ここ最近、チェコの様子が明らかにおかしい。
 元々そんなに残業するタイプではなかったけれど、それにしても就業と同時に職場を後にするなんて、以前には見られなかったことだ。
 それと、昨日。急に俺の夏の予定を聞いてきた。それ自体は別に変でもなんでもないのだが、休日になにも予定がないことを伝えると、八月全ての日曜日を空けておくように言われた。
 おかしい。今まで遊びに行く時はどこに行くかまでちゃんと教えてくれたし、なんなら服装まで指定された。でも今回はそんなのにも聞いてない。
「おかしい、おかしい……」
「いかがなさいましたの?そんな、眉間に皺を寄せて」
 いつの間にか背後を取られていた。勢いよく後ろを振り返る俺とは対照的に、チェコはひどく澄ました顔で淹れたばかりの紅茶を差し出した。家の棚に放置したままの、なんという名前だったか思い出せない茶葉の匂いがした。
「いや、ちょっとね。国のことで」
 吃りながら嘘をついたのを分かってか、ふうん、と楽しくなさそうな声をあげて正面に腰を下ろした。それから、特に断りもなく俺の分にも砂糖を少し入れた。
「そう、思い出しましたわ。やだ、そのためにここまで来ましたのに。それでね、次の日曜は空港まで来てくださいまし。余計な荷物は結構ですわ、身一つでいらして」
 意味深な笑みを残して、茶菓子を取りに再びキッチンへと踵を返した。
 身一つでって、空港まで行くのにまさか海外でないなんてことはないのだから、せめてパスポートぐらいは必要だろう。モバイルバッテリーは現地調達するとして、着替えは何日分必要だろうか。どれだけこの頭で考えようと、彼女は質問を聞いてくれないので仕方がないけれど。
 振り回されてばかりだな、と紅茶に口をつけた。
「さあ行きますわよ、スイーツバイキング!」
 どうやら空港内で営業しているレストランが夏限定でスイーツバイキングを開催しているらしかった。チェコは俺の姿をみつけた途端、小走りでやってきた。よりたくさん食べるためか切り替えのないワンピースを着ていた。
「この、シロクマのたっぷりいちごミニパフェが食べたいんですの! あなたには物足りない甘さかもしれませんけれど、ほら、こっちのケーキなんかは」
 ニコニコしてスマホの画面を向けてくる。食べる前からお腹いっぱいになる笑顔だ。お店の前にできた列にはSNSでの告知を聞きつけた若い女性が多く並んでいた。その最後尾に揃って並んで開店を待った。
「他には? 今のうちに見せて」
 少し屈んでチェコのスマホを覗く。クレープやアイスのほか、ふるりと揺れる柔らかいプリン、くっきりと層のできたティラミスなど美味しそうなスイーツが画面を埋めていた。
 しばらくして、店員さんの合図とともにお店が開いた。
「さあスロバキア、次の日曜は植物園に行きますわよ」
 お腹いっぱいになってきたなと油断していたら、チェコがこちらに身を乗り出した。まだ食べきれていないケーキの生クリームに髪がつきそうになっているのを避けてあげながら続きを促した。
「植物園? どうしてまた急に」
「青ケシの花が咲いたと連絡がありましたの。青ケシの花、ご存知? ヒマラヤの花で栽培が難しいのですって」
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