夜の街。輝くネオン。そして何より、ふわふわとした自己認識。
そんな海の中で泳ぐように揺蕩うことが楽しくなかったか?と言われれば。
それは当然、楽しかった。
「いやいや無理無理、絶対無理。『■■■』の『■■』陛下に喧嘩を売ろうなんて、それこそ人間の屑か、他人の持っている者なんて心底どうでもいいただの人間しかいないよ。
」
「あと、一つ訂正が」
「ん?」
次の瞬間。
喉元に、刃物のような鋭さが突き付けられた。
物体ではない。視線だ。
「あの|狩人は、私を助けてくれているだけです。」
静かだった。
静かに、どこまでも、殺意だった。
「あの子は、あの子が大切にしている、あの子の大切な物のためにわたしに協力してくれているだけです。
猟犬扱いは、失礼かと。」
静かな声が響く。
しかし波紋を描かず、それは一点に集中する。
すなわち―――青年の、|首元に。
「訂正を。」
静かに空気を断ずるそれは、お願いでも嘆願でもない。
命令だった。
―はぁ。
青年は、笑いながらため息をついた。
言い方はおかしいかもしれないが、それ以外形容のしようがない。
ホールドアップと言わんばかりに、両手を肩の位置に掲げてにやにや笑う。
「はぁい、了解。わかりましたよ■■■。あの子は協力者、それ以上でもそれ以下でもない、それで了解しました。失礼失礼、訂正訂正、訂正しましょう。謝ります。改正します。俺がだめでした、間違っていました、理解が及んでいませんでした。ごめんなさい、浅慮をお許しください。」
「その謝辞は俺でなく本人にご謙譲ください。」
「いや面倒くさ。はいはいわかりましたよーっと。」
「あんまり近寄りたくないんだけどなあ」と、静かにぼやきながら。
怪異の青年は、夜の街に溶けていった。