どうやら今年もこの季節がやって来たらしい。
熱を持った身体をなんとか動かし、見慣れたソファーへ寝そべってしまう。茹ったような頭では物事など考えられず、行儀が悪いと叱られてもおかしくはないほどに脱力して。この場に古論がいたのなら『砂浜に打ち上げられたクラゲとそっくりです』などとでも言っていただろうか。うっすらと目に浮かぶ。くしゃみをしていなければいいが。
「先が思いやられるな……」
今は六月上旬。恐ろしい真夏の地獄には二ヶ月も早い。だと言うのにこの暑さはあんまりだろう。
あまりの暑さに上半身はインナーのみで、嗚呼、こうしている間にも首元から汗が滑り落ちていく。いち早く汗だくでだが、いくらなんでも冷房つける季節ではない。
「あつい……」
口にしてもどうしようもない言葉が零れていく。こう暑いと時間の流れも酷くゆっくりに思えてくる。今は何時だったか。こんなに弱り切っている場合ではない。あと数時間もすればあいつが訪ねて来る時間で……。
「こんにちはー。雨彦さん。お邪魔しますー」
「……北村?」
仰向けの体勢のまま上を向けば、そこには愛らしい丸みが。こういうことを言うと必ず叱られるか拗ねられるかということになるので黙っておく。
「やけに今日は早いんだな」
「ちゃんと約束通りに来たよー。見た感じだとまた溶けてたんだねー。それだと僕が早く到着したって勘違いしても仕方ないかー」
うんうんと頷きながら、一人で勝手に納得している北村。俺は全然納得していない。
「溶けてるもなにもただ寝そべってるだけだろうに」
「えー。さっき叔母さんにご挨拶したときに雨彦さんはまた溶けてるからお気になさらずって言われたよー」
「ははぁ……。叔母さんなぁ……」
「ともかくこの体勢で出迎えてすまないな。今起きる」
「そのままで大丈夫だよー。急に暑くなってきたし、雨彦さんはきっとつらいだろうなとも思ってたしー」
「そんな雨彦さんにいいものを見せてあげようかなー。じゃーん。これはなんでしょうかー」
「団扇、かい」
「せいかいー。兄さんと掃除してたら出てきたんだよねー。藤の花が綺麗だったから雨彦さんにも見せてあげようと思いつきまして。ふふっ、これで扇いであげましょうかー」
「……ああ。是非頼む」
「どうー? ちゃんと涼しいー?」
「大分楽になった。やはりいくらか風があると違うな。それに……。いや、なんでもない」
ここで『お前さんに扇いでもらっているから尚更だな』とでも言えたのならどれだけ良いだろうか。北村は喜んでくれるだろうか……。
「雨彦さん……? 顔がもっと真っ赤になってないー……? もしかして具合悪くなってきたりとか……。っ、ちょっと待ってて、今お水貰って……」
「あー。なんだ。いや、違うんだ。その……」
「……お前さんに扇いでもらってる俺は……幸せ者だなと、ただ、そう……思っただけなんだ。安心してくれ。……今のは、照れくさくて、その、な……」
「ふふ……。雨彦さん、最近はさらに素直になったねー。嬉しいなー……」
さらに暑くなっちまった。