「届きそうで届かない何かがあったんだよね」
僕が口にした疑問の答えにはなっていない。あからさまに疑問符が浮いていたのだろう「まぁ待ってよ」と言われたので大人しく話の続きを聞く。
「私、人当たりは悪い方じゃないと思うんだよね。仮にも芸能界でそれなりに仕事してきてさ、まあ色々あったけど、そこまで人に嫌われてはいなかったと思う。アンチも多い方じゃなかった」
君はカフェオレを口許へ運んで、やっぱまだ熱いか、とカップをソーサーへ戻す。
「でもさ、”そんなに嫌われない”って”そんなに好きな人もいない”ってことなんだよね。おかげで何の印象にも残らないような役が多かった気がする。いや、どうなんだろ。その役を魅力的に出来なかったのは、やっぱり私の技量がなかったからか」
君は独り言のように言う。
「演技はそれなりだった。顔もそこそこ。でもそれって結局”それなり”でしかなくて、”使える”程度のものでしかなくて、”使いたい”と思わせるほどのレベルじゃなかったってことなんだよね」
俯く君の表情は少し分かりづらかったけど、話している内容の割にはスッキリしていそうだった。もう既に自分の中で決着がついているというべきか。
「努力じゃ個性は磨けなかった。私の最高評価はたぶん”よく使える”くらいで、”ぜひ使いたい”じゃなかった。そこには大きな差があったよ。届きそうで届かない、あともう少しに見えるのに、実際は遥か遠い。すごく落ち込んだ日もあった……けど、気づいたんだよね」
やっとカフェオレを一口飲むと、落ち着いたようにふっと息を吐き出してから言った。
「ありのままの自分じゃダメなのかな? って」
その声がほんの少し震えていたのには気づかないふりをする。
「誰かに求められたかった。誰かに好かれたかった。ここで言う誰かっていうのは、きっと”万人”のことだね。でもさ、そんなのって無理じゃん?」
笑い話のようにトーンを上げる君だけれど、その結論に辿り着くまでには相応の覚悟が必要だったんじゃないだろうか。
「努力して、経験は積み重なったけど、それが本来の性質を変えるほどのものかって言うとそうじゃなかった。あの頃の私を好きでいてくれた人たちがいるのは知ってて、ありがたいと思ってるけど、でも、私は”私以上”になれなかった」
そこで君は両の手をパチンと合わせて僕の目を見て言う。
「じゃあ、”私”をそのまま求めてくれる人と一緒にいればいいじゃん」
君は目を逸らさない。
「だから、私は君といることを後悔するような瞬間はない。これで回答になったかな?」
そうストレートに言われると少し恥ずかしいものがあった。お返しとばかりに「僕を選んでくれてありがとう」と言うと、君は満足そうな顔で頷いた。