部活が始まって数週間が経とうとしている頃の話。
同じ学年のみんなとも隔てなく話ができるようになったけど、1人だけまだちゃんと話せていない子がいる。
名前は…紹介してくれた時に、似合う名前だなぁ…って思ったけど、何だっけ……シンプルな名前だったような……。
人の名前を忘れるほど失礼な事は無いと思いつつ、入学してからたくさんの人間と挨拶を交わしているおかげで、印象深い人や接点が多い人から覚えてしまうのは許して欲しい。
まぁ、とにかく、その子は毎日来ているんだけど、いつも部室の隅に座っていて、表情をコロコロと変えながら画面と向き合っている姿を見て、何を書いているのか疼く好奇心を抑える事が出来ない。
邪魔しないように、邪魔しないように…と、なるべく気配を消して彼女の後ろに回り込むけど、頭や肩が壁になって上手く見えない。
背伸びしてみても、アップにしているのかどこの場所を描いているのか分からない。肩?…いや、なにかの装飾?顔ではなさそうだけど…もう少しちゃんと見たいと思って体を前傾しようとしたら、誰かにぶつかったせいで、彼女に覆い被さるような状態になってしまう。
「うわぁっ!」
「へ?…うわぁぁぁ!!」
一瞬目の前の肩を掴みそうになったけれど、それはダメだと思い手を広げる。何とか彼女に触れることなく机の端を掴むことでセクハラをせずに済んだけれど、この体制もなかなかなもので周りから見たら冷やかしの対象になってしまう。
「ごめんねっ!本当にごめんね!びっくりしたよね!ごめんね!!」
「だだだ大丈夫ですよ!私こそ、大きい声を出してごめんなさいっ!け、怪我とかしてませんか?」
「うん!大丈夫!君こそ怪我してない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ちゃんと目を見て謝りたいと思って、彼女の正面に移動すると、心臓の音が聞こえてきそうなくらい動揺しているのは一目瞭然なのに、大丈夫と言ってくれる優しさに感謝して、改めてもう一度ちゃんと頭を下げると、iPadの背面に貼ってあるステッカーが目に入った。
「このキャラ好きなの?」
誰もが知っているまん丸ピンクのキャラが口に物を含んで膨らんでいる時の絵を指でさしながら問いかける。
「す、好きというより似てるって言われて貰ったんですよ」
「似てる?」
「た、食べるのが好きで…」
「俺も食べるの好きー!昨日さ、新作のハンバーガー食べ行ったんだけど、めっちゃ美味しくて!」
共通の話が見つかって嬉しくなった俺は、目の前の椅子の背もたれを腹に当たるようにしながら座る事にした。
「照り焼きと卵のやつですか?」
「そう!!やっぱりアレは裏切らないよね!」
「いいな、私まだ食べてなくて…」
「え!?じゃあ今日食べに行く?」
「へっ!?い、良いんですか?」
「良いよ!いつも一緒に帰ってる親友がさ塾でさ、寂しいって思ってたんだー」
優馬とも食べに行く約束をしたけど、何度食べても美味しいものだし、友達が増えることは嬉しい事だと思って声をかけたけど、鞄の中をゴソゴソとしてる彼女を見ながら違和感を感じ始める。
何だろ、凄く今の俺、大事な事を忘れている…と言うか、通過してる気がする……
「なになにー?デートのお誘いー?」
「それだぁあああああああああ」
デートじゃん!男女が放課後2人きりでファストフード店に行くのってデートじゃん!!!
シトラスの匂いを纏う先輩からの言葉でようやく思い出す違和感の正体。
「ごめん!!いきなり2人きりになるようなこと言っちゃったよね!ごめん!でも!下心とかなくて!俺がハンバーガー食べたかっただけで!!」
言えば言うほど、下心を誤魔化すような気がして、どうしたらいいのか分からずに頭を抱えている俺の横で先輩が笑ってる。
「それ、俺もまだ食べてないんだけど混ざっても平気?そうすればデートにはならないでしょ?まぁ、俺はいつか蘭ちゃんとデートしたいなぁ。って思うけどね」
「へ!?いや!勿体ないので!ダメです!つばち先輩に私はダメです!もっといい人います!視野を広げていきましょう!」
先輩の助け舟に感謝の土下座を捧げながら、聞こえてきた名前を聞き直す。するとまた笑い始める先輩と、彼女が俺の目を見ながら思い出したようにさらに目を大きくして、iPadを折り畳み姿勢を直している。
「1年A組の悠月蘭です。確か……えっと、大山さん、で合ってますか?」
また鞄の中にある何かを確認しながら、俺の名前を読んでくれている彼女、もとい蘭ちゃんが心配そうな上目遣いで聞いてくる。
「そう!大山直助!苗字で呼ばれるより、ナオって呼んで!あと、同じ1年だから敬語も無しでいいよ!」
「じゃ、じゃあ、ナオくんって呼ぶね」
「うん!俺も蘭ちゃんって呼ぶね!」
改めてよろしくお願いしますと律儀に頭を下げる蘭ちゃんにつられて、俺も頭を下げると先輩が声を殺しながらも腹を抱えて笑っている。自己紹介をしているだけでこんなに笑う人っているんだ…。
その後、自己紹介も終えたし早速行こうという先輩からの提案でお目当ての店に来ている。同じような学生のせいでお店の中がごちゃごちゃとしている。
先に席を探してくれている蘭ちゃんの姿をみつけようと店内を見渡すも、小柄で大人しい雰囲気も相まって見当たらない。目線を往復し続けていると、立ち上がりながら小さく手を振っている蘭ちゃんを見つけた。
「席見つけてくれてありがとう!」
「こちらこそ、私の分までありがとう」
「いいえ〜、セットの内容ってポテトとバニラシェイクだよね?」
「うんっ、これ、立て替えてくれてありがとう」
自分の分を抜いたトレイを渡して、蘭ちゃんからも立て替えてた分を受け取る。
4人がけのテーブルを見つけてくれて、ちゃっかり蘭ちゃんの隣に座ろうとした先輩を止めて、俺の隣に座って貰い、蘭ちゃんの横に俺たちの鞄を置かせて貰った。さっきから鼻を擽ってくるテリヤキの匂いに待ちきれず、いただきますと言いながら頬張る俺の前で、丁寧に手を合わせながら同じ言葉を言って、ゆっくりと包みを開いている蘭ちゃん。
彼女なりに大きい口を開けているんだろうけど、多分、最初の一口でメインの肉には辿り着けないであろうサイズに男女の差を感じながら、様子を見ながらオレも食べ進めていると、どうやら中のレタスを噛みちぎるのに苦戦しているらしく、うさぎが葉っぱを食べてる時みたいにレタスが口へと登っている。
「蘭、うさぎになってるよっ」
どうやら、蘭ちゃんの存在は先輩のツボに入りやすいようで、レタスと格闘している蘭ちゃんを見ながらケラケラと笑っている。
ようやくレタスとの戦いが終わって、紙ナプキンで口元を拭きながら咀嚼している蘭ちゃんと、残り二口くらいで食べ終わってしまう手元のハンバーガーをみて、彼女の不器用さを感じて俺も少しだけ笑ってしまった。
「レタスがこんなに手強い相手だとは思いもしませんでした」
そう言いながらシェイクを飲もうとストローを口に含むものの、どうやら吸引力も弱いようで、ストローの先がぺっちゃんこに潰れてしまっている。何度も挑戦するもお目当てのものは流れて来ないようで、まだ早いか。とだけ呟いて、再びハンバーガーを食べようと口を開いていた。
隣の先輩は一連の流れに耐えきれなかったのか、ハンバーガーをトレイに置いて肩を揺らしている。
「どうしようナオくん。ソースで滑って肉が入ってこないよ…」
彼女のその一言でついに俺も限界が来て声を上げて笑ってしまった。蘭ちゃんの顔には野良猫に声をかけた瞬間逃げられた時の切なさや、目の前で欲しかった商品が売り切れた時のような悔しさが滲んでいる。ハンバーガー1つ食べるのにこんな顔をしている子は初めてだ。笑い転げる俺と先輩を交互に見ながらも、マイペースに3口目に挑戦している蘭ちゃんを2人で震えるのを堪えながら見守る。
包みの下をちゃんと持って指で抑えて、肉や卵の滑りを防いでいるらしい。食べるのは不器用だけど指先は器用なんだな。
「あ!美味しい!美味しいよナオくんっ」
口の両端にソースをつけながら、嬉しそうに笑って伝えてくる姿に、親心のような温かい気持ちが芽生えて目尻が下がってしまう。
食べ方のコツを掴んだのか、そのあとは、一口は小さいもののハンバーガーを食べ進めている。
やっと食べ進んだ姿に安心すると、俺の腹がまだ足りないと訴えてきた。追加でハンバーガーを頼むか、夕飯のことを考えて我慢すべきかと悩んでいると、先輩がバイトがあるからと帰り支度をしている。ならばついでに俺も追加を買ってこようと、蘭ちゃんに伝えて挨拶を終えた先輩とカウンターに向かった。
 
「俺の近くにいるイケメンかぁ」
追加の商品を頬張りながら話を聞く。
乙女ゲームのようなキャラを描くのが好きで、いつか仕事に携わりたいと話を聞いて、ちゃんと目標や夢があるのは羨ましいなぁと思いつつ、優馬の顔を思い出す。気品に溢れた雰囲気に、バラの匂いがするハンドクリームをつけていても違和感が仕事しない親友を紹介したいと思ったし、蘭ちゃんの反応を見たいと思ってしまった。
「イケメンって言っても、綺麗なお顔立ちの人を見ると絵に収めたくなるんだけで、交際とかを狙ってる訳では無いんだよっ!?」
ポテトを食べる手を止めて前のめりになりながら必死に説明してくれる蘭ちゃんに、疑いをかけている訳では無いとちゃんと説明を入れて安心させる。
話して数時間しか経っていないけど、裏表のない性格で素直を体現したような子なのは理解している。
「1人紹介したい子がいるんだけど、明日って部活来る?」
「うんっ」
「なら、1人紹介するね!多分蘭ちゃんの言う綺麗なイケメンのど真ん中だと思うから!」
落ち着いたのかポテトを口に運ぶのを再開させて、目を輝かせながらお礼を言う蘭ちゃんの反応が嬉しくて、善は急げだと思い連絡を入れる。既読がつくのは暫く先だろうと思っていたら、すぐについて「分かった。楽しみにしているね」と、語尾に笑顔をつけて返信が来た。楽しみにしていると言う辺り、親友の人の良さが出ているし、誘うきっかけになった話題のせいもあって、文字がキラキラしてるように見える。
友達の輪が広がるのは凄く嬉しいし、誰かの為に良い事ができるのはもっと嬉しい。蘭ちゃんも大人しい子かと思えば、案外ノリも良くて話も広げてくれたり、行動が面白くて見ていても飽きることがない。イラストだけは恥ずかしがって見せてくれなかったけれど、もう少し仲良くなったら見せてくれるような気がした。
「粗相しないように気をつけないと」
「優馬も優しいし、そんなに気を張らなくても大丈夫だよっ」
「ほ、本当?」
「うん!凄い絵本から出てきた王子様!って感じ」
「ナオくんもゲームに出くるような元気なイケメン男子だよね」
「まじ!?イケメン!?」
「うん。え?イケメンだよ?カッコイイと可愛いの半分こって感じ」
ポテトを口元に運び続ける蘭ちゃんの言葉に今度は俺の目が輝いてしまう。可愛いに関してはちょっとだけ不服ではあるけど、いずれカッコイイだけの印象になるつもりではいるし、ここで嫌だと言うのは子供っぽいだろうと思い、素直に受け取り感謝を伝える。
「イケメンのナオくんが紹介してくれる王子様系の人か…楽しみだけど、やっぱり少し緊張する」
また、小さく呟きながら、容器を軽く振って最後に残っているポテトを数本まとめて食べる蘭ちゃんを見て、ハンバーガーを食べ始めてからずっと口が動いているし、うさぎやハムスターみたいな食べ方だなとは思いつつ、まん丸ピンクのキャラを渡したくなる理由も分かってきた。今度ガチャとかで見つけたら渡そう。寝てる顔とかも似合いそう…。
溶けたであろうシェイクも飲み終えたらしく、食べる時と同様に手を合わせてごちそうさまでした。と、言う律儀さに俺も釣られて同じ言葉を繰り返す。
席を立ちながら忘れ物がないか周りを見ている時に、トレイの片付けをしていると申し訳なさそうに眉毛を垂らして謝罪とお礼を伝えてくれる。
うん。やっぱりいい子だ。早く優馬に会わせたい。
早く明日にならないかなと、スキップしたくなる気持ちを乗せて帰るために駅へと歩き出した。
そして、翌日、無事に優馬を紹介することに成功するのだが、蘭ちゃんにとっての運命の出会いも同時に起こるのであった。
「あいつは王子なんかじゃないよ!!魔王だよ悪魔だよ!!」
「そうなの?」
「人の事煽って怒らせるのが趣味なタイプな奴!」
「そ、そうなんだ…」
「何で嬉しそうな顔するのぉお!!」
「性格も、理想だなぁって」
「蘭ちゃん!!現実とフィクションは違うからね!?」
「えへへ」
「蘭ちゃん!!!」
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直くんと蘭の初対面の続き
初公開日: 2024年04月28日
最終更新日: 2024年04月28日
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前回の続き
ネタの書き出し(作品作りでは無いですごめんなさい)
作品ではなくて、夢小説のネタ出しのような作業です。 築一紗(高3)×うちの子(蘭/高1)のネタです…
黒髪
直くんと蘭の初対面
「となりの部長は王子様」の番外編。後の親友になる大山直助との初めましてのお話。 イラストとかで言う…
黒髪
まずは
小説を書くにあたって色々まとめたい。
まり