心から音が聞こえた気がした。
 あなたが女の子とキスをしているのを見てしまった時のこと。あの人は、確か隣のクラスの、名前は分からないけれど、いつも女の子たちの中心になっている人。その人とあなたが、すっかり日の落ちた公園で、口づけをしていた。
 私は学校に忘れてしまった定期を持って帰る途中で、あまり遅い時間になるといけないからこっそり近道をしようとして、あなたの姿を見かけてしまった。
 すぐに目を逸らしたけれど、その光景があまりに衝撃的すぎて、一瞬で脳内に焼き付いてしまった。
 この状況はたった一言で言い表すことができるのに、私はその言葉を直視できなかった。
 代わりに脳内にはこれまでの思い出が浮かび上がる。あなたに告白されたこと。初めてのデートの時は何を着て良いか分からなくて、一生懸命選んだ服をあなたが褒めてくれたこと。初めて手を繋いだのは3回目のデートの時。あなたの手は大きくて、温かくて、このまま離さないで欲しいって、本気でそう思ったこと。
 今までの全部、私だけに向けられたものじゃなかったの?
 公園から離れながら、私の頭はぐるぐる回る。
 心の底から湧き出てくる得体の知れない感情に、理性が戸惑う。
 別れた方が良い。それは分かった。擁護できる余地もない。あの人は超えてはいけない一線を超えている。誰かに相談したら100%「別れなよ」と言われる状況だ。
 でも、私の心の奥底から、全く違う感情が溢れる。
 さっき、心から音が聞こえた。あれは私の中の何かが壊れる音。そして壊れたものの中からどろりと得体の知れないものが出てきて、私の心を満たそうとする。
『あの人と別れたくない』『あの人に幸せにして欲しい』『あの人を失いたくない』
『あの人を私のものにしたい』
 何かが決壊した心ごとどろどろになりそうだ。でも、抑えられない。
『私だけを見ていて欲しい』『私にだけ甘い言葉を囁いて欲しい』『あなたの全てになりたい』『私以外誰のこともその心に留め置かないで欲しい』『私とあなたがお互いにとっての唯一であって欲しい』
 ……あなたが好き、あなたも私が好き。それだけで良かったはずなのに。
 もうこの感情を知る前には戻れない。
 私ね、恋ってとても素敵なものだと思ってた。綺麗で、さらりとしていて、幸せになれる。そんなのはおとぎ話と同じくらい絵空事なのね。
 あなたのおかげで気づいたわ。恋はどろりとしているのね。これが恋の重み。私の本心。あなたへの愛の全て。
 覚悟ができたの。あなたを私のものにするために何だってするって。
 だからこれからも私の彼氏でいてね。
 今、密かに誓うわ。
 私はあなたを愛してる。ずっと一緒にいるために、私の愛の全てをあなたにあげる。
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