助けの手が必要かなって思っただけ。僕の手でも役に立つなら貸そうかなって思っただけ。でも、本人から求められていない助けの手って、ときどきお節介になっちゃうことがある。
「上から偉そうにするんじゃねえ! 調子に乗るなよ、身内に神覚者がいるからって偉そうに!」
 助けがいるかなって聞いただけだったんだけど。苛々してたのかも、上手くいかなくって。そういうこともあるよね、人間誰でもって思うけど、よかれと思ってしたことにきりきり尖った拒否が投げつけられるとやっぱりびっくりする。僕は思わず怯んで黙り込んじゃったんだけど、
「おいてめぇ!今なんつった⁉」
 僕の後ろにいた友達の方が黙っていなかった。
「ドットくん」
 いいよ別に大丈夫だよって、飛び出してきたドットくんを止めようと思ったけど、眉毛も目尻も吊り上げてるドットくんて完全に、その、……怖い感じになっちゃうから。座ってたその生徒はひぃって悲鳴上げて、逃げ出していっちゃった。
 ちょっとかわいそう。僕はすっかり慣れてるけど、目怒らせて凄んだドットくんて、やっぱりさあ、ちょっとね、うん。
「んだよあいつ!フィンの善意をねじくれた受け取り方しやがって!」
 でも、僕のために怒ってくれるのは嬉しいよね。うん、嬉しい。ドットくんて友達思いで優しいからね。
「ありがとう、でも大丈夫だよ」
「……お前、腹立たねえの?」
「ううん、そうだなあ。びっくりしたし残念だけど、余計なお世話だったのかもしれないし」
 そう答えたら、なぜだかドットくんの方がむっと膨れた。
「お人よしすぎんだろ」
「そうでもないよ」
 僕はあははと笑ったけど、ドットくんはしゃがみ込んで、はああって大きく息を吐いた。なんか変に脱力させちゃったかも?
「心配してくれてありがとう。ごめんね、ドットくん」
「お前って、ほんとお人よし」
「ドットくんも人のこと言えないと思うけど」
「偉ぶらないしなあ」
 あいつは身内がどうのって言ってたけどよ、とドットくんが体を起こした。
「偉ぶるって、何のこと?」
「お前の兄さん、神覚者じゃん? でも、初めのころにも全然それ言わなかったし、俺もあのときまで知らなかったしなあ」
 あのときっていうのは、あのときだろう。ドットくんと二人でいたときに、兄さまが現れたとき。ドットくんと知り合ってからあのときも、兄さまとは距離があったし、いろいろあったし、自慢するとかしないとかそんな状況でもなかったからっていうのもあるんだけど。その辺りのことは少しはドットくんも知っててくれてるから、僕がちょっと複雑そうな顔をしたら察してくれたみたい。
「……それにしてもよ。結構いるだろ、身内の権力笠に着て威張り散らすようなやつ」
「ああ、そうだね……」
 まさにそういう人に心当たりがあって、僕は曖昧な笑顔を浮かべた。でもまあ、ロイドくんのおかげでマッシュくんと本当の友達になれたんだから、結果見れば悪いことばっかりでもないんだけど。
「お前なんか、師匠だってカルドさんじゃん? あの神覚者さまだぜ? よく考えりゃ、マッシュだって神覚者に選ばれたわけだし。お前の周り偉い人間ばっかりじゃん」
 いきなりカルドさんとかマッシュくんの名前出てきたけど、僕は首を傾げた。
「だって、偉いのって別に僕じゃないしね?」
 それに、と僕は続ける。
「ドットくんだってマッシュくんの友達だし、オーターさんが師匠じゃない。でも、そんなの人に自慢しないでしょ?」
「そりゃお前、偉いのはオーターさんであって俺じゃねえし。力つけて勝って功績残したのもマッシュであって、俺じゃねえし」
「ドットくんだって戦って大活躍だったけどね?」
「おうよ!」
 ほらね、と僕は笑った。
「すごい人に師事させてもらってありがたいとは思っても、そんなのドットくん自身で自慢しないでしょ? 僕も同じだよ」
 ああ、とドットくんが納得したように頷いた。
「大好きな兄さまがすごいのは僕の誇りだけど、それは僕が自慢する僕のことじゃない。カルドさんが立派な人なのも尊敬してるし誇らしくはあるけど、単なる弟子が大きい顔なんてできるわけないし。二人のことをすごいねって言われたら嬉しいけど、でも、僕が褒められてるなんて勘違いしないでしょ」
 そういうことだよ、とドットくんを覗き込むと、そういうことか、とドットくんが頷いた。
 でも、僕の兄さますごいでしょっていう自慢自体は、ちょっとしてもいいかなあ、なんて思わないこともない。僕のことじゃなくて、あくまで兄さまのこと。 ドットくんも、なんだかんだでオーターさんのことは慕ってるみたい。この前も一緒にご飯に行ったって言ってたし。怖そうな人だけど、案外面倒見がいいのかなって、ドットくんとランスくんの話聞いてると感じることがある。
 ドットくんも、師匠の自慢とか、……してみたいかな? 僕は兄さまの自慢、してみたい、かも。ドットくんの話聞いたら、僕の話も聞いてくれるかも?
「ねえ、ドットくん」
「なんだ?」
「あのね、」
「フィンくんって、本当にいい子だなあ」
 俺の隣でマックスがにこにこと笑っている。笑ってはいるが、微笑ましげというよりは、にやにやと俺をからかうつもりが滲み出ている人の悪い方の笑い方だ。
「身内の権力は笠に着ないけど、身内自身の大好きなこと自慢はたくさんしたいんだなあ。なあ、『兄さま』?」
 先ほどからドット・バレットに向けられている「僕の大好きな兄さま、僕のすごい兄さま」の語りは延々と続けられていて、どうやらまだまだ終わりが見えない。ドット・バレットはそろそろ飽きが来ているのが見て取れる。オーターさんについて師匠自慢を間に挟んではいたが、フィンの熱量の方が圧倒的だ。
 そう、圧倒的に、俺について熱く語っていて、そのフィンの姿からも語りからも、いかに俺のことが「大好き」なのかが伝わってくる。
 若干顔が熱くなるのを自覚しながら、しかし、マックスにそんなところを読み取られるのも癪だ。努めて冷静を装うが、
「嬉しそうだなあ、『兄さま』」
 頬をつつかれて、にやにや笑う顔が覗き込んでくる。若干腹立たしいが、……どうせマックスには全部悟られてしまうのだから、抵抗も無駄か、と早々に諦める。
「ドットもそろそろ逃げ出したそうだし。かわいい後輩を助けてやったらどうだ? フィンくん自慢のすごくてかっこよくて頼りになる『兄さま』?」
 にやついて俺に言うマックスには、うるせえと一言いい捨てて、俺はふうとひとつ息を吐き出した。吸って、吐いて、若干熱くなっている胸の内を整える。
努めて冷静な顔を作って、一歩踏み出した。
「おい、何騒いでる」
 俺の声が聞こえて、ぱっと顔を明るくするフィンの反応を見ているだけで、胸の内側の熱さが戻ってくるような気がする。
 救いが現れたというよりは、うげ、とでも言いたそうな顔でこちらを見たドット・バレットの反応は気にしないことにして、俺はフィンの笑顔の元へと近づいていった。
「兄さま、あのね」
 続く嬉しそうな声をそばに置きながら、ドット・バレットにはもう行けと目配せをした。助けと捉えたか追い出されたと捉えたかはわからないが、これ幸いとマックスの方へと逃げていく背中には一瞥だけをやって、俺はすぐにフィンへと向き直る。
「何の話をしてたんだ?」
「うん、兄さまの話!」
 あのね、あのね、と俺の自慢をしていたんだと話すフィンの嬉しそうな顔は、本当に俺が大好きなんだと、それだけを伝えてくるから。ここは自習室だというのについ、腕を伸ばして思い切り抱きしめてしまった。
「そういうのは部屋に帰ってからやれよ~」
 というマックスの声は完全に無視をして、俺は腕の中の愛しいものを力いっぱい抱きしめたのだ。
了!
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