くしゃくしゃになった父の顔がそこにあった。父は何事か言おうとして口を中途半端な形にしていたが、結局何も言えずに少女の小さな両手を握ってくれた。
その後、少女はいくつかの検査を受けた。問診だけではなく大きな機械に入れられて脳波の検査まで行われたので、彼女は自分になにか重大な病気があるのではないかと心配した。しかし、少女が本当に心配していたのは父のことだった。
幼い頃に母を亡くした彼女は、父親と二人暮らしをしていた。父は自分のことを愛して、ちゃんと育ててくれる。そんな父に余計な心配はかけたくない。少女は検査を受けている間じゅう、そればかりを考えていた。
検査が終わったあとで医師の説明を受けている間、当の本人よりも父のほうが心配そうな顔をしていた。もとより心配性な父が泣きそうな顔で医師の説明を聞いているのを見て、少女は少しだけ笑ってしまった。
医師の説明は中学生だった彼女にはあまりよくわからなかったが、心因性のもので思春期にはよくある症状だと説明されたようだった。
少女と父はひとまず安心した。2週間の休学ののちに、再び同じ症状が現れるまでは。
休学明けに教室のドアを開けた途端、少女は前回と同様の症状に襲われ、始業のチャイムを待たずに緊急搬送された。
少女が次に目を覚ましたのは、やはり病院のベッド。しかし、前回の病院ではなかった。ベッド脇にはすでに、前回と同じように泣きそうな顔の父と白衣を着た医師が立っていた。
医師は最初に、ここがコクマ記念病院であることを説明した。利用したことはないが名前は聞いたことがあった。たしか、国内最大手の製薬会社ケテル製薬が運営する大病院だ。そんなところに担ぎ込まれたということは、自分の病気はそれほど重大なものなのだ。
そんな少女の不安を見透かしたかのように、黒川と名乗った医師はゆっくりと説明し始めた。
現在、思春期の少年少女のあいだで不可解かつ突発的な症状が頻発しているらしい。身体的な問題は見つからないので精神的なことが原因だと思われるが、詳しいことはわかっていない。
少女の症状も同じものだと判断され、ここコクマ記念病院へと搬送された。コクマ記念病院では都内で起こった同じ症状の患者を一手に引き受け、その原因究明を行っている。
ついては、しばらくの間ここに入院してほしい。症状が改善された後も、経過観察のために定期的な通院をお願いしたい。
そのような医師の説明を、少女は医師ではなく父の顔を見ながら聞いていた。