せていないこのトラウマがどうしても拒否してしまう。
誰のことも好きになっちゃいけない、僕にまとわりつく呪いみたいな魔法みたいな何かだ。
「いつきくん!」
「はい、どうかしましたか?」
係が終わった。あっという間に過ぎたような感じがする。でも大変だったような気もする。
「いやほら色々と感謝伝えたくて!いつきくんは本当に真面目に頑張ってくれてたから。」
「それは先輩がいてくれたからです!いつも忙しいはずなのにこっちのことまでしっかり見てくれてたじゃないですか!だからなんとか・・・・・・」
「初めてだったのにあんなに仕事引き受けさせちゃってごめん。」
「もういいですから本当に僕はそんなに大げさなことしてないです。先輩のおかげなので!!」
「ふふ、ありがとう!あ、そうだそう。私さっき食堂でお菓子買ってきたの!よかったら食べて!」
「え!いいんですか?すいません、ありがとうございます!」
いやいやいや、どういうことだ。
先輩が黒いサブバックから取り出したのは、食堂で販売されていたチョコのパウンドケーキ。しかも手には1個しかもってない、まじでなんだこれどういうこと?まさかまさか半分こなんてことは・・・・・・
思わず息をのんだ。酸素が世界から無くなるくらい深い息を。だがその時だ。
「ほらどうぞ!」
優しく手渡しされた後、先輩の手はおもむろにサブバックの中に入り、今僕が手に持っているチョコのパウンドケーキとまったく同じものが出てきたのだった。
半分こ、そんなのあるわけないのに心のどこかで期待しちゃってた。
ほんと馬鹿だよ。勝手に期待して勝手にへこむなんて。それに、人を気になったりはもうしないって決めてたのに、チョコのパウンドケーキ1つでここまで揺らぐなんて、、
「美味しい!やっぱりこれ大好き。いつきくんも食べてみて!」
「あ・・・・・・はい!いただきます。」
柔らかいふわふわした食感に優しいチョコの甘い味わいが口の中に広がっていった。確かに美味しい、でもなぜだかいろんなことを思い出してしまう味でもある。
「美味しいです!」
「よかった。あ、私そろそろ行かなきゃいけないから、いつきくん本当に色々とありがとう。またね!」
「はいっ!お疲れ様でした!」
・・・・・・いきなり帰っちゃった。でも、やっぱりちょっと嬉しかった。「またね」って言われたけど教室は別なんだし会うはずないんだけど、、、
会うわけない、会うわけないのにまた会えるみたいな・・・・・・。考えたらだめだよな。
好きになってしまったのだ。りの先輩を。
誰のことも好きにならないように決めていたのにあっさりとまた心を奪われている自分が憎い。
あの日からしばらく経った後、告白を繰り返し続けてくるひさきと隣の席になってしまったことで僕はいよいよ焦り出すことになる。
振り回していると悪い印象を与えるのではないか、不安が度重なってひさきにどうにかして嫌われようと奮闘する謎の日々が続くのだった。
「なあひさき、そろそろ諦めてくれないか。」
「無理!」