「今日は遠い方のロード行こうヨ」
雨上がりのその朝。天童が眠そうな目をしながらそうが言った。もうすっかりロードに行く身支度を調えていた俺は、少しだけ眉をひそめる。天童がそんなことを要求するなんて。いつもなら「近い方にいつもしよう」と駄々をこねるのに。俺よりもずっと持久力のない天童の持久力を少しでも上げられればとむしろ俺の方が「遠い方」を要求するのに。
なので、つい俺は「どうした?」と訊いていた。
ふわっとあくびをする天童は、しかし、徐々にその瞳の奥が目覚めてきた様だった。
「俺もセッカク最後の大会前くらいは体力付けなきゃって思うワケですヨ」
「そうか」
明日から春高予選の地区大会が始まる。最初のうちはそんなに強いチームと当たらないだろうと思われたが、油断するわけにはいかない。今日の最終調整も気が抜けない。
「今更では無いか?」
「それ、言う?」
ケラケラ、と笑う天童がぐっと伸びをする。もうすっかり目が覚めたようであった。
「行こうか」
「ペース速くても良いヨ」
「いや。いつも通りにする」
「つまんねぇの」
走る天童の上体がゆらゆらと揺れる。そんなに左右に身体を揺らしたら余計に疲れるのでは無いかと声をかけると、チラリと天童が振り向く。
「身体を柔らかくしてないと瞬発力は出ネェわけヨ」
「それもブロックのためなのか?」
「モチロン」
君の走るときの変なくせを、きっと俺はずっと忘れない。