ベリアンがこれまで打ち明けることができなかったベレンについて話せたことで、いっときロノに避けられていたがそれも解決し、ベリアン自身の心に平穏が生まれて、地下のベレンの部屋にいるとき、特に警戒もせず鍵をかけることもなくなった。だから、ちょっと目を離した隙にバスティンがベレンに近づいていることに気づかなかった。
「バスティンくん…? いったい何を…!」
ベレンに触れようとしていたバスティンの手が止まる。ハッとベリアンのほうへ振り向く。
「…その…すまない…。ベレンさんの…耳としっぽに興味があって…」
モフモフが好きなのにバレたくないと他の執事に黙っていて気づかれていないと思っているバスティンである。うつむき口ごもりながら一生懸命釈明している。
「ご、ごめんなさい、バスティンくん…。バスティンくんは…ベレンを受け入れてくださるんですね」
ベレンの命とバスティンの命。バスティンが悪魔化した時に優先したのはベレンの命のほうだった。その瞬間諦められた命を主様とロノに救われて、今ここにいるバスティン。こんなにかわいい、ベリアンの子供のような存在の彼。いつも無口で眠そうにしているが、剣や食事やモフモフのことになるとその桜色からルビー色になる瞳を輝かせる。
そんな彼が、好意を持ってベレンに触れようとしてくれていたのに…。
「謝らないでくれ、ベリアンさん。ベリアンさんに無断でベレンさんに触れようとした俺が悪い…。ベリアンさんの大切な友人になにかされたら嫌だよな。俺にはよくわかる…」
バスティンは自嘲するような皮肉そうな笑みを浮かべて俯いているが、彼の瞳に郷愁のような色が浮かぶ。彼の脳裏に昔の相棒のジェシカが蘇る。
「……っ………」
わたしのかわいいバスティンくん…! あなたこそそんな顔をしないで…!
言葉にならない想いが溢れてベリアンはバスティンを抱きしめる。
「べ、ベリアンさん…?」
ベリアンの胸元からくぐもって戸惑ったようなバスティンのうわずった声が聞こえる。
「あぁ…バスティンくん…あなたは本当にお優しい方ですね…! そんな風にベレンのことを思ってくださるのなら、彼も救われます…」
ベリアンの閉じられた瞳から涙が一筋伝う。ベリアンにとっては優劣つけられない、とても大切な2つの命が今、ここにいる。
素直じゃないバスティンは今まで我慢していたモフり欲を満たそうとここへ来ていただけだった。
「ぐすっ…いいんです。バスティンくん、ベレンに触れてあげてください…!」
「…その…泣くほど嫌なら遠慮させてもらう…」
傷ついたような表情で踵を返そうとするバスティンを必死で止める。
「ま、待って、バスティンくん。これは違うんです…! 嬉し涙です。決して嫌で泣いているわけではありません…! バスティンくんがベレンを受け入れてくれたのが嬉しくて…。だからお願いします。今、ここでベレンに触れてあげてください…!」
部屋を出て行こうとしていたバスティンが振り返る。
「………本当にいいのだろうか…?」
とても不安そうな表情を浮かべるバスティンに微笑みかけるベリアン。
ベリアンに許可を得たバスティンがゆっくりベレンに近づく。座っている彼の獣耳にバスティンの両手が触れる。緊張していたバスティンの表情が和らいで癒されているようだ。いつもムーや野良猫や馬に向ける時のやわらかい表情になっている。
ベレンの部屋から出てきた2人。ベレンの獣耳としっぽの感覚を楽しめて満足したようにやわらかい表情のバスティンにベリアンが話しかける。
「バスティンくんは本当にモフモフが好きなのですね」
にっこりと笑いかけられたバスティンが驚いたように返した。
「どうしてバレたんだ…!?」