「リナ、偶には買い物に行くか」
勉強に全く身が入らない私を見かねてか、シオンが不意に歴史書を閉じて提案した。
歴史書を操る綺麗な指先とさらさらの黒髪に見入っていた私は、はっとして顔を上げる。
「明日はご主人さまと奥様の命日だ。お二人が好きだった菓子でも買いに行こう」
彼は怒っておらず、仕方ないというように柔らかい笑顔を浮かべている。
その表情に安心して、私はこくこくと頷いていた。
「帰ったら、お菓子と一緒にお茶を頂きましょ。ね、シオン」
「はいはい」
玄関の扉を開けた瞬間、透明感のある、日差しが柔らかく降り注いできた。
私は普段からずっと引きこもりの生活をしているから、外出は本当に久しぶりだった。
両親の莫大な遺産のおかげで、社会に接することがなくても生活には支障が無いのだ。
必要なものは取り寄せができるし、シオンは護衛兼ハウスキーパー兼教師でもある。
完璧超人が一人いてくれるだけで大抵なんとかなるものだ。
女の子なんだから、と母から私も一通り家事と手習いを受けてきたけれど、
シオンの方がよっぽど優秀だ。
(フラワーアレンジメントの出来栄えまで彼に完敗したのは苦い記憶だ)
しかし、私の引きこもり生活が続いているのも私に与えられたシオンが完璧超人なのも
もとはといえば理由はただ一つだったのに。
その理由を私はすっかり忘れていたのだ。
正しくは、隣を歩いてくれるシオンが嬉しくて、それしか目に入っていなかったのだ。
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