部活が始まって1週間が経った頃の話。
先輩達の盛り上がる雰囲気や、同じ学年のみんなとも隔てなく話ができるようになったなと思っているけど、1人だけまだちゃんと話せていない子がいる。
名前は確か…何か紹介してくれた時に、似合う名前だなぁ…って思ったけど、何だっけ……花の名前だったような……。
人の名前を間違えるほど失礼な事は無いと思いつつ、入学してからたくさんの人間と挨拶を交わしているおかげで、印象深い人や接点が多い人から覚えてしまうのは許して欲しい。
まぁ、とにかく、その子は毎日来ているんだけど、いつも部室の隅に座っていて、表情をコロコロと変えながら画面と向き合っている姿を見て、何を書いているのか疼く好奇心を抑える事が出来ない。
邪魔しないように、邪魔しないように…と、なるべく気配を消して彼女の後ろに回り込むけど、頭や肩で上手く見えない。
背伸びしてみても、どこの場所を描いているのか分からない。
肩?…いや、なにかの装飾?顔ではなさそうだけど…もう少しちゃんと見たいと思って体を前傾しようとしたら、誰がぶつかったせいで、彼女に覆い被さるような状態になってしまう。
「ごめんっ!」
「へ?…うわぁぁぁ!!」
彼女に触れることなく机の端を掴むことで何とかセクハラをせずに済んだけれど、この体制もなかなか周りから見たら冷やかしの対象になってしまう。
「ごめんねっ!本当にごめんね!びっくりしたよね!ごめんね!!」
「だだだ大丈夫ですよ!私こそ、大き声出してごめんなさいっ!け、怪我とかしてませんか?」
「うん!大丈夫!君こそ怪我してない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ちゃんと目を見て謝りたいと思って、彼女の正面に移動する。
何となく心臓の音が聞こえてきそうなくらい動揺しているのは一目瞭然なのに、大丈夫と言ってくれる優しさに感謝しながら、もう一度ちゃんと頭を下げると、iPadの背面に貼ってあるステッカーが目に入った。