だから
「リナリア・ガーランド」
そう低く、ごろつく声で呼ばれた時、警戒を怠ってしまった。
振り返った瞬間に衝撃が私を襲い、この身体は道端へと吹き飛ばされた。
視界にシオンの腕が映り――彼に突き飛ばされたのだと知る。
レンガが敷き詰められた道に転がったせいで身体のあちこちが痛んだけれど、
それを契機に意識が現実に引き戻される。
はっとしてシオンの姿を探すと、彼は私に声をかけた男に鮮やかな蹴りを食らわせたところだった。
鳩尾につま先が食い込み、何かを吐きちらしながら、男が吹っ飛んでいく。
その背後で男の仲間らしきもう一人が、やや大型の銃を構えていることに気がつく。
私ではなく、シオンに向けて。
「シオン!」
呼びかけたのと、その銃身が反動で跳ね上がるのと、どちらが速かったのか。
シオンはその驚くべき反射神経で身体をひねり、弾の直撃を回避した。
が、かすめてしまったらしい右の二の腕が凄まじい音を立てて爆発する。
自分ではなく、通行人の悲鳴が私の耳をつんざいた
シオンは少し顔を顰めただけで、そのまま冷静に、護身用の電気銃を左手で構え、
流れるように、相手の銃を握った腕と額に連射した。
がしゃ、と鈍い音を立てて黒い銃身が転げ落ち、追いかけるように男も地面に崩れ落ちた。
「シオン.......!」
「大丈夫、どっちも。あっちは脳震盪だ。パワーは加減したから。」
通行人が遠巻きにこちらを眺めている。こちらの正体が分かったことで、
むしろ、同情的な空気が漂っていた。
護衛を連れた少女が、白昼堂々と謎の人物に襲われる。
このようなキーワードで合致する存在は、この街では「リナリア・ガーランド」しかいない。
「ガーランド家のお嬢様...」
「いつも命を...」
「莫大な遺産が...」
囁くような声がまとわりついてくる。
「さっさと帰ろう、リナ。『先生』を呼ばないと」
男共の回収はそのまま警察に丸投げにするつもりらしい。
シオンはこちらに手を差しだそうとして、3分前には自分の手があったはずの空間を眺め、力なく笑った
「ごめん、怖い?」
二の腕の削り取られた部分からは、沢山のケーブルが千切れてだらりと垂れ下がり、
いつも彼の身体を血液の代わりに流れている黒いばねばねした液体がぽとぽとと滴っていた。
「……ありがとう。助けてくれて」
「それが仕事」
「そうね...」
『護衛用自律型アンドロイド』の為に、真っ白なハンカチを傷口にしばってやりながら
私は小さく息をついた。
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君にクローバーの花束を(5)
初公開日: 2023年07月06日
最終更新日: 2023年07月06日
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