リビングに降りると、テレビから流れてくる誰かの絶叫——にしては異様に嬉しそうだが——が聞こえてきた。カンナの父が愛聴しているドッキリ番組だろう。今日は木曜だからモニタリングかなとカンナは当たりをつける。正解。
「・・・あれ?」
そこでカンナははたと異変に気付く。笑いのセンスを父から受け継いだ天使の声がしない。父が大笑いする中に妹の声が無い。まさか。
「にゃっ」
足元でスカーが大きめの声を上げる。かと思えば、忙しなくカンナの足元をぐるぐる回り始めた。嫌な予感がほぼ確信に変わったが、カンナは念の為台所の母に声をかける。
「お母さん、カグラは?」
「え?・・・あら、さっきまでいたのに。どこ行っちゃったのかしら」
またも正解。勿論悪い意味で。カンナはその返事を全部聞き終えるより先に玄関へと走り、スニーカーを履いた。内心で親切にも忠告してくれた新しい友達に、その言葉を無下にする事を謝りながら。
「私外探してくる!入れ違ったら怖いから、二人は家にいて!」
両親に止める暇も与えないまま、カンナは素早く家を飛び出した。スカーもその後に続き、すぐさまカンナを追い越して先導する。その後を追いかけ走るカンナの後ろを、更にてるちゃんが浮遊してついて行く。
カンナにはカグラの行方はわからない。ただ、いなくなった理由には心当たりがあった。カグラはまだ幼い。オバケと普通の生き物との区別がつかないし、近づいてはいけないオバケの見分け方もわからない。結果、度々オバケの善悪関係なく着いて行っては行方を眩ませてしまう。
この状態の妹を、カンナは4年近く前から探してはオバケを追い払ったり逆に逃げたりしつつ、毎度無事に連れ帰ってきていた。両親は頼れなかった。見えない二人ではオバケの対処が出来ないし、見えるカンナとしてもやり辛いからだ。
そんなカンナにとって最強の助っ人——もとい助猫がスカーだった。猫には人に見えないものが見えるとよく言われるが、少なくともスカーはそれに当てはまっているらしい。しかも恐らくだが、精度がカンナの何倍も高い。カグラの居場所が分からなくても、彼について行くだけで容易に辿り着ける。
しかも、スカーは猫にしてはかなり頭が良かった。現に今も、彼自身慣れない町且つ急ぎだと言うのに、自身が早く行ける”猫用の道”を完全に避けた最短ルートを通っている。そんな道とも呼べぬ道は主人が通れないという事を理解しているのだ。
結果としてスカーが真智家に来て以降、カグラを探すのは殆ど彼の役割になった。連れ戻す時はカンナが行かないといけないのだが、町中走り回る必要が無くなっただけで大分有難い。こうした信頼を2年に満たない月日で積み上げたからこそ、カンナは今こうして後先考えずに家を飛び出して行けるのだ。
ーーーーーーーーーー
「にゃー!」
前方を走るスカーが声を上げ、曲がり角を曲がる。これは脅威が近付いた時の合図だ。偶々通り道で遭遇したものでなければ、先に同じスタート地点から誘われているカグラも必然的に傍にいる。カンナは覚悟を決めつつ、スカーに続いて角を曲がった。
「え・・・」
その先で見た光景に、カンナは思わず足を止めて呆然とした。人気のない深夜の天降小学校、その校門にある異様な二つの物体。全身を駆け巡る本能的恐怖にカンナは震えた。
そこにあった――否いたのは、デフォルメされたユニコーンらしきものの見目をした”ナニカ”だった。ピンクと黄色の二ついるそれらは、オバケという点を鑑みたとしても余るくらい可愛い。だがこういうのに慣れていたカンナには理解出来た。——あれはヤバい。
「カグラは・・・!?」
周囲を見渡すが妹の姿は見えない。いなくなった正確な時間は分からないが、恐らくは先に辿り着いている筈なのに。——まさか。
「あれ?まぁた子供が増えてる」
後方から飛んできた声にカンナは肩を跳ねさせた。生きている人間の声。そう直ぐに勘づいたが、安心はこれっぽっちも出来なかった。声が異様にねっとりしている。
(今まで会った、悪いオバケと一緒・・・)
スカーも異様な空気感に気付いてか、声の方に向かって威嚇していた。カンナが恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはパーカーを着た男が一人立っていた。歳は30過ぎくらいで、別にこの時間出掛けていても不思議では無い。
だが、彼が不自然に見えないのは見えない”人だけだ。見えるカンナと、そのカンナより強く感じられるスカーには分かる。彼が普通では無いと。
「さっきの子とそっくりだねえ・・・ひょっとしてお姉さんかな?」
「・・・妹はどこ?」
「どこって、そこにいるじゃあないか。ああでも、僕好みの可愛い格好にしちゃったから、素人には分かんないかあ」
またまた嫌な予感が的中してしまった。カグラはどういう訳か、あの妙に可愛い人形にされてしまったのだ。それは分かったが、どちらが本物なのかカンナには分からない。スカーも動かないという事は、彼にも判別できないようだ。
「元に戻して」
「それは出来ないなあ。あの子はこれから僕の大事なお友達として、一緒に暮らしていくんだから」
「そんなの許される訳ないでしょ!?」
「大丈夫だよ、君もちゃあんと仲間に入れてあげるから」
カンナの背筋が凍りつく。生きている人間なのに、オバケ以上に話が通じない。と言うより、こちらの言葉を聞いていても把握していても、受容するつもりが無いのだろう。
男が懐から何かを取り出す。街頭を反射し赤く光るそれはどうやら飴玉らしい。それを見た瞬間理解する。カグラは何も疑うことなくお菓子としてそれを口に含み、そしてあの姿になったのだと。
飴玉を片手に、男がゆっくりとカンナの方に近付く。カンナは思わず後退るが、後方から殺気を感じて振り向いた。後ろにあるのはユニコーン擬き。一方は妹だとして、だったらもう一方は――?
カタリ、とユニコーン擬きの両方がカンナに向かって動く。どうやらどちらも男の意思に従って動いているらしい。カンナの身体が恐怖にカチカチと震え、固まった。完全に囲まれている。終わった。
「ふふふ。ふふふふふ。怖がらなくていいんだよぉ、ちゃあんと二人とも可愛がってあげる・・・」
気色悪い笑みを浮かべて、男がカンナに手を伸ばす。もうダメかもしれない。そんな絶望にカンナは涙を零した。男の手がカンナに触れるまで、あと数センチ。
――その瞬間、男の身体が飛んだ。
「——え」
それはまさに一瞬の出来事だった。カンナが事態を把握し、数瞬後に零せたのがそれだけだったというくらい、刹那的だった。男が悲鳴を上げ、同時に背後の殺意が和らぐ。そのおかげか、カンナの身体に自由が戻った。
だが、その事を喜ぶ余裕はカンナに無かった。その一瞬の間に起きた事が、男が吹っ飛んだ事だけではなかったからだ。夜闇に溶けるような黒色が視界で揺れている。
「やっと姿を見せたな。変態野郎」
カンナを背に庇うように立つ影が、苛立たし気に呟く。一応は人の形をしているそれの、腰辺りから伸びる黒い物が大きく揺れた。猫に慣れているカンナがぼうっと、ああ相当イライラしているんだなと理解する。——いや、そうじゃなくて。
「ミョウ、キ・・・」
呆然と呟いて、それと同時に全身の力が抜け、カンナはその場に座り込んだ。影はカンナより20と少しくらい背の高い、人間の男性らしき姿をしていた。だが、その頭部には髪より黒い猫の耳が、腰にはそれと同色の尾が生えている。話に聞いていた姿と少々違う気もしたが、手首辺りから生えている爪らしきものからは真新しい血が滴り落ちている。
「痛えなあ、くそ!またお前かよ・・・!」
猫鬼に蹴り飛ばされた男がゆらりと立ち上がる。その瞳は最早正気ではなく、現れた部外者への殺意に満ちていた。それはカンナの後方にいたユニコーン擬きも同様で、カタカタと不気味に振動しながらカンナたちの正面の方に回り、男の盾になる。
「男の癖に、僕の高尚な趣味を邪魔してんじゃねえよぉ!ぶっ殺すぞ!」
男が殺意たっぷりに叫ぶと、ユニコーン擬き達の周囲に星型の”ナニカ”が出現した。それはピニャータ――メキシコの祭りでよく使われるくす玉人形——のような姿をしており、出現から間もなく爆発を起こして弾けた。中からビー玉くらいの何かが幾つも発射される。
「危ない・・・!」
爆発の寸前、攻撃の気配を感じたカンナが思わず叫んだ。至近距離である為着弾まで2秒も無い。言われるまでも無いという様子で猫鬼が防御姿勢を取る。あと1秒。刹那、着弾より早く小さな影が動いた。
1秒が消費されるまでのほんの一瞬で、カンナ達の視界が白く染まった。正確には少し違う。その白の視界には、幾つかだけ黒い部分があった。耳と尻尾を通し視界を確保するための、5つの穴が。
「・・・!」
猫鬼が目を見開く。それはカンナについてきていたてるちゃんであった。布状の身体を限界まで拡張し、猫鬼とカンナとそれからスカーを弾丸から守っていた。だが代償にかなりのダメージを受けたようで、てるちゃんはすぐ元のサイズに戻り猫鬼の足元に落ちた。
「あ・・・!」
猫鬼より動体視力に劣る為今事態に気付いたカンナが、細く声を上げる。同胞がやられたと認識したのか、スカーもその横で怒りに吼えていた。猫鬼は足元に蹲るてるちゃんを抱き上げ、男を睨みつける。
「貴方の”それ”は処分する」
「うるせえッ!偉そうな口きくんじゃねえよォ!」
男が再び叫ぶと、ユニコーン擬き達は再度ピニャータを呼び出した。今度は防ぐ手段が無い、とカンナは焦る。だが猫鬼は見飽きたとばかりに地を蹴り、左の方へ駆けた。標的を完全に猫鬼としたらしいそれらは一斉に彼の方を見る。それを読んでいた猫鬼はすぐ傍の木の幹を更に蹴り、空中へと飛んだ。
「へっ!空中じゃ攻撃避けられねえのが定石だって知らねえのかぁ!?」
ピニャータが爆発し、空中にいる彼に向かって弾丸を射出する。月光に照らされたそれらが先程の飴玉と同じ輝きを放つと、さっきそれを見ていたカンナはそれらが同じ物であるという事を理解した。だが原料が砂糖ではない事は明白で、そうであったとしてもあの速度で飛んで来ればただでは済まないのもまた確実だった。
だが猫鬼は凶器としか形容できないそれらにも慣れた様子で、空中で器用に体勢を変えて飛んで来た飴玉を寸での所で避けた。勿論それだけで全てを回避する事は不可能だったが、回避して足裏辺りまで飛んで来たそれを踏み台にし、右方向に大きく飛んで全弾を完全に避けきった。男がその妙技に驚いている暇も無く、爪を黄色い方のユニコーン擬きに向かって振り下ろす。
「待って!」
「!」
それに待ったをかけたのは、それまで呆然と目の前の光景を見ている事しか出来なかったカンナであった。猫鬼がそれらに攻撃を加える寸前で、「どちらかは自分の妹」という事実を思い出したのである。彼女の叫びに、猫鬼は思わずその動きを止めてしまった。
「死ねえ!」
その隙を男は逃さなかった。コンマ1秒と使わずピニャータを再出現させ、瞬時に爆破する。猫鬼は小さく舌打ちし、抱きかかえたままのてるちゃんを庇うように男へ背を向けた。
「ぐっ・・・!」
弾丸の内の幾つかが背中に着弾し、猫鬼が短く悲鳴を上げた。勢いが相当なものだったらしく、その体が10m程カンナの後方へと飛ぶ。攻撃を食らいながらも猫鬼は自分がカンナにぶつからず、尚且つてるちゃんが地面に衝突しないよう身体を捻り、両足で地面に着地した。
「ちっ・・・」
だがてるちゃんを庇った事で彼もダメージを負ってしまったらしく、痛みに顔を顰めて小さく舌打ちした。自分のせいで大変なことになってしまった。そう感じたカンナが恐怖に震える足を無理矢理立たせ、彼の元へと駆け寄る。
「ご、ごめんなさい!私のせいで・・・」
「・・・いや。どっちか君の身内?」
「え?う、うん。妹が・・・」
「そう」
涙目で謝るカンナに対し、猫鬼は淡白にそう問うた。その事に戸惑いつつもカンナが答えると、猫鬼はカンナにてるちゃんを渡して立ち上がった。
「んだよぉ、まだやる気か!?ええ!?」
「言った筈だ。あなたの”それ”は処分すると。どんな理由があろうと他人の家族を奪ってはいけない。だから――あなたの心、狩らせて貰う」
血に染まった爪が月光にぎらりと輝く。さながら威嚇しているかのようなそれは、しかしカンナにはどうしてか神秘的に見えて、腕の中のてるちゃんを抱き寄せつつ見惚れていた。男はカンナとは逆に一瞬恐怖したような顔をして、しかしすぐに嘲笑うような下卑た表情になった。
「ははっ、はははっ・・・!でもさあ、お前わかってるぅ?どっちかはその子の妹なんだよお?それでも攻撃するんだぁ。そんな酷い事するんだぁ!」
その言葉を聞いたカンナはどの口が、と憤った。カンナとカグラにこんな酷い事をしているのに、と。猫鬼はその煽りには応じず、逆に呆れたように溜息をつく。その態度が気に食わないのか、男は怒り狂った。
「んだよ、その馬鹿にしたような態度はぁ!ふざけてんじゃねえよ、ああ!?」
「・・・はあ」
もう付き合うのも面倒だという様子で、猫鬼は溜息をつく。その態度で更に苛立った男は再度ユニコーン擬き達にピニャータを出させ、攻撃してきた。猫鬼の後ろにカンナ達がいるというのに、もう完全にお構いなしだ。
「伏せろ!」
猫鬼が叫ぶと同時に弾幕へと突貫する。カンナは言われた通りに地面へ伏せつつ、顔だけ上げてその様子を見守っていた。態々聞いたという事は妹を助けてくれるつもりなのかもしれないと期待していた一方で、その方法が分からない事が不安だった。
猫鬼は弾丸を切り裂きながら黄色い方のユニコーン擬きに接近し、その頭部を右手で鷲掴みにした。そっちが敵なのかと一瞬思ったカンナだったが、猫鬼は掴むと同時に何かを確信したようで、指先で後頭部を押し自分の後方へと追いやった。
追いやられたそれが街灯の下へと飛び込むと、カンナは猫鬼の行動の理由に納得した。その顔面に張り付けられた札のような物に、文字が浮かび上がっている。3文字。自分と少しだけ似た、妹の名前が。
「つまり、こっちが本体だ」
猫鬼は先程の個体の後ろにいた、もう一方のピンクユニコーンの頭を左手で掴み、持ち上げた。ユニコーン擬きは抵抗するようにピニャータを幾つか出現させるが、距離の近さが今度は仇になった。銀の光が一閃する。ピニャータはユニコーン擬きの胴ごと切り裂かれ、消滅した。バラバラとユニコーン擬きの中から飴玉が零れ落ちる。
「や、やった・・・?」
カンナが恐る恐ると頭を上げ、成り行きを見守る。零れ落ちた飴玉とユニコーン擬きの残骸は、黒い粒子になって空中へと溶けて行った。その姿が完全に消え去ると同時に、黄色い方が糸が切れたようにばたんと横倒しになる。
カンナが急いで駆け寄り抱き上げると、口らしき部分からぽろりと飴玉が零れ落ち、消滅した。するとその姿が白い光に包まれ、人の形と重量を取り戻していく。ああ、この重さは。作為の無い自然なこの甘い香りは。
「カグラ・・・!」
光の中から、数時間ぶりの天使の寝顔が姿を現す。見た所怪我もしていないようだし、先程感じた異常な気配もしない。良かった。完全に元通りだ。緊張からの解放と同時に安堵感が押し寄せて来て、感極まったカンナはカグラとてるちゃんをきつく抱きしめた。
「ん~、くるし~よ~おねーちゃ」
カグラは眠ったまま、もごもごと文句を言いつつ姉の顔を両手で押しのけた。緊張感もなにもないそんな態度にも何だか安心してしまって、カンナは涙を零す。
「ひ、ひぃいいいっ!」
安堵の最中、急に聞こえてきた悲鳴にカンナはばっと顔を上げた。その先には猫鬼と先程の男。悲鳴を上げたのは男のようだ。
「ミ、猫鬼・・・!ひ、ひいいい!た、助けてくれえ!」
男は叫びながら、一目散に町の外の方へ逃げだした。猫鬼はその姿を憐れむようにじっと見つめていたが、追いかける事はしなかった。そっち森しかないけど、あの人大丈夫かな。もうすっかり安心しきってしまった彼女はそんな呑気な事を考えつつ、猫鬼の方へ駆け寄った。
「あの人、警察に逮捕して貰った方がいいのかな」
言ってから、オバケに警察とか通じるのかとカンナは思う。勿論突っ込むべきポイントはそこではない。猫鬼はカンナの言葉に少し驚いてから、すぐ真顔になって答えた。
「無駄だと思う。あの人は君と違って見えないから、”あれ”の事は悪い夢だったって勘違いするだろうし、それに被害者その子だけだから」
猫鬼の言葉にカンナは納得した。言われてみれば、こんな奴が何日も町で悪行を重ねていたら同じ年位の子供が何人も行方不明になって話題になっていたはず。そうなっていないという事は、本当に被害者はカグラだけだったのだろう。
「ごめんね」
「えっ?」
猫鬼にいきなり謝られ、カンナは困惑した。謝らなければいけないのは、戦いの邪魔をして怪我をさせたこっちでは。そうは思うのだが、止めていなかったら今頃カグラが犠牲になっていたかもしれないと思うと何となく言えない。
「ううん。寧ろ助けられちゃった。ありがと」
代わりに礼の言葉を述べると、猫鬼はまた少し驚いたような顔をして、かと思えばふいと顔を逸らされた。顔の横にある人間の物と同じ耳が赤く染まっている。何だ、恐ろしい都市伝説の怪物と言う割には可愛いじゃないか。とカンナはほっこりしていた。——と言うか。
(なんか、オバケって感じじゃないよね?)
見た目こそ確かに怪異と形容するべきだが、それ以外の部分が酷く人間臭い。照れて赤くなる所も、他のオバケを態々庇う所も、その時の痛がる様子その他諸々。
同意を求めるようにスカーを見れば、スカーはすたすたと猫鬼の足元に歩いて行って、その足に感謝のスリスリを食らわせた。飼い主の自分にも滅多にしないのに、と心に湧いた微かなジェラシーはグーパンチで眠らせた。
何にせよ、やっぱりおかしい。人に全然懐かずてるちゃん以外のオバケにも警戒心MAXなスカーがここまで心を開いているのもおかしい。一人不審がるカンナを尻目に猫鬼はしゃがんで足元のスカーを軽く撫で、それから再度立ち上がりカンナの方を見て告げた。
「今日の事は忘れて」
その時、カンナは初めて猫鬼と視線が合った。降り注ぐ月の光、煌々と照る街灯の灯りと補色になるような蒼色の星が瞬いていた。その美しさにカンナは三度見惚れる。告げられた言葉すらどうでもよくなるくらい、美しい輝きだった。
「彼と一緒。悪い夢でも見たと思って、僕を忘れて」
星をふっと逸らされたかと思えば、その影が大きく空へと飛んで、夜闇へと溶けて行った。美しい満天の星空の下、消えてしまったそこにはない星を惜しく思う。カンナは腕の中のカグラとてるちゃんとしっかりと抱きしめて、彼の去った後をじっと見つめた。
「忘れないよ、絶対。悪い夢なんかじゃなかったもん。そうでしょ?——ハナフサ君」
田舎町の夜は異様に静かで、そう呟いた声を聴いていたのは愛猫のスカーだけだった。彼は主人を急かすようにその足へ尾を巻き付け、家の方へ軽く引く。そうだ、まずはこの我が家の天使を無事に家へ送り届けなければ。カンナは呑気に眠り続けるカグラをてるちゃんごとしっかり抱き直して、家路を急いだ。
あと軽く修正作業したら投稿します。
その前に晩御飯のカレー作ります。
では一旦失礼。