もう長いこと小説書いてない気がするから書けるかこわ~い。一時間やってみてアカンかったら諦める(醜い言い訳)
両サイドを防音壁に囲まれた長く真っすぐな道が、緩やかなカーブを描きながら続いている。防音壁の向こう、黒い影になった山の輪郭がだんだんと濃くはっきりと見えてくる。空が白んできている。
「明けない朝はない」
突然、運転席の方から声がした。はっきりとした、明るい声だった。
「あ?」
「人はみんな死ぬ」
徹夜明けでハイになっている。そう思った。今、妙なテンションで運転している大門を福岡に呼び出したのは自分だった。昨日の夕方からこの明け方まで、大門は夜通し高速道路を運転し続けている。普段なら組の人間を使っているところだが、組に知られるとまずい、諸々記録に残るとまずいとなると使えるのは大門だけだった。
運転している男は一時間ほど前にサービスエリアで休憩した際には不機嫌を極めた低い声で自分に対して罵詈雑言を浴びせていたが、運転を再開すると次第に疲れからか口数が減り、やがてすっかり黙って単調な道を走らせていた。
他の人間ならば居眠り運転からの事故を危惧してこちらから話しかけているところだが、この男に限ってはそれはないだろうと思った。そしてそれ幸いと俺も目を閉じてうつらうつらしていたところだった。
「何、標語?」
「延命治療だと思う」
大門はまた明瞭な声を出した。俺は顔を上げ、窓の外の近づいてくる標識を見た。サービスエリアのマークはない。
「延命治療?」
運転席を覗き込み速度計を見つつ俺はそう言った。時速80キロ。一時間前と全く同じ速度を表示していた。
「そう。自然にしていたら死ぬ人間を無理やり生かすやつ。俺がしてるのはつまりそれだと思う。夜をさ、伸ばしてんの」
「何の話だよ」
「両親の話」
大門は前を真っすぐ見つめ、運転を続けていた。道の先の空は夜明け前特有の青い色をしている。深夜の、暗い中どこまで走っても続く道を見続けていると、ずっと、いつまでも続いていくような気がしていた。しかし空の色が変わったせいだろうか、今は急にそんな気分も失せ始めていた。
「明けない夜はないっていうだろ。それって人はみんな死ぬってのと同じだと思うわけ。ポジティブな言い方してるかネガティブな言い方してるかの違いで、ただ何事も、終わりは来るってこと。夜にも人間にも」
たしかにな、と相槌を打つ。同じ速度で淡々と走る車の右を、ものすごい速度で白のバンが追い抜いて行った。車の背面に書かれた社名がすぐに小さくなって、トンネルに入るのが見えた。
大門は続ける。
「明けない夜はない。大丈夫。お前のペースで前を向けばいい」
車がトンネルに入る。一瞬、ごうと音がしたかと思うと、すぐに抜けてまた単調な道に戻った。
「明けたくねえんだよな」
トンネルを抜けると防音壁に囲まれた真っすぐな道が続いていて、その先はゆっくりカーブしていた。先ほどの白のバンは既に見えなくなっており、周囲に他の車はない。遠くに黒く見える山の端が、白く光って見えている。
「俺が両親のこと引きずってるって見抜いたじいちゃんが、ふ、よく見てるから、まあじいちゃんも似たタイプだから分かったのかもしれねえけど、言ったんだよ。明けない夜はないって。大丈夫だって。今は大丈夫じゃなくても、いつか平気になるから、大丈夫だって」
「うん」
「でも俺、平気になんかなりたくねえなって、思ってさ、嫌だった。明けたくない。人がいつか死ぬのを無理やり引き延ばすみたいに、自然にしていたらいつか忘れて、平気になって、やり過ごして生きていけるようになるんなら、無理にでも苦しみを長引かせたいなって」
大門の声を観察していたが、ずっと単調に明るかった。普段の調子よりも明るいので、やはり疲れから変なテンションになっているのだろうと思う。
「じゃないと、お父さんとお母さんが、今よりもっと、いなくなる気がして、だから延命してるんだなって、俺は延命治療してるんだって、思った。今」
そう言いきって、大門は黙った。「へえ」と言って顔を覗き込んでみたが、少し眠そうなだけでいつもの、平常時の表情だった。
「大門さ、徹夜明けでハイになってるね」
「そうだよ、何時間運転してると思ってんだ」
「今日仕事つってたよな?」
「八時からな、最悪だよ」
「確かに、最悪だな」
「ちげえよ、最悪なのはお前だ馬鹿」
そう言いながらも大門の声は朗らかだった。妙なテンションのおかげか、楽しそうですらあった。しかし徹夜明けの大門の、このテンションも一過性のもので、太陽が姿を見せるころには終わりを告げるだろう。その後はまた例のごとく不機嫌な低い声で容赦なく、今回の事で俺を責め立てる様子が容易に浮かんだ。
「明けたくないなあ」
「え?」
「明けたくないね、今の時間の空、綺麗だし」
「ん、ああ、そうだな」
朗らかな、こちらに調子を合わせた大門の声が帰ってきた。両サイドを防音壁に囲まれた長く真っすぐな道が、緩やかなカーブを描きながら続いている。白んだ空に山の輪郭が見え、山を覆う深い緑の木々の輪郭もだんだんとはっきりと見えてくる。
夜が、明けようとしている。