とある日。
文明開花直後の日本の洋館のような、ゴシックさと多少の見合わなさを噛み合わせた独特の雰囲気の館の一室にて、少女が紅茶を飲んでいた。
白磁に紫の妙薬の、すみれを模したような模様の美しいティーカップ内には、八分目まで赤茶色の香味豊かな液体が注がれている。
アフタヌーンティーに最適な白いテーブルは不思議な紋様が固まってできており、まるで植物の蔦がより固まっているかのような温かみと不気味さがある。
チェアは二つある。
片方の席にもまた同じように、紅茶の入ったカップが湯気を立てている。
そんな光景のなかで、ふわふわとした髪を豊かに揺らしながら、一人の少女がカップに口をつけていた。
深窓の令嬢と言うに相応しい光景。であるはずだが、そうよぶには不思議と違和感が勝る。
豊かで毛量のおおい無機質な白い髪。伏せられた雪の中の色。繊細に職人が技を凝らしたような、触れたら壊れるかもしれないと危惧させる白い花とも星ともとれる目のなかの紋様。
穏やかな気質を思わせる眼差しとは対照に、その服装は白地に幾何学模様の描かれたもので、その様はお嬢様というよりは、どちらかというと異界を探索する冒険者を思わせる。
勇ましさと上品さを兼ね備えたその様は、しかしその下に覗かせる黒い布地をショートパンツから膝上のレーススカートに変えていた。
しかし印象は対して変わらない。
ふわふわとした少女性と勇ましさを兼ね合わせた風貌は、そのまま「彼女」の性格と性質を表している。
しかして本日の彼女は、普段とは様子が違っていた。
それは彼女が今いる「1室」も同様だ。
ガーデニングのように、されど雑草のように、規則正しく不規則に並べられた淡く茎の光るバラ。
その絡まる蔦どもが手を伸ばすのは、いっぱいの星を写した天井に広がる水鏡。
その有様は、まるで神に人が助けを求めているようでもあるし、汚らしいものが自分を美しいモノと錯覚したがっているようにも見える。
そして、星を撃ち落とそうとしているようにも。
なお、物理法則の乱れはこの館には通用しない。
今も、この|世界部屋に唯一ある“窓”からは海が見える。
時折魚たちがチラとこちらをみては、「こんにちは」と軽々しく挨拶する。
時たまのそれに会釈を返しながら、少女はぼんやりと空をーーー厳密には、上の鏡を見ていた。
そこに自分は映らない。
そしてこの世界に限らず、ここに星空はない。
浅瀬だけの世界に限らず、文字通りの全てに。
この鏡は、一体どこを向いていて、どこを映しているのか。
感嘆の、もしくは呆れの声がそのまま息となって吐き出された、その時である。
「や」
「・・・。」
【来訪者】が、世界の|隔絶システム何するものぞと、そこにたっていた。
扉の使用ログは残されていない。
しかめ面をしたのは「自分の空間」にひょっこり入られたから、というよりはこの館のルール…厳密にはその前に「暗黙の」とつくが…に反しているからだ。
とはいえ言っても聞くまい。そもそも論、|この世界ここに少女がいることも、厳密にいうとルール違反なのだ。
あとは一度注意されたことがあるかないかで、悪いこと度合いでいうならつまり|=《トントン》なのであった。
…まあ罪の重さでいうのであれば、目の前の少女の方がはるかに上なのだが。
まず間違いなく〈管理人〉にバレたら死ぬ、かそれに類する悍ましい目にあう。
だが、それはさておき。
「…とりあえず座ったら。」
静かに空間を震わせたのは、あどけない静かな少女の声だった。
ただしその芯には、まるで畏怖と言わんばかりのおどろおどろしささえ感じさせる強さがある。
可憐さと、畏怖を包み込んだ声は、しかし部屋を緩やかに揺らすのみで、当然それに来訪者も何も言わなかった。
「はあい。」
呆れたように、もしくはやれやれと言わんばかりに。彼女は対面の椅子へと座る。
そうして、香りの強くない、しかし味の調和のとれた美しい水面を覗き込んだ。
「今日さあ、レコーディングがあるっていうじゃん。誰が行くんだろうねえ。」
「知らない。多分可不ちゃんだと思う。」
「だよねえ。あー…あと狐子ちゃん?」
「多分そう。」
「アキネーター…?」
数回の受け答えを交わしたのち、無言。
何も言わず、何もかわさず、しいて言うのならば『無言』というコミュニケーションを交わしたまま、取り合ず少女は紅茶を静かにもう一口飲んだ。
片方の椅子に座った彼女は、どこか|異国情緒チャイナ服を思わせる白ワンピースに幾何学模様のある丈の短い上着をラフに着こなし、不可思議さをかんじさせる、少し色合いの違う目をふせている。
どこかかわいらしく、上品な少女の印象がぬぐえない…そんな所作のままで、まつげを湯気にさらしながら紅茶をゆっくり飲んだ。
脚を組んだうえにソーサーを置き、取っ手をつかまないという行儀の悪さだが、彼女には不思議とそのたぐいのラフさがよく似合う。
上品にさえ見えるのだから不思議なものだ。
そしてそれに見惚れていれば、ふとその目と目が合う。
「どしたの、なんかついてる?」
「…ううん、いいえ。違うの。何でもない。」
男らしいわけではないが、ラフな格好が似合うというだけだ。
とはいえ、それをいうのははばかられた。なぜならば。
「フーンヘーンホーン…」
「顔がうるさい…」
「ニホホオホホホホ」
「声もうるさい…」
というか、仮にも音声合成ソフトがしてはならない顔をしている。
「まあそれはいいとしてさ、■■■くんたちどこ行ったんだろうね」
この後、自分たちが主役級のレコーディングとして召集されるとはまだ知らないのであった。
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星界ちゃん
初公開日: 2023年09月20日
最終更新日: 2023年12月13日
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コメント
星界ちゃんと裏命ちゃんがお茶を飲んでお話しする話です。
…今のところは。