⚠少女レイ原曲二次創作 解釈違いなどの不満は一切受け付けておりません⚠
・死ネタ
・衝動書き
「いじめを受けているんだ」。彼女は目に涙を浮かべながら言った。誰に言っても悪化の一途を辿るに違いないと、そう思っていたらしかった。教師に言ったとしても、クラスの過半数が「いじめは無い」と言ってしまえばそれまでだし、親に言ってもその話が教師に伝わり、同じような結末になってしまうであろうことは目に見えている。そんな中、ずっと支えてくれていた君には、ちゃんと話したいって思ったんだ、と。
心底驚いた。もちろん、いじめられていることを何らかの形で僕に話してくれるだろうことは分かっていたのだが、話してくれるまで時間がかかりすぎなんじゃないだろうか。いじめが始まってから約三ヶ月。ずっと一人で耐え、僕に対してはなんでもないような顔をしていたのだろう。それがどれ程辛かったか。新学期とともに始まった苦痛を、ここまで隠し通そうとしていた彼女の心がどれ程強いのか、理解してしまった。
「僕は君の友達。周りの奴らなんか気にせず、僕に頼って欲しい。」
彼女の心の隙間をするりと埋めてくれるであろう言葉。その涙で潤んだ目が少しずつ僕に向けば。心の拠り所となってしまえば簡単な話。あともう少し、もう少しで──
◇◆◇◆◇
僕は焦りを感じていた。今までのレベルとは程遠くエスカレートした内容のいじめに、些か困惑もしていた。元はと言えば花瓶を置き、軽い陰口から始まっただけのいじめが、彼女の所有物を隠す、壊す、さらには体操服までもをボロボロにしていた。違う、僕は、こんなことがしたかったんじゃない、彼女が苦しむ姿が見たかったわけじゃ……
教室から悲鳴と、複数人の笑い声が聞こえる。もう、僕の手には負えないレベルになってしまったいじめの数々。これは、僕のせい? ……いや、ちがう、僕じゃない、ここまで来ても僕だけを見てくれない彼女が、僕を頼りきる訳ではなく、自分の力で耐え、何とかしようと今でも尚考えている彼女が、悪い。彼女を苦しめてるのは? 僕、じゃない、いじめをしている周りの奴ら、が、わるい……
そんな醜い思考がぐるぐるとうずまき始めた時、目元を真っ赤に腫らした彼女がやってきた。俯きながら、スカートの裾をできる限りまとめて握り込んでいる姿を見て、「あぁ、彼女を助けなくては」と思った。心を巣食えば、救ってしまえば、僕の方へと近付いてきてくれるから。ゆっくり、少しずつ。無言で立ち竦む彼女を、冬の決して暖かくない気温で冷えた手で抱きしめる。安心させるように、凍てついてしまった心までもを溶かすように。
◇◆◇◆◇
彼女の机に花瓶が置かれてから十ヶ月ほどの時が経った。進級時にクラス替えが行われることも無かったがために未だ続いていたいじめ。彼女がみるみる疲弊していく様は見ていていたたまれなくなる程だったが、彼女の目から光は消えていなかった。疲れや諦めが滲む表情とは打って変わり、最近は会話の中で明るい声音で楽しそうな笑顔を見られるようになっていた。それだけ僕に心を開いてくれたのだろうか。やっと、僕のことを見てくれているのか。やっと、やっと──
◇◆◇◆◇
数日後、彼女との帰り道。帰路にぽつんとある踏切の前で、彼女はこう言った。
「君と友達でよかった。」と。
背筋に嫌な汗が流れた気がした。夏の暑さによるものだと信じたいが、ゾクリと背中に走った痺れは気のせいではごまかせない。え、とも、待って、とも言えぬまま立ち止まってしまった僕が伸ばした手は空を切った。そんな僕を振り返るでもなく、カンカンと音を立て始めた踏切へと飛び出した君。キーッという音と鈍い衝撃音。白み出した視界とうるさいほどに頭の中で響く蝉の声。
よろよろと踏切沿いのガードレールへと向かい、へたりこんでしまってから気が付く。そうだ、電話。救急車を呼ばなくては。震える手でかけた電話で、何を話したか、なんて思い出せやしない。ただ、数分後にサイレンの音が聞こえて、警察だと名乗る女の人が、僕に何かを話しかけていた、気がする。ただ、うわ言のように、あ、だとかえ、だとか呟きながら彼女をおいつめてしまった自分が、僕という存在が、酷く憎かった。
「きみはともだち」。たった七文字で構成されただけのそんな言葉で形容できるほどの感情ではなかったのは、僕だって理解している。この僕の感情と彼女は関係がない話なのは冷静に考えれば分かりきっていることで。そんな彼女を巻き込んでしまったことへの罪悪感、こんな結末になってしまったことへの哀しさ、僕の中にぽっかりと空いた彼女の存在の大きさと比例する喪失感。毎日この踏切を通る度、彼女が、君が僕のことを見ている気がしてしまうのは、負い目からなのだろうか。
列車が通り過ぎ、カンカンという音が消えると共に上がった踏切へ一歩踏み出し、線路の真ん中まで来たところで足が止まる。ふと横を見ると、線路の上にあの日消えてしまったはずの君が半透明になりながらぽつんと立っていた。顔を見ると今まで僕が見た事ないくらいに柔らかい頬笑みを浮かべ、それから少し眉を下げた、気がした。そんな、死んでも尚苦しそうな顔をしないでよ。そう言おうと口を開くより早く彼女の手が動いた。真っ直ぐ胸の高さまで上がった腕。そのまま人差し指をぴんと伸ばし、僕を指さすようにして動きを止めた。次第に透明になっていく君が何を伝えたかったかは分からない。「君が主犯だったんだね」? カンカンと、遠くで音が鳴り響く。もう見えなくなってしまった彼女は、君は、
最期まで、友達だった。