【仲ルキ視点の臣十】とある日のお出かけ
「今度、莇と野球観戦行くんだ! ちゃんと日焼け止めも塗って…熱中症対策もばっちり!」
「そうか」
「莇、前は野球観戦誘ってもあんま興味なさそうだったんだけどさー、最近は結構興味持ってきてくれたみたいで、今度行く野球観戦の対戦チームについても色々聞いてくれたんだー」
「そうか」
「やっぱり、自分の好きなものを好きになってくれるのって、すっごくすっごく嬉しいよね!」
「そうだな」
談話室のソファに腰掛け、大きな声を弾ませながら嬉しそうに喋り倒す九門の話を、十座は穏やかに頷きながら耳を傾けていた。大切な弟の楽しそうな姿を見るだけで、十座も幸せな気持ちになる。
「はは、九門は本当に嬉しいんだな。楽しそうな声がキッチンにも届いてたぞ」
「臣さん!」
背後から、先程までキッチンで料理をしていた臣が声をかける。その手には焼きたてのバスクチーズケーキ。目を輝かせた二人の前で、臣はそのままのものを九門に、たっぷりのホイップクリームとアイスクリームを添えたものを十座に渡した。その気遣いに、九門も十座も笑顔になる。
「ありがと、臣さん! 臣さんのチーズケーキ、オレ大好き!」
「臣さん、あざっす。九門と同じもの食えんの、嬉しいっす」
見た目はもはや別のスイーツだが、九門も十座も自分の好みの味に合わせてくれる臣が大好きだった。
「はは、俺もそう言って貰えて嬉しいよ」
そう穏やかに笑う臣を、十座は目を細めて見つめる。そんな兄の視線に気が付いて、九門は二人に尋ねた。
「兄ちゃんと臣さんはどっか行かないの?」
九門の質問に、十座が視線を移して答える。
「今度、早朝ツーリングに行く予定だ」
「早朝、って、朝早いの?」
「ああ。夏のツーリングは暑いから、朝から標高の高い場所に行ってくる。山の中もいいもんだな」
「山かあ……オレ、海も好きだけど山も好き! 景色いいもんね」
「ああ」
「兄ちゃん、また写真撮って来てよ!」
「ああ」
十座が写真について九門と話しているのを見ると、臣は幸せな気持ちになる。
『やっぱり、自分の好きなものを好きになってくれるのって、すっごくすっごく嬉しいよね!』
先程の九門の気持ちが、痛いほどよく分かる。バイクも、写真も、臣が好きなものを十座が好きになって続けてくれているものだ。嬉しくないわけがない。
と思っていたら、九門がいきなりこう続けたので、臣は飛び上がるくらい驚いてしまった。
「臣さん、バイクも写真も、兄ちゃんに教えてくれてありがとう! お陰で、オレもすごく好きになった!」
「え、あ、いや……」
一瞬心を読まれたのかと思って動揺する臣に、九門も十座もきょとんとした顔を向ける。臣は一度咳払いをして、二人に微笑みかけた。
「俺は何もしてないよ。十座が好きになってくれて、十座が勉強して身に着けてくれたんだ。感謝するのは俺の方だ」
「いや、そんなことねえ。俺は、臣さんが教えてくれたからバイクも乗れるようになったし、写真も撮れるようになった。俺の方こそ、感謝してもしたりねえ」
「いや、俺の方こそ……」「いや、俺の方が……」
そんなことを言い合う臣と十座に、九門はニコニコしながら更なる爆弾を落とす。
「兄ちゃん、臣さんのこと大好きだから、バイクも写真も大好きになっただもんね」
「「!?」」
その瞬間、臣と十座の顔が真っ赤になって固まってしまったのを、九門は「どうしたの?」と不思議そうに眺めていた。
「あれ? 今日の夕食ってサンドイッチ?」
莇は水分補給で訪れたキッチンで、思わずそう訊ねてしまった。相手は劇団一の料理上手・同じ秋組の臣だ。
「あ、いや、これは、。明日の出掛け用だ」
臣は莇の質問に若干口ごもりながら答える。珍しく歯切れの悪い臣の答えに不思議そうに首を傾げる莇
臣は気を取り直すように笑って、「今日の夕食はジャンバラヤだ」と教えてくれた。カレーと同じくスパイシーな味付けの洋風炊き込みご飯だが、カレーじゃないだけで莇は心躍った。
「明日って、臣さんは休み?」
「ああ、お盆休みも兼ねて連休貰ったんだ。それで、十座と早朝ツーリングに行こうかと思ってな」
「ああ、十座さんと……」
莇はサンドイッチを作っている理由を聞いて納得した。臣と十座はツーリング仲間としてよく一緒にバイクで出掛けているから、莇としては見慣れた光景だ。そして、何気なく質問する。
「丞さんとガイさんは?」
丞とガイも同じくツーリング仲間のようで、この前も4人で遠出をしてお土産を買ってきてくれたばかりだ。だから、臣、十座と続くなら、一緒に行くのかと単純に思っただけだ。
だが、莇の質問に、臣はまたしても「あー」と視線を彷徨わせ、何か言い訳を探すように虚空を右から左へと動かした。
「?」
首を傾げる莇に、臣はやっと思い至ったようにパッと顔を明るくして答える。
「……2人とは、予定が合わなかったんだ。丞さんは客演の舞台中だし、ガイさんはバーの夏メニュー開発に忙しかったから」
「あー、そういやそんな事言ってたな」
そして、今朝珍しく早起きの紬が丞の舞台を観に行くと言っていたこと、その後仕事終わりの至と3人で飲む話をしていた事を思い出した。
「……でも、なんでそんな歯切れ悪いんだよ、臣さん」
不思議に思った事を素直に尋ねる莇。臣は慌てたように、「そ、そんなことないぞ」と言ったが、普段の落ち着いた態度と比べて挙動が不審なのは明らかだ。
だが、莇は長めのため息をつきながら、「ま、別にいいけどな」とこの話を終わらせた。
「ちなみにどこ行くんだ?」
「山の方だな。涼しくて風も気持ちいいから、夏はよく山に行くんだ」
「へえ……夏って言ったら海なのかと思った」
「海沿いもいいんだが、真夏はちょっと日差しがキツいんだ。だから、時期としてはもう少し前の方が向いてる」
「ふーん」
何気なく頷きながら、少し前に免許を取った九門は「とりあえず海行きたい!」と言っていたから、一言言っといてやろうと思った莇であった。
臣が作ったサンドイッチをしまいながら話題を変える。
「莇も今度九門と野球観戦行くのか?」
「そうだけど……なんで臣さんが知ってるんだよ」
なんとなく想像はついたが思わずそう尋ねてしまう莇。臣は笑いながら、「九門が十座に嬉しそうに話してるのを聞いたんだ」と答えた。全くの予想通りで莇はつい笑ってしまった。
「だと思った」
「はは、盗み聞きしたみたいですまんな。九門があんまり嬉しそうで、十座もすごく楽しそうだったから、つい」
「いや、別に内緒にしてた訳でもないし。それに、どうせ九門の声がうるさくて聞きたくなくても聞こえるだろ」
「ははは、それだけ九門も楽しみにしてるみたいだったよ」
臣の言葉に莇は我知らず微笑んでしまった。そして、放しながら臣が手元に新しいふわふわの食パンを用意しているのを見つけてしまった。
「って臣さん……まだ作んのかよ?!」
「あ、ああ……今度は十座用にフルーツサンドを作ろうかと思って」
そう言って用意されている生クリームとフルーツの量の多さに、莇は思わずあんぐりと口を開けてしまった。「十座さんただでさえ皮脂多いからせめてクリームの量を……」と思わず説教し出してしまいそうになった莇だが、巨大なボウルで大量のクリームを泡立てている臣の心から幸せそうな笑顔を見て、口を噤む。なんとなく、これを言ってしまうと臣がすごく悲しそうな顔をする気がするし、言ったところで絶対改善されない予感がするのだ。
「臣さん……」
「うん? なんだ?」
ニコニコと、すごく嬉しそうに山盛りのクリームを生産している臣に、莇は一言だけお願いすることにした。
「せめて、クリームにレモン果汁を足してくれ」
「! なるほど、クリームがすぐ泡立つから分離しにくくなるもんな。さすが莇だ。アドバイスありがとう」
莇の言葉に目を輝かせて頷き、早速混ぜてくれた臣に、「違う、そういう意味じゃない」とは言えない莇であった。
「やっぱり朝は空気が気持ちいいな」
「そうっすね」
そう言いながら二人はバイク降りて伸びをした。肺に吸い込む空気にしっとりと緑の匂いが混じる。日差しも心なしか柔らかい。朝が早いお陰か、周囲には人影もなかった。
「道が結構カーブ多かったけど思ったより早く着けて良かった」
「っす。臣さんのコース取りがうまいからいつも助かってる」
「はは、十座もうまいじゃないか。帰りは十座が先に走るか?」
臣にそう言われ、十座は少し考えてふる、と首を振った。
「俺、臣さんの背中見ながら走るの好きなんで」
愛しい十座にそんなことを言われ、臣はグッときてしまう。思わず抱きしめたい衝動をどうにか抑え、十座の耳元で囁くにとどめた。
「……俺も、十座が好きだよ」
「!」
ストレートな愛の告白に、今度は十座が顔を赤くする番だ。十座の可愛い反応を満足そうに見つめ、臣はバイクに積んだ大きなクーラーボックスを下げ、近くの木製テーブルとベンチで早速朝食の準備を始めた。昨日作っておいたサンドイッチを広げ、水筒からコーヒーシロップを注いで十座には濃い目に、自分には薄めに割って出した。
「さ、朝食がまだだろ。食べよう」
「……っす」
テキパキと食事の用意をする臣の姿にこっそりと見とれていた十座は、臣に声をかけられて食卓に着く。
「「いただきます」」
手を合わせて、同時にサンドイッチにかぶりつく。サンドイッチの具は周囲豊富で、十座は噛み締める度に違う旨味のするサンドイッチを、(臣さんみたいだな……)と思いながら味わった。山のように積んだサンドイッチが瞬く間に十座の口に消えていくのを、臣はニコニコしながら見守る。十座の食べっぷりは本当に気持ちがいい。見てるこちらまで釣られて食欲が出てくるようなエネルギーを感じる。
「……臣さん、なに笑ってるんだ?」
「いや、十座の食べっぷりは気持ちいいなと思って」
「それは嬉しいっすけど……臣さんもちゃんと食ってくれ」
「はは、そうだな」
そう言うと、臣は十座の口元についていたオーロラソースを指で拭い、ペロリと舐めた。
「ん、うまい」
「——!」
その表情があまりに色気たっぷりで、十座は途端に顔を赤くする。そんな十座を可愛く思いながら、改めて朝食を再開する臣。二人の間には甘酸っぱい沈黙が満ちた。そして——……。
「「ごちそうさまでした」」
サンドイッチを食べきり、手を合わせて食事を終える二人。
「十座、足りたか? まだフルーツサンドもあるけど……」
と話し出す臣の袖をくいっと引っ張り、十座は頬を赤くしながらぼそりと告げた。
「その前に……デザートが、欲しいっす」
「デザート?」
一瞬フルーツサンドのことかと思ったが、照れている十座の様子に、臣はピンときた。幸い、周囲に人影はまだない。
「じゃあ……どうぞ」
「んっ」
臣はぐっと十座を引き寄せると、そのまま深く口づけた。先程食べたサンドイッチの味が官能的に舌に伝わる。十座も応えるように積極的に舌を動かし、互いが離れる頃には息が乱れてしまった。
「んっ……はあっ、ごちそうさまでした。って、これじゃどっちのデザートか分からないな」
「んん……ふっ、あざっす」
離れた十座の舌が名残惜しそうにぺろりと自分の唇を舐める姿に、臣はグッとくる。もう一度十座を引き寄せ、耳元でねだるように告げた。
「……フルーツサンドはもっと景色のいいところで食べようか。その後……俺もデザートが食べたい」
「……っす」
言外にキスの約束をねだった臣に、十座は顔を赤くしながらもしっかり頷く。フルーツサンドのあとのキスは——今よりもっと甘そうだ。
【終】
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【仲ルキ視点の臣十】とある日のお出かけ
初公開日: 2024年10月28日
最終更新日: 2025年08月17日
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2024年夏休みのえすり限定ボイスに着想を得た九門&莇視点の臣十