・お題:「恋煩い」
「話がある」
大典太光世に神妙に切り出され、ソハヤノツルキはつられて正座する。
兄弟刀である大典太はその来歴と、性格と、得た人の身の体格の良さもあって恐れられることも多いが、その本質は穏やかで不器用な男だ。
そんな彼がこれほど追い詰めた表情で、改まって相談を持ち掛けてくるとは一体何事だろう。よほど困ったことがあったのか、心身の不調か、あるいはその両方か。
二振り一部屋の中央に普段はたたんであるちゃぶ台を出し、ソハヤの分の茶までいれて構えていた大典太は、だが、なかなか口を開かない。
「話ってのは、戦のことか?」
「いや」
「んーじゃあ、主のことか」
「違う」
「最近庭の梅に来てる、緑の小鳥のこととか」
「あれはメジロだろう」
「そうそうメジロ。色だけ見るとどうも鶯丸と被るんだよな。ほらあの餅のやつ」
「鶯餅の色が鮮やかな緑になったのは近年の話だ。太閤花見の頃は文字通り鶯色だった」
「そうだったか?まぁ俺はあの頃の記憶は怪しいんだけどなー。で、話ってのはなんだ?」
神妙な顔に迎えられたものだからいかほどの話かと身構えていたのだが、他愛ない会話を返せる程度には余裕があるらしい。
茶を飲みながら餅の話をしていたら小腹が空いてきた。お八つ時には手合わせの連中も上がってくるだろうか。夕飯までの腹ごしらえも兼ねてご相伴にあずかりたい。
「……気が付くと、目が吸い寄せられる」
「へえ?」
「視界に入ると目が追っている。それに気づいて視線を外すんだが、気が付くとまた見ている」
「……なるほど」
「視界に入ると目で追ってしまうから、視界に入れないようにしたんだが」
「見なければ見ないで、気がそちらに持っていかれる?」
「……ああ」
ようやっと重い口を開いた大典太の話に、ソハヤは手で隠した口元に笑みを浮かべた。
なるほどこれは一大事だ。天下の名刀大典太光世に、気もそぞろになるほど心を捉われる存在ができるとは。
人の身、人と同じこころを得た刀剣男士が人と同じようにこころに翻弄され、その身を悩ませることは珍しくない。そうしてこころを翻弄される様を面白おかしく応援するのも、また人と同じく。
つまりは面白いネタなのだ。それがこの堅物の天下五剣の恋模様となれば、なおのこと。
「どんなやつなんだ?そいつ」
「……若くて、未熟で、幼い」
「子供なのか」
「俺からみたら幼子だ。だが、とても強い光を持っている」
「光」
「ああ。自分はこうなりたい、こうありたい、そのためには困難な相手にも真っ直ぐ立ち向かおうとする。たとえ無謀なことであっても、引き下がることを良しとしない。少々危うくて、ひたむきな光だ」
次第に饒舌になる大典太の目にも光が宿っていた。語り口ににじむ慈愛の色にうっすら当てられそうにもなる。
怪異を斬る霊刀という来歴ゆえか、大事にするという名目で大事に仕舞われてきたからか、この兄弟は己を闇とし、光に強く憧れることをソハヤは良く知っている。
ただ眩しいだけは光ではない。強く気高いもの、支えたいと思えるもの、共にありたいと願うもの、そういった、こころを強く揺り動かされるものに「光」を見出していることを、大典太自身は気づいているのだろうか。