テーマ:Z世代向けの家路
AIひらめきメーカー「
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さあさあ、お集りの皆さまこんばんは。
こんばんはといいましても、私の時計ではえー……23時30分きっかりでございますがこれはあくまで日本標準時のお話。
協定世界時——といいますのは世界の基本となる時計でございますねーーでは14時30分きっかり。お近くのシンガポールでは22時30分。少し遠くなりましてハワイのホノルルでは4時30分となっております。
今どきのような仮想現実の発展した世の中では、こんばんはなどの挨拶はまったく野暮でございましょう。え、ARは拡張現実ですか?知ったこっちゃない。
さて気持ちを切り替えて、本日ご紹介する新商品は目から鱗も三百枚!
Z世代向け、最新の帰宅サポーターでございます。
Z世代といえば1990年代のしっぽから2010年のアタマまでに生まれた若者層のことでございますが、ええまあ、最近はもっと新しいα世代なんてものも流行り始めたそうでございますね。そんなうんちくはえいっと横に放り投げまして商品のお話でございました。
それではどうぞご試着くださいませ、お申込みいただいた皆さまのご自宅にはお試しの機器が届いているはずでございます。ええ、今はメタバースに世界各地からお集りいただいておりますので、VRスーツの上からのご着用で問題ございません。
ああ、ご自身のPCに接続いただきますようよろしくお願いいたします。
弊社の社員がそちらのPCを経由する必要がございますので……ええ、はい。ご心配のようなことはございません。機器にウイルスが含まれていないことは確認済みでございます。
こちらの帰宅サポーターにつきましては、普通の帰宅の概念を覆す驚きの機能がわんさかてんこもりの大盛りの大森公式です。地震学の基礎でございますよ、さあググってくださいませ。
それではさっそくご紹介いたしましょう、機能一つ目はこちら、”普段の現実に小さな楽しみを添えて~ARとともに歩くあなたの通学路~”でございます。
なんとまあドリーミーでクリーミーなタイトルでございましょう。
舌を噛みそうでとてつもなく口触りは悪いですが内容はクリーミーです。
こちらの機能では、目にサポーターをつけて歩くことで、サポーターに付属する360°カメラで撮影した4K映像での帰宅路を、AIキャラクターとともに歩くことができます。さらにはアバターの使用、地形は同じままで建物の外観などを自由に変えることも可能でございます。
すばらしい!なんとすばらしいことでしょう!
このインターネット依存をさらに高め、日本の生産人口を減らそうとせんばかりのなんとも驚くべき発想でございます。
つづきましては機能二つ目”普段の現実を嘘に~嘘はとびきりのLoveよ~”でございます。
なんという聞き覚えのある単語でございましょうか!!かの我が国では知らぬ者のない超有名漫画で聞いたことがあるようなないような!著作権という単語を知っている開発者はいなかったということでございましょう。
こちらの機能では、建物と道を逆転させる仕様となっております。
すなわち、道の脇に林立する高層ビル群、はたまた今にも雨の重みに耐えきれずひしゃげそうな木造建築、え?比較対象が極端でございますか?まあこんなものと道路の映像を逆転させ、道のあるところに建物を表示するわけでございます。
前に進んで建物にぶつかる恐怖と生存本能と、実際の道を歩こうとする理性の極限まで追い詰められた戦いが、お客様のストレスフルな人生をさらに貧しいものにさせるでしょう。
これは買わないという選択肢はありません!
さあさあまだまだ続いてまいります、第三の機能は”交通事故ダメ、ゼッタイ。”でございます。
奇跡的に常識の芳醇な香りが鼻腔をくすぐります、なんと常識とはこれほどまでに甘美な匂いだったのでございますか。わたくしのVRスーツには嗅覚探知機能はございませんが、これはあくまで比喩でございますよお客様、そんなに真剣な顔で鼻をくんくんしないでくださいませ。
こちらの機能では交通事故を防ぐべく、前方1000メートル以内に30センチ以上の構造物が探知できた場合アラートを130デシベルで鳴らすという効果がございます。
ああ無情!レ・ミゼラブル!
常識のゆたかな香気が太陽系の外にまで遠ざかってしまいました。
130デシベルというのはジェット機の離着陸と同等の音量でございます。開発者は著作権を知らないばかりでなく、騒音という単語も知らなかったようでございます。標準的には80デシベル程度で十分にうるさいのでございますが、もしや不快な音声は全てシャットアウト可能な異能の耳をお持ちなのでしょうか。
それも1000メートル以内に30センチ以上の構造物がない場所とは、砂漠かどこかでございましょうか。地球温暖化が進んだ現在、これよりさらに砂漠化が進むことを想定しての先進的なマーケティング戦略でございます。人類全員からの反感をおそれない勇敢なる開発者、この先見の明には脱帽です。
名残り惜しゅうございますがこれにて機能の紹介はおわりでございます。
お集りの皆々さま、これまできいてくださってどうもありがとうございました。
それではさっそくお買い上げのほどよろしくお願いいたします。
ええ?購入したくない?それはいけません。
皆さまのIPアドレスは特定させていただきました。ご着用のサポーター、ひとつ紹介し忘れておりましたが網膜情報をスキャンする機能もございます。皆さまの個人情報はこちらで全て収集させていただきました。ご購入にならないのでしたらこちらインターネット上にアップロードさせていただきますが……。
なんとなんと、それほど驚かれる要素がございましょうか?
なんのためにわたくしが長ったらしくたらたらたらこよりめんたいこ派でございますけれど、お話させていただいたと?弊社のハッカー部門の社員がサポーターから接続いただいたPCにウイルスを仕込む時間でございますが?
ええ、まいどありがとうございます。
ああ残念でございますが弊社ではクーリングオフ制度は設けておりません。
ええ、ええ、はい、それではきっかり一億円、お預かりさせていただきます。
メタバース商品試着会・鷺、今回はこちらにて終了といたします。
次回以降のご利用をお待ちしております~!ああもちろん、次回お申込みがなかった場合は個人情報をインター……はい、お申込みありがとうございます。
<完>
・登場する団体や固有名詞、商品などは全てフィクションです。実在の団体・商品とは一切関係がありません。
・本作品の制作意図はインターネットの危険性の風刺が1割、ギャグが8割、豆知識が1割です。現実に似た商品やソフトがあったとしても、それを批判する意図は一切ありません。
以上の2点をご理解いただけるようよろしくお願いします。