探偵業には公的試験は存在しないが、一般社団法人日本調査業協会が主催する「探偵業務認定試験」に合格することが探偵になるための主要なルートだった。確かに、探偵としての能力や知識を身につけるためは、やはり専門の教習期間が必要だ。今まではそう考えられてきた。しかし、改めて今まで数々の難事件やすでに迷宮入りになっていた事件をその卓抜した能力で解決してきた探偵をピックアップし、その経歴や出自を徹底的に調べ上げた結果、ひとつの事実が浮かび上がってきた。
すなわち、探偵の中でも特に優れた業績を残してきた探偵のほとんどは、探偵としての専門的な教育を受けてはいなかった。トップクラスの業績を残している探偵は、ほぼ例外なく何らかの事件に巻き込まれていた。そこで突発的に探偵としての能力を発現させていることが判明したのだ。
ここで、我が国における探偵不在に対してのアプローチは大きな転換期を迎えた。
すなわち、「一般人から探偵としての能力を覚醒させる」という方向に。
問題となったのは、その方法だ。
探偵としての技術や知識は習得できても、「能力を覚醒させる」というアプローチは未知数のものだった。そこで関係機関はまず、過去の事例を総ざらいすることにした。
探偵はいかにして出現するのか? 場所は? 条件は?
数年をかけて関係機関が調査を行った結果導き出された答えは、拍子抜けするほど簡単で、当然で、常識的なものだった。
すなわち、。
探偵は、事件の現場にいる。探偵は、事件から生まれるのだ。
「今回の実験場として選ばれたのは、この絶海の孤島です。本陸からの連絡手段は月に一回の船以外には、今回館で行われるパーティの参加者を運ぶ便しかありません。電波は通っておらず、船が来ない限り外界との通信手段は一切ありません。」
「加えて館は建て増しに次ぐ建て増しで迷宮化、当時の館の見取り図はすでに紛失されており、老朽化の点も含めてこの館の現在の構造を把握しているものはありません。シチュエーションとしては最適でしょう。」
「規定通り、あらかじめ定められた犯人が殺人を起こします。その一人以外は、全て探偵として覚醒する才能『探偵因子』の高いものです」
「絶海の孤島、密室殺人……このこシチュエーションから生還したものこそが、新たなる探偵となるでしょう。」
「探偵を発生させるためのシチュエーション」において、既存の地形や自然を生かせるという理由で好んで設定されるようになったのが、「絶海の孤島での密室殺人というものだった。