・三人称一元視点。主フクロウ。
・いつ
 初めて殲滅型ウィッチスタイルで任務に行った時。
 夏(?)(後で)
・どこで
 任務。
 市街地。
・だれが
 フクロウ。
・なにを
 もっと強くなりたいと思う。
 フラミンゴを守れるようになりたい。
・なぜ
 初めて実戦で魔獣を直接斬った感覚に悪夢でうなされた。
 フラミンゴはいつもこの感覚を味わいながら守ってくれていたのかと思った。
・どのように
 自分からアリーナに行くことが増える。
 他のトリに戦い方を教えて欲しいと頼む。
・書きたいところ
 痛い。怖い。現実のような悪夢。それでもフラミンゴを守ろうと体が動くフクロウ。
 心配するフラミンゴ。本音での話し合い。改めてふたりで生き抜こうと誓う。
 * * *
 手が重い。
 肩の付け根からだらんと伸びた腕の先。深い赤と紫が印象的な剣を固く握りしめている。
 ゲームでよく見かける魔剣のような見た目をしたそれは、フクロウの新しいスタイルに合わせて開発された剣だ。
 どこか禍々しさすら感じる造形だが、使用者の命を吸い取るとか血を求めてしまうとか、そういった“如何にも”な機能は全くない。他の対魔獣用武器と同じである。ただ殲滅型ウィッチと名付けられたスタイルに、とてもよく似合っていた。
 緊張感の漂う荒れた市街地。生温い風に乗って広がるのは、顔をしかめてしまうほど不快な鉄の臭い。
 真っ二つに切り裂かれ、息絶えた魔獣から目を離せない。
 周囲に飛び散った血と同じものが、握りしめた剣から滴っている。
 切れ味は問題ない。むしろ良すぎるくらいだと思う。量産型の武器とはレベル違いの火力だ。──耐久面は少し弱いって話だったけれど、定期的にメンテナンスをすれば大丈夫なくらいかな。
 そんな風に頭の中では冷静を装うが、体は過呼吸にでもなったかのように荒い息を繰り返している。吸って吐いて、吸って吐いて。肺が痛んでも呼吸は止まらない。体中に酸素を届けようと必死になっている。
 鉛のように重たい手の中で、研ぎ澄まされた刃が鈍く光る。血の流れる刀身は、見る人が見ればいっそ艶かしい。
 だがフクロウには、ただただグロテスクで生々しい命の残骸にしか思えなかった。
 手を離していいのなら離してしまいたい。でも、できない。震える手のひらで柄を強く握る。
 ──ああ、重たい。
 肉を切る感触が消えない。
 嫌悪感を催す異臭も、目の前で浴びた断末魔も。
 弓や魔銃よりもさらに強く実感させられる、命を奪うという感覚。いくら相手が魔獣だとしても、嫌なものに変わりはない。
 やらなければやられる。戦場の常識だ。この当たり前ができない者から脱落していく。
 ──フラミンゴがいなかったら、私は絶対にここまで生き残れなかった。
 すぐ隣で一緒に戦っていたフラミンゴに視線を向ける。フクロウが手にしている剣と似たデザインの槍を携えて、心配そうな表情でフクロウを見つめている。息はあまり乱れていないようだ。明らかな体力の差に、肺だけでなく胸も痛んだ。
「フクロウ、大丈夫?」
「うん……大丈夫。フラミンゴが魔獣を引きつけてくれたから、私でもなんとかできたよ」
「そっか。よかったぁ」
「フラミンゴは大丈夫? 怪我とかしてない?」
「うん! ワタシも大丈夫だよ」
 胸を叩いて答える姿に安堵する。
 戦闘中は気が昂っていて、怪我をしても気づけないことがある。今回はフクロウから見ても、フラミンゴの体に気になるような箇所は見当たらなかった。それだけで心の底から「よかった」と呟きが漏れた。
 フラミンゴは清々しいまでのパワータイプだ。スタンダードなスタイルの頃から前衛として動いているが、タンクとしての役割を担う槍では立ち回り方が変わってくる。リーチを活かして敵の攻撃を捌き、動きを牽制する。攻撃よりも守りを意識した戦闘スタイルは、なかなか難しい。
 この殲滅型ウィッチスタイルが支給された時、フクロウもフラミンゴもアリーナでの戦闘訓練を重ねた。いきなり実戦はリスクが高い。なにより怖い。戦闘任務を主とする迎撃部隊において、任務の失敗はそのまま命に関わることが多いのだ。事前準備の大切さは、繰り返し教えられてきた。
 そうして迎えた新スタイルでの初任務。結果は負傷者ゼロで、敵を全滅する。文句なしの成果だ。疲労はどうしようもない。身体的な損傷がないだけ御の字だろう。
 フラミンゴとお互いの無事を確認できて、心も多少軽くなった。
 警戒は必要だけれど、もう臨戦態勢は解いていい。あとは帰還するだけ。
 頭ではそう判断しているのに、いつまで経っても剣から手を離せない。まるで自分の腕と一体化してしまったような……そんな錯覚に陥っている。
「──フクロウ?」
 剣を握っていない左腕に温もりを感じて、ハッと顔を上げた。無意識のうちに俯いていたらしい。
 青白い顔をしたフクロウの腕に、フラミンゴがそっと自分の手を重ねていた。
「あ……ごめん。少し、ぼーっとしてた、かも」
 こんなにも心臓が胸を叩いて、痛いくらい呼吸をして。嫌な臭いも感触も、全部リアルなままなのに。生々しい現実を骨の髄まで実感させられているのに、意識の一部がどこか遠くへ飛んでいってしまっているような気もする。
 手元に視線をやれば、赤黒く変色した液体が剣を伝っていた。指先をわずかに汚した赤。その色が手袋の下まで染み込んでいるような気がした。
 もう忘れることなどできない、深く刻まれてしまった現実。
 皮膚を、骨を、神経を震わせる直接的な熱の奔流。
 ああ、でも、とフクロウは思った。自分より小さな双子も、敵を貫く感触を知っているのだ。他にもたくさんのトリが経験している。きっと、みんな。今は知らないひとでも、いつか必ず。
 ──フラミンゴも、こんな思いをしながら、いつも戦っていたのかな。
 今までのことを振り返る。追憶のギフトがいくつもの記憶を思い出させる。戦いの中でフクロウが目にするフラミンゴの姿は、ほとんど背中ばかりだった。当然だ。彼女は前でハンマーを振るって、自分は後ろで弓を引く。ずっとそうして戦ってきたのだから。
 次々と浮かぶ記憶の中で、特に忘れられない出来事が脳裏を占拠した。
 隙を縫ってこちらに向かってくる魔獣。
 間合いを詰められた焦り。
 弓を構えても狙いが定まらない。
 勢いが足りず外れてしまった矢。
 魔獣は目と鼻の先。
 倒れるようにして転がって、どうにか避けた攻撃は本当に間一髪だった。
 無我夢中で起き上がり、次の攻撃に備えようとしたフクロウを助けたのは、魔獣ごと地面を叩き割ったフラミンゴだ。小さなクレーターを作ったハンマーの下で、トマトを潰したように赤い何かが弾けた。ぐしゃり、と形が分からなくなったそれの感触を、フラミンゴは数えきれないほど味わってきたのだろう。
 あの時に感じたやるせなさ。守られてばかりの弱い自分が嫌で、せめて自分の身は自分で守れるようになろうと思った。間合いを詰められても大丈夫なように。
 そんなタイミングで実装された殲滅型は、フクロウにとって一歩踏み出すチャンスだった。
 心配させたくない。足を引っ張りたくない。そう思ってのことだったが、今はとある考えが重くのしかかる。結局のところ私は、自分のことしか考えていなかったのかもしれない。こうして魔獣を切るまで、フラミンゴが味わってきたものについて、想像することすらできなかったんだから。
 ──強くなりたい。
 ぐっと奥歯を噛みしめる。
 ──私も、フラミンゴを守れるようになりたい。
 手の中にある重みは依然として離れない。おそらくこの先もずっと。例えこの戦いが終わって、かつての日常に戻れるようになったとしても、死ぬまで抱え続けるものだ。
「フラミンゴ」
 腕をずらして、添えられた手に手を重ねる。
「いつもありがとう。……私、もっと頑張るね」
 私なんかが頑張ったところで、大した力にはなれないかもしれない。そんな気持ちもあるけれど、言葉にせずにはいられなかった。
「どういたしまして。これからもふたりで頑張ろうね!」
 逃げ出したくなる世界で、それでも逃げずに立ち向かう理由。
 明るく笑うフラミンゴを見て、フクロウはようやく剣を納めることができた。
 * * *
今日はここまで
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初公開日: 2024年06月22日
最終更新日: 2024年06月23日
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トワツ二次創作。百合。フクフラ。シリアス寄りの予定。