またあの偽装天使の青年がやってきた。なにか大きな……銃のようなものを背負っている。見覚えのないものだ……いや、記憶にかすかに引っかかるものがある。なにかとても……危険なものだったような気がする。
 警戒しているのがわかったのだろうか、青年は私から少し離れた場所で歩みを止めた。相変わらず、どこか困惑したかのような、そして深い悲しみ、あるいは後悔……罪の意識を抱えたような、青ざめた顔色だった。青年はその顔で不器用に笑ってみせた。ずいぶん久しぶりに見た気がする、感情の感じられる人間の顔だった。
 青年はそっと、自分の足元になにかを置いた。それが箱だったとわかった瞬間、私は枯れ枝のように頼りなくやせ細った足で駆け寄っていた。
 もちろん、それが娘の入った箱ではないことはわかっている。娘の入った箱は私が大切に持っているのだから。けれど私は、その箱を見た瞬間駆け出さずにはいられなかった。娘が入っている箱に執着するあまり箱自体にも執着するようになってしまったのか?
 青年の足元に置かれた箱を拾い上げると、青年はまだそこに立っていた。
「あ……ありがとう」
 ありがとう。感謝の言葉。
 こんな言葉を口にしたのは、いったいどのくらいぶりだろう。世界がこんなことになって、まともに言葉が通じるような相手はほとんどいなくなってしまっていた。
 青年は、私がいつも箱を持っているからよほどの箱好きだと思ったのだろうか。私にとって休養なのはこの娘が入った箱だけだが、本当に久しぶりに触れた他人の好意が、私にはひどくうれしかった。
「箱をくれるか、うれしいねえ。お礼に、これをあげる」
 私は徘徊する異形どもの目を盗んで拾い集めた道具を青年に渡した。どのみちここからほとんど動かない私よりも、目的は知らないがこの塔を探索しているらしい青年が持っていたほうが役に立つだろう。
 私の歪みで肥大化した手を恐れるようすもなく、青年は私から道具を受け取った。かすかに頭を下げた青年は、ふたたびどこかへと去っていった。
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冬コミ原稿をちょっとだけやっていきます。
初公開日: 2024年11月19日
最終更新日: 2024年11月19日
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