創造維持神と13号との接触によってもたらされた情報から、我々は被験体の内面世界を注視することに力を注いだ。むろん、まだ直接被験者の精神をそのまま映し出すことまではできない。そこで我々は、創造維持神に接続した神経節(コード)を改造し、被験者と代理体、そして代理体と創造維持神を接続するシステムとして再構築した。被験者は代理体(サロゲート)を通して視覚野や言語野といった入出力系を創造維持神と接続されるだけでなく、それを観察室のモニタでも随時観察できるようになっている。
これにより、断片的とは言え融合実験中の被験者の脳内イメージを抽出することに成功した。計画当初は「融合」という言葉に引きずられて、創造維持神と被験者を直接融合させる、あるいは創造維持神から採取した組織を人体内へ移植するといった手段も考案された。しかし、そうした侵襲度の高い手段は被験体に大きなダメージを与える危険性が大きい。そこで我々は、代理体(サロゲート)を用いて被験者と創造維持神を間接的に接続し、なおかつ被験者の脳内イメージを抽出するという手段に落ち着いたのだ。
そしてまた、今まで我々が求め続けてきた「神の言葉」にも、具体的な形を想定することが可能となった。それは、すなわち――「被験者の欠落の補完」だ。
ダァバール融合実験の被験者の適合条件を、我々は「大きな対象喪失体験を抱えていること」と想定した。であれば、その欠落を補完するために創造維持神から与えられた補完イメージこそが「神の言葉」だと我々は考えている。
ズシン、という重苦しい音が響き、壁面に設置されたシリンダーが押し込まれ、創造維持神、代理体(サロゲート)、被験者の三者が接続された。観察室に設置された大型モニタには、被験者の脳内から拾われたあらゆるイメージが表示される。
まだ沈黙を守ったままのモニタを、観察室に揃った誰もが固唾を呑んで見つめている。
「被験者のメンタル、バイタルともに変化なし。代理体(サロゲート)にも変化は……」
状況を報告していた研究天使の言葉が止まる。代理体を監視していたモニタがズームされた。実験前にはシリンダの中で微動だにしていなかった代理体(サロゲート)の指が、ぴくりと動いた。当然だが、代理体(サロゲート)が自発的に動くことはありえない。これはつまり――。
溶液の中の代理体(サロゲート)は、手足を付随的に動かしている。しかしその動作は、我々が見ているあいだに次第に何らかの意味、あるいは意図を感じさせるものになってきた。
代理体の手足は、緩慢な動きで収縮していく。その姿勢は我々に、容易に胎児の姿を想起させるものになっていく。代理体(サロゲート)が徐々に体を丸めて胎児の姿勢をとったとき、今度は被験体の脳内イメージを表示していたモニタに変化があった。
それまでは真っ暗だったモニタにわずかにホワイトノイズが走る。肉眼では確認できないほどのスピードでさまざまな映像がザッピングされ……徐々に映像がはっきりし始めた。
「被験体の視覚野からの映像です、これは……!」
我々が初めて目にする、融合実験中の被検体が見ている光景だった。これまでの人類史上枚挙に暇のなかった神秘体験、それを我々は今、客観的に見ているのだ。
最初にはっきりとモニタに映し出されたのは……どこまでも続いていそうな草原。そして雲ひとつない青空だった。それまで画面にちらついていたノイズはいつの間にかなくなり、異様に鮮明な、まるで現実のそれと見まごうほどのその光景に、我々は釘付けになっていた。
次に画面に現れたのは、二本の腕だった。被験者の――少なくとも現実の被検者のものではない、傷ひとつない両腕。
その両腕がいったん画面外に消え、何かをゆっくりとした動作で持ち上げた。清潔そうなシーツに包まれたそれは、赤ん坊だった。まさに、流産によって子を失った被験者の対象喪失体験を補完するイメージそのもの。我々の立てた「ダァバール融合実験の適合条件は、対象喪失体験を抱えていることである」という仮説はこれで立証されたと言っていいだろう。
別のモニタの中では、代理体(サロゲート)が胎児のように体を丸め、接続装置に身を横たえた被験者の傷だらけの両腕は、大型モニタの中の映像と同じように、愛おしげに赤子を抱く形を取っている。