「どこだろう・・・ここ」
目覚めた時、吹雪は一人知らない場所にいた。視界一面に夜闇が広がり、果てなく続く草原に横たわって、無数の光が地平線へ雪崩れ込むのを見ている。吹雪は半身を起こして、自分のいる場所を見渡した。
「きれいだなぁ・・・」
月も星も無い闇の中で、降り注いでくるその光は一等美しく見える。あれは流星群と言うのだったかと、嘗て雪山の奥地で見た時に父が教えてくれたのを思い出した。——そういえば、あの流星群はその時のものと似ている。その事に気付いたと同時に、少年はさっきまでサッカーの練習をしていた事をぼんやりと思いだした。
『確かにキレーだよなァ』
ふと、一人だけだった筈の空間に別の声が響き渡った。吹雪のそれとよく似た――寧ろほぼ同じでありながら、少し違う者の声。
「アツヤ」
もう一つの声の名を呟く。そこに動揺の色はなく、逆に落ち着いた声色をしていた。吹雪士郎と瓜二つの姿、同色の髪、焔の瞳を持つ少年。吹雪の世界にいつの間にか現れていたそれが、彼の隣に座り込む。
「僕が何でかここにいるんだから、お前がいて当然だよね」
『オレはお前が”吹雪アツヤ”を模倣しただけの人格だからな』
「まあ、ここに僕達がいるってことは、きっと僕自身が”この場”を望んでの事なんだろうけど」
吹雪は立ち上がり、もう一人の自分に向き直った。アツヤは座ったまま、兄の――否、主人格の目を見つめている。そこには嘗ての様な敵対や攻撃の意思はない。吹雪にもうその意志が無いからだ。
「アツヤ。もう一人の僕。僕はもう、お前の元には行かない。お別れだ」
アツヤは黙っている。焔の瞳は、銀狼の眼を捉えたままだった。
「キャラバンので旅をして、エイリア学園と戦って・・・僕は皆から、数えきれない程の物を貰った。そして、”完璧”の意味を理解した」
『一つになる事、だったか?』
「ああ」
『なら、何故別れる必要がある?』
アツヤが未練がましくそう言った。だが、士郎は動じない。それが、わざとだと知っているから。——未練がましいのは自分の方なのだと、彼は知っている。
「僕はずっと、アツヤを忘れる事を恐れていた。今だって怖くない訳じゃないよ」
『それなら何で・・・』
「わかったんだ。お前の残してくれたものや、託してくれた思いがあるって・・・。ボールから、皆の気持ちが伝わってきたように」
吹雪が胸に手を当てて、答える。円堂守からヘディングパスを受け取った時、ボールに託されたチームの思いが届いた場所に。
少年は知った。アツヤが、思い出と共に残していったものを。エターナルブリザードという技と、ストライカーとしての在り方。——心の財産を。
「僕がお前を忘れたくないという気持ちは変わらないさ。でも僕は、僕自身の作り上げた虚像にはもう縋らない。アツヤの好きだったサッカーで、皆と戦う為にも」
少年の決意は固く強く、そして光り輝いていた。頭上を飛んでは去ってゆく、流星のように。アツヤの口元が緩む。満足そうに笑うその姿が、次第に薄れていく。
『それがいい。さよならだ、白恋のエース』
「ああ。さよならだ、もう一人の僕」
”弟”の姿が消え、世界に一人吹雪は取り残される。恐怖や不安は拭えなかったが、それでも吹雪は笑っていた。涙を浮かべながら。
夜が明ける。夜が広がる世界に、流星だけが光だった世界に、朝日が昇る。——夢が終わる時が来た。
ーーーーーーーーーー
「おーい、吹雪君。練習始まるよ」
流星の代わりに上から降り注いだ声に、意識が現実へと回帰する。それがヒロトの声である事に気付くのと同時に、そういえば必殺技の練習を彼としていた事を思い出して、吹雪は勢いよく上半身を起こした。
「おはよ。よく寝てたね」
「ご、ごめん。日差しが気持ちよくてついぐっすり・・・。ずっと北海道にいたから南国の天気に慣れるの大変かなって思ってたけど、意外と慣れるもんだね」
「・・・大丈夫?」
ヒロトが少し眉を顰めて、心配そうに問いかける。何が、と思うよりも先に、頬を何かが滑り落ちた。その時初めて、吹雪は自分が現実でも泣いていた事に気付く。
「あー・・・。いや、あはは。大丈夫。別に怖い夢見てたとかじゃないから」
「ならいいけど」
ヒロトがまだ使ってないタオルを手渡す。礼を言ってそれを受け取り、軽く顔を拭いてから、吹雪は空を見上げた。空は先程までと違って憎いくらいの青空で、昼間だからか真上に昇っていた太陽に軽く目を焼かれる。
やっぱり、南国の天気は好かないかもしれない。さっきまでは良かったのに、今は物凄く暑い。カタール戦でのキツさを思い出させられる暑さだ、と内心愚痴りつつも、吹雪はまた青空を見上げた。
「ヒロトくんさ。もう会えない人に夢で会った事、ある?」
「え?あるよ。うん。・・・会ったの?」
「会った。最後まで本人じゃなかったけど。でも、会えてよかった」
「そう。吹雪くんが良かったと思うなら、オレも良かったんじゃないかって勝手に思っておくよ。ほら、そろそろ練習しなきゃ」
「うん。ありがとう」
ずっと寝転がったままの吹雪に、ヒロトが手を差し伸べる。吹雪はそれを取って立ち上がり、もう一度だけ空を見た。
嘗て渇望した空の向こう。そこにきっと彼等はいない。だってまだ、彼等の熱が生きている。この地に生きる、吹雪士郎という少年の胸に。
「よし、じゃあ早速新必殺技の特訓だ!」
この熱が燃え続ける限り、白恋のエース吹雪アツヤは、このフィールドを走り続けるのだ。どこかで宇宙を駆け巡る、流星のように。
とりまいったんここまで!デス!
この後軽く修正してシブの方に上げます。
その後で余裕ありそうだったら他のやります。
多分無理ですご飯+お薬+昼間の寝すぎでバキバキにだるいです寝たい(