緊急事態により王たちによる円卓会議が開催される。王たちは椅子に座り、一人の男を待っていた。
「本当に来るんだろうな」
ヒルニア国の王、モードレッドはそう言って円卓に足を乗せ、両手を頭に乗せる。結われた濡烏色の髪に眼光の鋭い赤い瞳が特徴的だ。
「来るだろう」
リーベ国の王、ガラハッドはそう言う。穢れを知らぬ美しい白の長髪に灰色の瞳が神秘的だ。
「少し待てば来るさ」
ガラティン国の王、ガウェインは吞気にそう言う。夕焼けを切り取ったかのような茜色の髪に澄んだ青の瞳を持ち、人柄の良さそうな笑みを浮かべる。
「……」
スィーリッター国の王、ランスは目を閉じて、王たちの話に耳を傾けていた。金の髪が輝き、閉じられた瞳は紫だ。
「すまない、待たせた」
魔国の王、ジェーンは大きな扉を開けて入ってきた。紫の長髪が揺れる。桃色の瞳が他の王たちをとらえている。
「緊急事態とは何だ?私の魔物が何か問題を起こしてしまったのか」
「まあまあ、そんな焦らないでください。さ、どうぞ座って」
ジェーンは椅子に座る。
「それでは、円卓会議を行いましょうか」
*
「今回の議題、なのですが…」
「勇者がいる」
円卓を人差し指で叩くランス。紫の瞳は開いていた。
「勇者、か…」
【勇者】それはジェーンの命を脅かす存在であった。
「だがしかし、緊急事態とは…?」
「勇者が多いのです…」
「勇者が…多い?」
「どれくらいなんだ…?」
「五人いるが、まだいると考えてる」
モードレッドは眼光の鋭い赤い瞳にジェーンを捉えた。
「私に何かさせようとしているのか」
「ああ」
「勇者の面接だ」
「は」
モードレッドから発せられた勇者の面接というワードがジェーンの頭に巡る。
「本気で、言っているのか」
「当たり前だ、こんなところで冗談を言って何になる」
「まず勇者と言うのは自分から名乗るものではないんだ」
「そこでお前が面接をするのはどうかと考えた」
どこから出したのかガラハッドは紙をジェーンに渡した。
「これは?」
「勇者達の資料です」
「本気でするつもりなのか…」
にっこりと効果音が付きそうな笑みを浮かべるガラハッドに少しジェーンは苛立ちを覚えていた。そんなジェーンの心中を察してのことなのかガウェインはジェーンの肩に手を置いた。
「私も一緒にしますから、ね?」
落ち着いてくださいと言わんばかりに念を押すガウェイン。ジェーンは大きな溜息をついた。
*
勇者面接が始まったのは円卓会議の二日後であった。最初の勇者はシエルという少年だそうだ。
「初めまして!シエルです!!」
「元気だねえ、どうぞ座ってください」
ガウェインは人柄の良さそうな笑みを浮かべ、座るようにと促した。
「ところで君…その眼帯はどうしたのかな」
「え?ああこれですか…。少し事情があって」
「そう…、なんかごめんね」
気を取り直して、ジェーンは面接をすることにした。
「えー…、勇者になりたいと思った志望動機は?」
「神に選ばれたからですね!」
「……はい?」
「えっと…?」
ガウェインとジェーンは困惑している。
「選ばれたんです!勇者に!」
「そ…そうかい」
「自己PRをお願いできるかな」
「はい!私は勇者としての役割を全うします」
「この選ばれし力で、封印された力を解放するんです」
シエルは眼帯をしている左目に右手で触れた。
「……うん?」
「そして魔王を倒した後、きっと私は恐れられるでしょう」
少し大袈裟な溜息をするシエル。
「そして!私が深紅の災厄と呼ばれる日が来るでしょう!」
両手を広げたシエルは満足そうな笑みを浮かべていた。
「決まった……」
「…えーと…長所と短所、教えてもらえる?」
「そうですね…。短所はやはりこの眼帯、でしょうか」
「ああ、事情があると言っていたよね」
「そう、この左眼には深紅邪気眼が封印されているんです」
「へえ……」
「いつこいつが暴れだすか分からなくて……っこいつ」
苦しそうに呻くシエルに近付くジェーンとガウェイン。だがシエルに左手で制された。
「私に…近づいてはいけないっ…、こいつが何をするのか……くっ」
「シ……シエルくん?」
「ふっ…我は原初の深紅ぞ」
「え?シエルくんは…」
「こやつは生きとる、安心せい」
「もう帰ってもらって良いんですけど…」
「えっ?」
シエルの瞳が揺らぐ。
「……私は何を…」
「えっと、帰りますね!」
「あ…はい」
*
「……すごかったですねえ」
「疲れた…」
「これが勇者面接…」
「まあまあ…ジェーンさん、どうします?紅茶淹れますけど」
「お願いします…」
「あ…長所教えてもらってない…」
この後王たちを呼んでジェーンとガヴェイン主催のお茶会が行われた。
「厨二勇者か…」
「面白そうだな」
「反応に困ったよ…」
「はは…厨二勇者シエルだな!」
「というかこの紅茶美味いな」
「淹れ方が良いんだ。ガウェイン、紅茶の淹れ方今度教えてくれ」
「いいですね、私も教えてもらいましょうか」
「やはり妻がいるから上手いのか」
「関係あるのか?」
二回目の勇者面接。今回はガラハッドが同伴だ。モードレッドも同伴したがっていたが、実務で忙しいらしい。
「どうぞおかけになってください」
「それでは自己紹介を…」
「私はアクラです。今の仕事は接客業です」
「笑顔が素敵だとよく言われます」
「なるほど…。勇者になりたいと思った志望動機は?」
「みんなから認めてもらいたいからです」
「どういう、ことかな?」
「結果を出したらみんな褒めてくれるんです」
「……姉以外は」
「姉は完璧で…、私の事を認めてくれていないんです」
「勇者になったら、また…、私のことをきっと応援してくれると思うんです」
「他人に認められたいのか」
ガラハッドは静かにそう言う。アクラは頷いた。
「姉に認められたいのだろう。私も父に認められたかった」
「認められたかどうかは分からないが、肩を並べれている、と思う」
ガラハッドは微かに笑う。
「認められるというのは、君にとって何だ」
「……それは…」
「褒められることか」
「……はい」
「だがそれは本当に認められたのか?」
「違うだろう」
穢れなき白い髪が今は暗く見える。
「褒めている奴らにとって好都合だったから褒められたんだ」
「ちがいます…」
アクラの瞳が揺れる。
「そうだろうな、褒められたいから行動する君は批判されたらどうすればいいのか分からないのだろう」
「っ……」
アクラの瞳から涙が溢れてくる。
「誰かに褒められようとするな」
「じゃあ…どうしたらいいんですか、私は…」
感情的にアクラは言う。ガラハッドは優しい笑みを浮かべた。
「自分を認めてやれ、今まで褒められたいから行動した自分自身を」
「君は自己評価が低い」
「体を休めて、もう一度来い」
「リベンジさせてやる」
そう言った彼は神秘的ではなく、泥臭く勇敢な男の姿であった。
「……はいっ」
涙声で彼女は返事をした。
*
「かっこよかったぞ、ガラハッド」
「そうか?」
「ああ、すっごくな!」
「……ありがとう」
この後王たちによるお茶会が始まった。
「かっこいいですねえ、ガラハッド」
「独り身なのがますます不思議だ」
モードレッドは言った。
「次は俺が同伴するからな…」
「モードレッドさん、紅茶です」
「ありがとう…美味い」
「勇者面接に来る勇者達は面白いしな」
「じゃあランスは今度、同伴してくれよ?」
「一人だと荷が重い」
「……考えておこう」
三回目の勇者面接。モードレッドが念願の同伴である。扉が開かれる。
「どうぞ、おかけになってください」
「それでは自己紹介を…」
「……ロザリオです。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます」
「はい、勇者になりたいと思った志望動機は?」
「子どものころ、大きな岩に頭をぶつけたことがあるんです」
「そこに何か突き刺さっていて、引っこ抜こうとして握ったんです」
「そしたら抜けて、剣だったんですけど、喋りだして」
「勇者の剣てやつなんですかね…」
「それでみんなが、お前は勇者だとどんちゃん騒ぎで」
「今回の面接にも勝手に応募してました」
「大変ですね…」
「それが志望動機なのか?」
「はい」
「あの人ら、うちの村には勇者がいるって言って」
「でも…まだ勇者じゃないですから」
「本当の勇者になりたいと思います」
「ふん」
モードレッドはつまらなさそうに髪を触っている。
「自己PRをお願いします」
「そうですね…。物事を客観的に見れるというところでしょうか」
「なるほど…」
「帰っていいぞ」
「ありがとうございました」
*
「モードレッド…つまらないからって、お前……」
「つまらなかったんだ。しょうがないだろう」
「だからって…」
「もういいだろう」
ジェーンは大きな溜息をついた。
「確かにあいつにはつまらないだろうな」
「まだまだいると思うと、身が持たない…」
「魔王だとは気付かれていないんだろう?」
「分からん…、一応魔法で角は隠しているんだがな…」
四回目の勇者面接。今回はランスが同伴である。
「おかけになってください」
リエナは震えている。緊張からだろうか。
「会えると思っていました!魔王ジェーン様!」
「は」
「……」
「その美しい紫の長髪に、愛おしい桃色の瞳!間違いありません!」
リエナの水色の肩までの髪が揺れる。黄色の瞳は興奮している。急速にジェーンに近づき黒い手袋をしている手を取った。
「ああ…」
愛おしそうに黄色の瞳はジェーンに向けられている。美形のランスが隣にいるのを見えているのだろうか。ジェーンは動揺している。ランスが静かに口を開けた。
「座れ」
ランスの言葉が、仕草がすべて魅力的に見える魔法。魅力支配。途端、リエナの黄色の瞳は虚ろになり、ランスを捉えた。はい、とか細い声で言う。ぐったりと力が抜けるように座り込んだ。
「今日のところは帰れ。そして全部忘れろ」
「はい……」
か細い声で答えリエナは立って歩き出した。
「だ…大丈夫なのか?」
「ああ」