「18-7年齢操作パロ 二人はどんな関係?」
支部に上げている「ずるい」の続編的な何か
 伊地知は一度呪術師から呪詛師に身を堕とした人間である。まともな死に方はしないと思って日々を生きていたが、まさかこういうことになるとは思ってもみなかった。
「補助監督……?」
「そ、伊地知は僕専属の補助監督。死にたくないなら僕から離れないこと」
 当然のように告げられた言葉の一端も理解することができずに伊地知はじぃと現代最強の男を見つめる。二つ年下である彼とは伊地知が高専を去るまで特に関りはなかった。同級生の夏油傑や家入硝子の二人の方が、伊地知を先輩として慕ってくれいたようにも思う。
 なぜ五条が伊地知をわざわざ高専に連れて帰り、その上呪詛師として処分するのではなく「補助監督」という身分を与えようとしているのかがわからない。
「傑にさぁ、弱者は守るものだって言われるのがイマイチわかんないんだよね。だってどれだけ守ろうと思って気を付けても死んじゃうものは死んじゃうし。その点伊地知は弱いけどうまく生き残ってくれそうだから」
 つまりは五条悟の情操教育をしなくてはならないのか、しかも伊地知自身の命を張って。
 絶対に嫌だ。しかも特級呪術師の任務に同行なんて命がいくつあっても足りない。小物は小物らしく日銭をせせこましく稼いで、仕事終わりの一杯が至福くらいの生活で充分だ。伊地知が首を横に振ろうとしたのを感じ取ったのか、五条の大きな手が頭を掴む。
「お前の命は僕のものだからな」
 やはり、伊地知が今もこうして生きているのは五条が何かしら動いたからなのだろう。この命令が聞けないのならば死ぬと告げられても尚首を横に振る程伊地知は達観していない。
「専属というのは他の補助監督の方にも話は通っているんですか?」
「伊地知が呪詛師になったってのは数人しか知らないから、補助監督たちは伊地知が戻ってくるって聞いて喜んでたし有難がってたよ。特級って忙しいからさ」
 この五条が用意した閉ざされた部屋から出ても直ぐに他の真っ当な補助監督や呪術師から命を狙われるということはなさそうだ。
「数人というのは?」
 名前を聞いて可能な限り近付かないでおこうと心に決める。
「傑は当然知ってるとして、夜蛾学長と硝子にも言ったな。後は七海と灰原とベテラン補助監督」
 挙げられた懐かしい名前を頭に刻む。誰もが実力者で一瞬で伊地知を葬り去ることが可能だ。唯一、ベテラン補助監督は術式はないが長くこの業界に身を置いている以上、術師からも信頼を得ているということはその術師たちから嫌われていると思ってもいいだろう。
 ほとんど高専に伊地知の身の置き場はない。それで五条の補助監督として仕事が務まるとは思えない。補助監督というのは本来術師が動きやすいようにサポートをするのが仕事である、孤立した人間がするものではない――というのが伊地知の認識だ。
「はじめは僕の任務に同行して車運転するくらいでいいよ。ナビもついてるし難しくはないと思うけど。ちゃんと給料も出すし」
 五条の言葉に「それくらいなら」頷いたのが間違いの始まりだった。
 帳を下ろして待機するつもりだった伊地知を五条は荷物のように抱えてとぷりと闇の中に身を投じた。どうしてと見上げると「ここが一番安全だから」との返答があり、確かにそれは間違いではないと抵抗を諦めた。しかし、ここで諦めたのがよくなかった。
 五条が派遣された時点で、伊地知レベルでは到底敵わない呪霊が祓除対象だと考えに至るべきだったのだ。山奥の廃神社で五条は笑い声を上げながら自身の術式を惜しみなく放っては、周辺の地形を変えてしまう。
 人生で一度も聞いたことが無いような轟音を奏でる元凶の傍にいることが恐ろしいし、何よりもその力を奮う男が興奮した様子で目を見開いて口角を上げているのが何よりも恐ろしい。これではまるで戦闘狂だ。すばしっこい呪霊が祓われたのはその後半刻も経った後だった。 
「任務しゅーりょー。今日も完璧!」
 伊地知の視界には加算噴火でも、土砂崩れでもこうはならないだろうという地形が広がっていた。
 五条は伊地知に運転して目的地まで送り届けるだけでいいといったが、毎回これでは身が持たない。伊地知は自分が生き残るためにも五条に割り振られる任務を先回りして調べ、呪霊の特徴と五条にどう動いて欲しいかを事前にお願いするようになった。そうなると伊地知の事情を知らない補助監督たちは五条案件は伊地知を通すようになり、ますます五条専属の補助監督として名前が通るようになる。事前の調査や送迎、挙句には報告書の代筆や呪具の貸出申請などこれでは本当にただの「補助監督」のようではないか。
 おかしい。伊地知は仮でも呪詛師だったはずなのにという疑問は日々の忙殺の中で消えた。 
「五条特級呪術師! お願いですから術式を抑えてください!」
 お願いします! と叫ぶ声は五条の耳には届いていないらしい。今回は初めに同行した時のような山奥で、ある程度の損害は出してもいいと予め五条には伝えていた。伊地知が補助監督まがいの仕事をして口を出すようになってから、予想とは裏腹に五条から反発されるたことは少ない。伊地知の言った通りに動き、できなかった時には反省した素振りを見せられて伊地知の方が戸惑ったくらいだ。
 ザコが命令するな、と言って頭と身体が切り離されることも覚悟していたので拍子抜けと言ってもいい。祓除の際の被害も最小限に抑えられることが続き、大人しい五条の姿に伊地知は恐くなってきた。どういう思惑があって五条は伊地知の指図通りに動いているのか、このまま我慢させ続きていればいつか爆発してしまうのではないか。
 間違いなく、その爆心地にいるんのは五条に抱えられた伊地知だろう。
 補助監督の仕事を任せられるようになっても五条が伊地知を抱えて帳の中に連れて行くことは変わらなかった。ならば、せめて小出しにしてもらおうと「半径10kmなら思いっきりやっても構いません」と告げたのだ。
 やはり鬱憤は溜まっていたらしく、五条はぱっと表情を明るくさせて術式を思う存分に放ち始めた。慌てて伊地知が叫んでも聞こえている様子はない。
 また地形が変わった理由をこじつけて関係省庁に連絡をして、そして何よりも嫌なのが夜蛾に報告をしなければならないことだ。自分にも他人にも厳しい夜蛾のことだ。いつ呪詛師になった伊地知のことをかつての教え子として「責任」を取ろうとするのかわからない。
「……ごめん、やり過ぎ?」
 満足顔の五条が伊地知の顔を見て眉を下げる。途端に先程までの破壊神から人間染みるのでなんとも不思議なものだ。被害は伊地知の想定を上回るが、まだ許容範囲内におさまってる。乾いた笑いを溢してから大丈夫だと告げる。
「いえ、これくらいなら問題ありません。暫くは忙しくなりそうなので食事はお一人でお願いします」
「手伝うから、ご飯は一緒がいい」
「……夜蛾学長への報告は五条特級術師が行ってくださいますか?」
「やるやる!」
 一番やりたくないことを五条に押し付けることに成功し、伊地知の悩みが一つ減る。
「帰りは僕が運転するから、伊地知は代わりに報告書を書き始めといてよ。そっちの方が時間短縮できるし」
「そうですね、よろしくおねがいします。今回の呪霊は事前調査より力を増していたと見受けられましたので被害としては妥当なはずです。調査が足りておらず申し訳ございません。五条特級術師でなければこんなに早く任務は終わっていなかったでしょう、流石です」
 実際、伊地知の想定よりも呪霊は大きく強かった。その所為で五条も力を強めることになったのだ。原因は何か適当にでっち上げてしまおうかと考えるが、完全な嘘を吐く方が面倒になる。少し知らべてわからなければ、ありのままを書いてしまおう。
「伊地知は僕の補助監督だよね? 傑に誘われても傑に付いて行かないよね?」
「私は五条特級術師専属の補助監督です、他の方への同行なんて絶対にお断りです」
 だよね! と喜色を示す五条にもしかして面倒な人に気に入られてしまったかもしれないと伊地知の脳内に不安が過る。しかし、それも一瞬のことで帰りにうどんを食べて帰ろうと行きたかった店名を告げられて「困ってないしまあいいか」とあっさり忘れてしまった。
  
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