至上の甘みの奥にはほんの少しの苦みがあると良い。そのわずかな異物が脳天を衝くものを更に引き出し、忘れられなくする。ごくんと飲み干したのを確認するため、キングの太い指が寝台の横で床に座るカワダの口を、覗くように横に開かせた。口の中は何も無い。姿勢のいい歯とほんの少しお行儀が悪く丸まっている舌がある。キングはため息をついた。
 「飲むなと言ったのに」
 「どうしてです、いいじゃないですか。美容効果もあると言われてますし」
 「タンパク質だからか? それならプロテインの方がよっぽど吸収効率がいい」
 「ふふ、真面目ですねハルは」
 にこりとカワダは満足そうに笑む。飲み込んだ舌の先を軽く噛んで見せたが、本当に何も残っていなかった。全て飲み干したようである。やれやれと言いたげにキングはカワダを寝台の上に抱き寄せる。あはは、と自分の体が急上昇するのをカワダは無邪気に笑っていた。普段はしかめっ面で相好を崩さないのイに、キングと二人きりではにこにこと笑い、嬉しそうにする。こういう要因が溺れる原因だなと、食虫植物に捉われた蠅を思う。こうなると並大抵のことでは抜け出せまい。
 「あと何回触れ合えるのかと考えた時、少し惜しくなったな」
 「真面目ですね。飽きるまで触れ合ってしまえばいいのに」
 カワダの言にキングは笑う。そうして腕の中に抱き締めると、ほんの少し彼の温かさが移って来た。そのうち互いに汗をかくだろう。彼らの性交渉では、性器を使った挿入の回数は随分と減っていた。年齢は関係ある。それに体力を残さねばならない状況下だ。互いに愛欲に溺れる指揮系統では示しがつかない。だから肉欲を取らずに、なるべく互いをいたわり合う…とはいっても、衣擦れならぬ肌を擦り合わせることはしていた。これが存外気持ちがいい。互いの肌にぴったりと手足を合わせて、ゆうっくりと滑らかに動かすのだ。たまにくすぐったくもあるし、体毛がひっかかってくすぐったい時もある。指を絡ませ合うのは勿論の事、指の間の膜にも触れて皮膚の上から骨の形を確かめて、それで夜更けまで過ごすのだ。若い頃であればすぐにキスだのハグだのに飽き足らず、今ごろ激しくベッドを軋ませていただろう。そういった愛も非常に悪くない。だがこれはこれで、気持ちが良いのでカワダも気に入っていた。たまにキングの性器にいたずらをし、自分へのそういった欲求が遺されているのかと確かめる時があるが、もっぱら使うのは口か手である。今日もそういった行動を起こした後、抱きすくめられて肌をこすりあわせられ、カワダは心地よさそうに目を細める。
 「気持ちいいなぁ。こうやって抱き締められると」
 「君はこれが好きだな」
 「ええ。誰でも良くはないですが、ハルのは好きですよ。子供みたいな気分になる」
 「……子供か…」
 「あ、年上だからって意味じゃありませんよ!?」
 「冗談だ」
 もう、とカワダが怒ったように前を向いた。キングはその機嫌を取る為に、髪と額をやさしく撫でてやる。
 「すまない。いつも君がリードしているから、たまにはな」
 「してませんよ」
 「もし可能なら…若い者に相手をしてもらったらどうなんだ?」
 「嫌です。ハル以外は今は考えられません」
 そうきっぱりと言うカワダを好ましく思うほかない。背後だからこそ顔は見えないが、その顔が策略に歪んでいようともこの愛情は揺らぐことは少ないだろう。イサオ、と呼び掛けるとむすっとしたカワダが振り返る。口を尖らせていた。
 「若者に相手をしてもらえ、だなんて」
 「すまん、すまん」
 「そう簡単に浮気できるものですか!」
 どうやらカワダは立腹らしいが、若い頃の彼を見初めた人間の多さをキングは知っている。だからそう言ったのだ。おまけに、その水面下の苛烈な争いの中で、のほほんとしていたカワダを誰も穢せなかった事を思い出した。いつだって優秀な男は、わりとこういった方面に鈍感で、仲の悪い同胞に小首を傾げるくらいだった。相手をしてくれる若者はいると思うがな、とキングは内心で思う。ただ口に出すとカワダの機嫌を損ねるだけでなく、自分の嫉妬心にまで火が点くので、今は言わない。金輪際言わないだろう。
 「イサオ、機嫌は治ったか?」
 「多少はね」
 「そうか。じゃあ君の肌をもう少し独占することにしようか」
 そう言ってカワダの頭を引き寄せて、自分にもたれかからせる。彼が脱力したのが、カワダの体の重みで分かった。無防備な足に触れ、内ももに触れるとぴくりと反応するのが面白い。薄い皮膚を丁寧になぞる。そのうちカワダが内ももを閉じようと両足を引き寄せるが、キングの手が間に挟まっていて出来なかった。そのうち筋をなぞり、揉むようにする。くすぐったさと恥ずかしさが入り混じったような吐息が次第に大きくなり、カワダがもぞもぞと腰を動かすのが分かった。
 「ハル」
 非難めいている声だが、少々命令じみても聞こえる。ああ今参りますよ姫。そう言いたげにキングの手はゆっくりと股の間に当てられ、カワダは素直にその手が与えてくれる先を心待ちにしていた。 
 はーとありがとうございます!
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