きが付けば こうやって考え込むのはいつぶりだろうか。
効率的、合理的に。どのようにすれば最適な手段を取れるのか、そのように頭を働かせたことはあった。というよりも生前は常にそうだった。善いことを成す。自分が獲得することのできる五分の中で。
だから、今のように何の目的もなく。時間も気にせず。今までの自分からすれば無駄だと思えるようなことを頭に思い浮かべるのは、何年何カ月何日何分何秒以来……。こうやって考えてしまうのも癖になってしまっている。今は気にしなくてもよくなったというのに。
テテオカンの北。ミクトランパに辿り着いてからは、自らの記憶の制約に縛られることはなくなった。それについての説明をここの管理者であるテスカトリポカに聞いたときは驚いたものだ。目を丸くしていることを指摘されたことを覚えている。そのときのテスカトリポカの面白がるような表情も。
彼曰く、ミクトランパでは徹底的に戦士に休息を取ってもらうことにしているらしい。そのためにはいくらか手を尽くすしているようだった。自分の記憶容量の件についてもそうなのだろう。自分の領域であるからかそういったことには意外と自由が利くと言っていたことも覚えている。覚えていられる。
連想が連想を呼び、ふと生前のことまで思い出した。
カルデアが到着するまでの一年間、そのある日のことだ。自らのサーヴァントだったというのに、神出鬼没のテスカトリポカがその日は朝から酒盛りをしていた。それも自分のすぐ近くで。挙句の果てにフィールドワークに出ようとする自分を止め「オマエも横で飲めよ」などと言うものだから、珍しいことがあるものだと驚いた。彼を召喚してから驚かなかったことのほうが少ないが。
「神に酒を注いでもらえるなぞ光栄なことだ。後でもいい、敬えよ」と言われて飲まされた酒は初めて味わうものだった。醸造酒なんて飲んだことがなかったから。それとも自分のサーヴァントとはいえ神に酒を振る舞われているからか。飲む直前になって神話におけるケツァルコアトルとのことを思い出したからか。
人との交流を避けてきてはいたが、興味本位で酒を嗜んだこともある。それでも、テスカトリポカが持ってきた酒は今でに味わったことがないものだった。美味い酒というのはこういうものなのかと。
その後のことも覚えている。五分の記憶容量には入れなかったはずだが、これも彼の神の成せる技なのだろうか。いつものように不敵に笑ってテスカトリポカが言っていた。
「オレは見ての通り酒はイケるほうなんだが、トリ公はそうじゃなかったらしい。まぁそこに付け込んでやったってのがオマエも知る神話の一つだ。あのときのコアトルは面白かったぜ? なんせ実の妹とヤッちまったんだからな! 前後不覚になるにもほどがあるだろ! ま、その後は怒鳴り込んでくるわマカナで頭をかち割られるわでいろいろ大変ではあったがな。オレの目論見通りには進んだってワケ」
驚くほどに一字一句間違わずに思い出せる。そのときの感情まで。計画を遂行するのが一番の目的ではあったが、そのときは確かに楽しかったのだと。
どのような者でも戦士として認めたならば、迎え入れ、その者の休息を認める神。テスカトリポカ。それにしてもサービスをし過ぎではないだろうか。
「……ふ」
「よう、兄弟。何か面白いもんでもあんのかよ。オマエさんが笑ってるなんざ珍しいときたもんだ」
気が付けばいつの間にか後ろには、聞き慣れた声、見覚えのある黒衣の男が立っていた。
ああ。テスカトリポカ。おまえのことを考えていたんだ。