毎週木曜日は滑り込みの日……なんですが今週は水曜に滑り込んでみました。なお明日も滑り込むかも知れない。
 というわけで今日は豪華3本立てでお送りします。
 まず1本目はこの作品!
 単館上映から話題騒然となり瞬く間に全国公開されたかの話題作「侍タイムスリッパー」の安田淳一監督による2017年の作品。
 わたくし人形使いは安田淳一監督のことは「侍タイムスリッパー」で初めて知ったんですが、ネットやTwitter(頑なにXとは呼ばない)で過去作があることを知り見てみたいと思ってたら案の定我らがサンサン劇場でやってくれるというので、2本めの「拳銃と目玉焼き」と合わせて見に行くことに。
 ついでに待合室も見てきたんですが、すっかりクリスマスカラーに。
 さて「ごはん」の感想を。
 本作は、実家で米農家をしている安田監督が米作りをテーマとして製作した作品。シンプルかつ直球なタイトルのとおり、地方でひとり米農家をしていた父を亡くしたことで未経験のまま米作りを余儀なくさせられる女性の奮闘を描きます。
 主人公、ヒカリは東京で派遣社員として働く女性。ある日、突然の父の訃報を受け、実家の京都に帰省します。葬式もなんとか終えた折り、ヒカリは父が農家30件分もの畑を請け負っていたことを知らされます。父と一緒に米作りをしていた源八は骨折して作業ができず、このままでは米作りができなくなってしまいます。ヒカリは逡巡の末、源八の指導の元で慣れない米作りに挑むことになるのですが……。
 このように、本作は一言で言えば「米作りをする映画」です。徹底して米作り。しかし、そのシンプルな中に我々が普段何気なく食べている米を作るまでにどのような苦労や工夫があるかということを思い知らされる作品でした。
 本作における「米作りの大変さ」は重労働だとか手間暇といった米作りが宿命的にはらんでいる大変さに加え、農家の高齢化、機械化による高コスト化、それにともなう採算の取れなさといった現代における米農家の問題も含めて描かれています。
 今までこうした方向、ここまでの深度で米作りをメインに据えた作品ってなかったんじゃないですかね。「飽食の時代」という言葉すらもはや過去のものになっている現代ですが、改めて日本人にとって「米」というものは単なる主食以上のものだと感じました。
 あの青々とした水田、そして見事な稲穂を着けた黄金色の米畑の光景は、陳腐な言い方ですがまさに「日本の原風景」だ思えました。
 だからこそ米作りの大変さはもとより、ヒカリの父が必死になって工場建設に反対し畑を守ってきた気持ちがストレートに伝わってくるんですよね……。そう、「侍タイムスリッパー」もそうでしたが、安田監督の作品は朴訥なんですよ。飾らないからストレートに伝えたいことが伝わってくる。
 そして、飾らないので理想論やロマンチシズムで終わらない。個人的に本作でいちばん印象的だったのが、コンバインが故障してしまう場面。ここで、それまで米農家としての喜びや成功の象徴であったはずの「黄金色の米畑」が立ちはだかる障害に反転するわけです。ここ、実際に米農家をしている安田監督じゃなければ絶対書けない場面だと思います。
 そしてさらにこの「黄金色の米畑」という光景は繰り返し使われます。それは土壇場で踏みとどまりつつも宅地開発されて失われていった過去であり、疎遠になっていたヒカルと父の想いがようやく交差する場であったり。そして最後に明かされる、ヒカルの父の最期。農作業中に脳溢血を起こして死に瀕したヒカルの父は、自分が手塩にかけて育ててきた黄金色の米畑を眺めながら、満ち足りた笑みを浮かべながら事切れる。
 あのシーンで、ヒカルは、そして観客はある種の安堵を覚えたんじゃないでしょうか。
 このように本作は、我々の身近にありながらなかなかその実情は知らない「米作り」をテーマとした作品です。しかし個人的には、本作にはもうひとつの背骨があると感じました。
 それは「喪の作業」。
 ヒカルの母親は彼女が幼い頃に病死しているんですが、その際にも父は水田の様子を見に行っており、幼いヒカルはひとり母の死に目を看取ることになりました。そして成長したヒカルは、今度は父の死に目に会えず、二人のわだかまりはついに解けないままになってしまっていました。
 しかし、ヒカルは父が打ち込んでいた米作りを自身も行うことで父のやっていたこと、ひいては父の想いを追体験することで、ようやく父とのわだかまりを解消し、父の死をほんとうの意味で受け止め、受け入れ、そして前に進むことができるようになったわけです。これもまた「父の死」という「死」の部分と「米作り」という「生」の部分の二項対立ですよね。
 あ、あと本作のMVPとしてはコンバイン貸してくれたおっちゃんを挙げておきたい。ツンデレはおっさんがやってこそ輝くんですよ。
 そして2本目はこちら!
 同じく安田監督作品である本作は、危険すべき監督デビュー作。
 冴えない中年男が正義のヒーローとなって悪に天誅を下すエンターテイメント作品です。
 独身で唯一の趣味がプラモデル作りという中年の新聞配達員、志朗は、行きつけの喫茶店のアルバイト、ユキにほのかな想いを寄せていました。そんな折、志朗は近所で女性を襲うオヤジ狩りと遭遇。ボコボコにされてしまうもなんとか襲われていたオヤジを救った志朗は、ユキに正義の味方と称賛されたことで次第に自信をつけていき、ヒーローとして成長していきます。
 いっぽうで、ユキは同棲相手である哲也が借金返済のためにヤクザに誘われて振込詐欺をし始めたことで大きなトラブルに巻き込まれます。果たして志朗はユキを救い、本物のヒーローになれるのか!?
 「ごはん」の感想でも書きましたが、やはりこの作品も朴訥です。人情に溢れてて、登場キャラが誰も彼も優しいんですよね。(※ヤクザ除く)
 まあたしかに映画としてのクオリティは決して高くなく、ぎこちないところもあっていかにも自主制作映画といった感じ。でもそれがまた頑張って作ってる感があって思わず応援したくなってしまいます。
 ポスターの情報によれば、なんでも本作の撮影機材は8万円のカメラと700円のライト、スタッフは3.5人という状況で作られたとか。なんだよその限界状況……。
 そして「ごはん」もそうでしたが、スタッフロールで「安田淳一」の名前がやたら出てくるのにいろいろ察するのでありました。
 さっきから作品の感想に「朴訥」という言葉を頻繁に使っていますが、これって言い方を変えれば「親しみやすさ」なんですよね。これで安田監督作品を3本見たことになりますが、それらの作品に登場する人々は、誰もが特別な能力や才能を持っているわけでもなければ、世間的に高く評価されているわけでもない一般人です。彼ら・彼女らには世界を変革するほど大きな力はありません。どこにでもいるような、そして我々にも身近な苦しみや喜びを見出している人間です。本作の主人公である志朗もまた、平凡な、というよりも平均以下の中年男です。彼は特別な力を持っているわけでもなく、ヒーローとしてその身にまとうのは通販で買ったプロテクターを改造した手製のスーツ。またタイトルには「拳銃」とあるものの、実際には空気銃。どこまでも特別なものではない。だからこそ観客である我々にも彼の懊悩が近しく感じられました。
 「ヒーロー」という存在には頻繁に世界の命運が任されます。しかし「世界の命運」と「行きつけの喫茶店のアルバイトの子」とでは、「現実感」という点においては後者のほうが「重い」わけですよ。そしてヒロインであるユキが背負っている問題もまた「世界の命運」とかではなく「多額の借金」という現実的なもの。前述の「親しみやすさ」はこの「重さ」をも生み出していると言えるでしょう。
 そしてこの「親しみやすさ」から来る「重さ」がもっとも発揮されるのはラストシーン。ヤクザのもとから見事ユキとその恋人を救い出した志朗は、ヘルメットの向こうに素顔を隠したまま言います。「僕は正義のために戦ったんじゃない、あなたのために戦ったんです」
 「正義」よりも「あなた」の方が重いんですよ。
 素顔を涙を仮面の向こうに隠したまま去りゆくその姿、まさしくヒーローだった……。
 そしてエンドロール後のCパート、仮面のレンズが黄身ふたつの目玉焼きにオーバーラップしていくシーンすごくよかった。
 あと思うに、エンドロール前の「私の名は、仮面ライ」はあれ、どう考えても安田監督の照れ隠しだと思います。
 最後にひとつ。ラッカー塗装する時は窓開けろよ……。
 そして3本目はこの作品!
 ある特殊な趣味を持っている人のアンテナにビンビン反応するフェロモンが出てるタイプの映画、塚口でやってくれるだろうなと思ってたら案の定やってくれたので見に行きました。
 「ブラック・サバスとカンフーを愛する青年の奇想天外青春ストーリー」とか言ってる時点で完全にそっち側の作品であることが察せられる本作、いざ見に行ってみるとのっけから「革ジャンロン毛の3人組が宙を舞いながらカンフーで国境警備隊を壊滅させる」が始まったので否応なく「あっ(察し)」となりました。
 本作はこっちが突っ込む前にストーリーが時速300キロで突っ走っていくのでまったく追いつけないタイプの作品でして、正直なにがなにやらよくわかりませんでした。ぼくあたまがへんになっちゃったよお。
 あらすじとしては「国境警備隊として勤務していた青年・ラファエルは、ある日革ジャンに身を包み宙を舞うカンフー使いに遭遇。以来ラファエルはブラックメタルやカンフーに熱狂するようになり、ついにカンフーを扱う僧侶たちのいる修道院へ弟子入する」というなんかもうアレな話なので一見するとトンチキ映画なんですがトンチキ映画です。
 でもなあ……なんかところどころから変な真面目さを感じるんだよな……。舞台がポップカルチャーが禁止されたソ連占領下のエストニアで、主人公ラファエルはひたすら自分の道を突き進む……って書くとなんか王道の青春ストーリーに思えてくる。
 あとところどころに「一般人の骨は白い、聖人の骨は黄色い」とか「聖像(イコン)がハチミツの涙を流す」明らかに宗教的モチーフっぽい要素が散見されるんですが、マジなのかギャグなのかよくわからないのでとても困る。でもなんか妙に楽しい作品ではありました。
 ブラックメタル部分はわたくし人形使いは造詣がないのでよくわかりませんでしたが、カンフー部分はなんか妙にちゃんとカンフーしててやっぱりなんか妙な感じ。
 全体的に「変な映画」って感想でしたが、「宗教的モチーフが散りばめられている」「意味不明でシュールな映像」「主人公が主教関係者」という3点から本作は「明るいホーリー・マウンテン」と言えるでしょう。言えないか?
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塚口サンサン劇場「ごはん」「拳銃と目玉焼き」「エストニアの聖なるカンフーマスター」見てきました!
初公開日: 2024年12月04日
最終更新日: 2024年12月05日
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