「好き」ってなんだったんだろう。
 それだけがぐるぐると頭の中を回っていた。
 自分がなにを考えているのかもよく分からない。頭が固まってる。
 視線を外に向けてはいるはずだけど、なにも見えていないかのようだった。今授業してるであろう先生の言葉すら耳を通り過ぎている。
 わたしの中で渦巻いてるのは、昨日のあの言葉と、そんな疑問ばかり。
 それ以上考えたくないみたいだった。
 そんな冷静な俯瞰ですら、思考を上滑りしてる感覚。
 ノートに視線を落とす。シャーペンを握って、紙面に黒炭を滑らせる。
 「好き」
 書いたそれをぼんやりと眺め、隣に大きな「?」を続けた。
 昨日まで確かにあったはずの気持ちが、まるで嘘だったみたいに掴めない。
 もうその気持ちは分からない。
 わたしは考えるでもなく、なんとなしに辞書を開いた。
 「い」「う」「お」「き」「こ」「さ」「し」「す」……「す」、「す」……あった。
 「好き」。
 「心がひかれること。気に入ること。またはそのさま」。「片寄ってそのことを好むさま。物好き。また、特に、好色。色好み」。「自分の思うままに振る舞うこと。また、そのさま」。
 ……ますます分からなくなる。
 わたしはあの人を気に入ってたんだろうか。心が惹かれてた……んだろうか。
 分からない。分からないけれど。
 わたしはなにも分からないまま消しゴムを手に取り、書いたばかりのその文字をこすり消した。
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