「なんであの森、あそこだけ綺麗に整備されてるんでしょう?」
サタケの問いに、食事は物静かに進めたい「魔女」はぎろりと睨むが、滞在三日目でサタケとプラムマンは明日帰る身である。気心は知れたが、最低限の礼節を持ったために「魔女」はため息を吐くとその疑問に答えた。尋ねたサタケはスープを掬って口に運んでいるが、少しだけスプーンをしゃぶるように舐め取っている。食事に集中していない証拠である。考え事をしているのだから、行儀が少し悪くなっているのだろう。プラムマが注意すべきかもしれぬが、同行者の30代を超えた男にその注意の必要があろうか。ないので黙って自分のスープを口に運んだ。
「なんでって」
「いや、なんというか。実際の現場まで行ってきましたが、急に開けてるんです。ちゃんと木を切り倒して、草も刈ったみたいで。多少草は伸びてましたが、それでも十分広かったし、確かにキャンプをやるのには最適だなと思ったんです。でも、この森をキャンプ場として貸し出してはないんでしょう?」
「そうだよ。その通り。あれは勝手に切り拓いたんだよ」
「勝手に?」
サタケはスプーンをかちゃんと食器に当ててしまった。「魔女」の目がいよいよ鋭くなるが、彼女の細かな変化に気が付いているのはプラムマンだけだ。サタケは無邪気に尋ねる。
「それは、どこかの団体なんでしょうか」
「なんでそう思うんだい」
「個人の力では難しいかと思ったんですよね。それにしては、綺麗でした。遺族の方が手入れしているとは思えないですし…」
「その通りだよ。ここは、村長が許可を出したんだ。耄碌してたのか、金に目がくらんだのか。A.E.I.D.(エイド)の集会所だったんだ」
「A.E.I.D.(エイド)…ですか」
「知ってるかい。最近なんか耳にするだろ? SNSで人気だって話で」
「ええ。SNSでも今も人気だったりします。名前は私もよく知ってますが…こんな所に、集会所なんて話は聞いたことがなかったですね」
「まあ、A.E.I.D.の活動もすぐに終わったから、知らなくても仕方ない。だが、あいつらは作ったんだ。村長に一応許可は取って、勝手に切り拓いたんだ」
「国有林なのに、ですか?」
「誰も知らないんだよ。興味もない。それに、誰も咎めに来なかった。役人なんてそんなものさ」
「じゃあ、その集会所を勝手に作ったとして…今は使われていないとして、どうやって…」
「何がだい」
サタケが呟いて顎に手をやったのに、「魔女」は怪訝そうに言う。だがサタケは、ぶつぶつと呟きながら完全に食事を放棄する流れた。「魔女」は呆れかえった。こうなると食事に集中できる訳はない。子供じゃないんだから!と思わず口の中で不満を転がすと、横にいたプラムマンが突然に声を上げる。
「リュウジ」
「ん? なんだいトーマス」
「食事に集中しなさい」
「…ハイ」
すごすごとサタケはスプーンを手に取る。どことなくしゅんとして、「魔女」の言葉は届いていなかったのに、プラムマンの言葉には即座に反応した。「魔女」はもう一度呆れかえったが、自分の食事を黙々と済ませるのだった。