42文字×34行、〔短編〕 = ワープロ原稿の場合 15~30ページ。
ジャンル不問
締切:2023年4月10日23:59
刹那を粋に
行方不明の父親を探す話。
伝えたいことがあるなら、言葉にしないと伝わらない。
○あらすじ800字以内
○本文
 深い、深い谷の底。
 川縁の草葉の影に隠されるように、鋼鉄の扉があった。外からの侵入を拒むように、はたまた内から脱走する者を捕らえるように硬く閉ざされている。
 サーッと静かに風が吹き、扉が僅かに動く。
 錆びついた鉄粉が擦れる匂い、ギ……ギギ……と弱々しく鳴る重たい扉。
 出てきたのは痩せ細った少女だ。
 真っ白な足で一歩踏み出すと、細かな砂利がほんの少し音を立てる。少女は、はじめて聞く音に飛び跳ね、青白い血管が浮き出る首をキョロキョロさせて警戒した。太い黒革の首輪がつられて動く。
 十代半ば頃に見える少女は、薄汚れたシャツから手を出し、何度か顔を拭った。時々手のひらに付いた汚れを舌で舐め取る。
 顔は可愛らしく、大きな赤い瞳は太陽の光を反射し輝いている。特に目立つのは側頭部から垂れているピンク色の耳。一見すると癖が付いた髪の毛のようで、赤みがかった黒髪と垂れ耳の境は色がはっきり分かれている。
 少女はおぼつかない足取りで目の前の川にフラフラと近付き、浅瀬の匂いを嗅いだ。鼻を震わせながら、フンフンと楽しそうに探索する。流れる川の匂いも、陽光の暖かさも、足に触れる石の感触も、はじめての経験だ。
 少女の目は、水中を泳ぐ小さな魚を捕らえた。腹がきゅう、と鳴る。本能に従い勢いよく手を伸ばすと、先に水面が揺れ、魚は逃げてしまった。
 それでも楽しそうに何度も手を入れ、少女はハッハッと荒くなった呼吸を繰り返す。
 その最中、ピンク色の耳が音を拾った。背後の鉄扉からだ。
「おい、ここ開いてるぞ!」
「逃走経路発見しました!」
「十一番いるか?」
「死んでても回収しろ!」
 幾人もの叫び声が轟く。
 少女は、叫び声から逃げるように駆け出した。水の中で拾った●壊滅の鍵を握りしめて……
●USB、錆びた鍵、研究資料の紙切れ
  夜、橘粋那(たちばな いきな)は居酒屋にいた。
 ひとりでカウンターに座り、烏龍茶をごくんと飲み干す。刺さるような苦みが鼻を抜けていく。
 座敷席で盛り上がる若者集団の活気を背中に感じつつ、片膝をついて思案する。
「お兄ちゃん見ない顔だけど、大学生?」
 隣で呑んでいたサラリーマンがふらりと声をかけてきた。
「まだ高校生ですよ。中退しとりますけど」
「へー。いや、理由とか聞かないから。頑張ってね」
「ありがとうございます」
 サラリーマンは、粋那の手元をちらりと見た。
「もんじゃ好き?」
「あ、はい。友達とよく食べとったんですよ」
「俺、元カノと『たちばな』ってとこに旅行行ったことあってさ。ふらっと入った商店街で食ったもんじゃが美味かったな」
「自分そこ出身です」
「まじで? めっちゃ遠いじゃん。なにしに東京来たの?」
「人探してます」
 粋那はウエストポーチを開け、「この人なんですけど」と一枚の紙を見せた。お世辞にも上手いとは言えない人の顔が描かれている。
「ふうん、誰?」
「父親です」
「父親?」
 サラリーマンは紙と粋那を見比べて首を捻ったあと、カウンターの向こうに見せた。
「店長、この人知ってる?」
「ん? 知らんなあ」
「もっとよく見て!」
「こんな似顔絵じゃなあ……」
 苦笑いする店長に、サラリーマンは紙をぐいと近づける。店長が渋々紙を受け取ると同時に、座敷から声があがった。
「すんませーん! おあいそ!」
 呼ばれた店長は「あいよ」と答え、紙を返し、レジを打ち始めた。
「人探しって、インターネットでやったほうがいいんじゃない?」
「掲示板とか知恵袋ですよね。やってみようかな……」
 会計を待つあいだ手持ち無沙汰になった若者たちが絡んできた。気持ちよく酔えたようで、狭い店内に大きな声が響く。
「なーにー? 探偵さん?」
「真実はいつもいつつ!」
「多すぎ!」
「見た目は大人、中身は子ども、です!」
「逆、逆ぅ!」
 かぁははははと楽しそうに笑う顔を見ていると、粋那もなんだか嬉しくなる。
「めっちゃご機嫌ですね。良いことでもあったんですか?」
「聞いて聞いて! うちの犬がな、子供産んだんよ!」
「またそれ!」
「知らん人にまで話すなよー!」
「もう聞き飽きたよ。店長、いくら?」
 店長が金額を出すと、若者たちは話も途中で二次会に行ってしまった。
「俺もまた飼おうかなー。実家でな、飼ってたのよ、うさぎ」
「マジですか、俺もうさぎ飼ってましたよ!」
「写真見る? 見て!」
「見せてください!」
 サラリーマンはスマートフォンを操作して写真を探し始めた。よくよく話してみると気が合い、部活でバンドをやっていたこと、生徒会の副会長などの共通点でひとしきり盛り上がった。
「お兄ちゃん甘いもん好き?」
「好きですよ」
「じゃあ飴ちゃんあげよう。とっておきだぜ」
「とっておき! いいんすか」
 サラリーマンはポケットから飴を一粒取り出し、粋那の手に握らせた。
「さらに、今日は俺の奢りだ」
「えー! ありがとうございます、ご馳走様です!」
 粋那は深々と頭を下げた。社交辞令でもノリでもない、心からの感謝だ。実際、懐は寂しかった。
「いいよそんな。俺も楽しかったし、ありがとな!」
 穏やかな時間が流れる店内。
「万引きだー!」
 店の外で男性の大きな声が響いた。隣のドラッグストアからのようだ。
 居酒屋の店内にいた人は皆、外の様子を伺うようにガラス戸に目を向けた。
 ガラス戸の前を、背の低い影が走り去る。
 考えるよりも早く、粋那の体は動き出していた。
 身ひとつで居酒屋を出て、影を追う。
 前を逃げるのは痩せた子供だ。体に合わない大きなシャツに風を受けながら、大通りをまっすぐ逃げる。透明な袋に入ったパンをひとつ、小さな口に咥えている。脚の筋肉は大してついていないが瞬発力はあるようで、一歩ずつどんどんスピードが上がっていく。
 路地裏で立ち止まった。ざらついたコンクリートの壁には、煙草と生ゴミの匂いがこびりついている。
 袋を振り回している。中のパンを食べたいようだが、開け方が分からないらしい。
 真ん中から引き千切り、ようやく食べ物にありつけた。小さな口で齧りつき、歯ですり潰すように咀嚼する。
 腹が満たされると満足したように地面に座った。薄汚れたシャツから手を出し、何度か顔を拭った。時々手のひらに付いた汚れを舌で舐め取る。
「なにしてんだ、泥棒?」
 子供は
逃げる一羽、襟首掴んで
「お前、人間じゃ……ない?」
もらった飴やる、食べる、美味!好き!
街人に突き出す
「泥棒捕まえましたよ」
警察へ
④ 警察を脱走してきた一羽に後を付けられる、寝床が欲しい一羽vs一緒にいたくない粋那
鼻ブッブッ、夜カプセルホテル、何度も往復してる履歴あって東京来たけどなにも情報が無い。
 父親が帰ってこなかったあの日も、いつもよりひとつ多い鞄を抱えて、靴を履く背中を見ていた。立ち上がると俺の髪を撫でて、頬を摘んで「行ってきます」と言う。いつもと変わらない朝のはずだった。だけど、親父は帰ってこなかった。どこか遠い知らないところに行ってしまうような感じがした。あの時感じた違和感は合っていたんだ。父親がもう死んでることは分かってるんだ、諦めきれない
 アメニティの水を手に取り、口に含む。意味もなく廊下を見ると、思わず飛び跳ねた。
 カプセルの外から、先ほどの少女がこちらを覗いている。扉のガラスに触れるほど顔を寄せ、吐く息に合わせて白く曇っている。
「な、なんで居るだよ。警察に預けたよな……?」
 咽せる粋那
居た堪れなくて中に入れる
「お前、名前は?」
「?」
「じゃあ、俺が決めるか」
 粋那は少女を見ながら、思いつく単語を並べていく。
「ぴんく、もも、くろ、たろう、はなこ、ぽち、たま、にんげん、ひと」
 どれにも無反応だ。粋那は体勢を変えて「そうだな……」と一呼吸置いた。
「ひとう」
 その声に、少女が顔を上げた。プウプウと鼻を鳴らしている。
「決まりだな」
「漢字も決めるか?」
 粋那はウエストポーチからメモ帳とボールペンを取り出した。真新しいページを捲り、『人』と書いていく。
「これは人間って意味。これは一番とか、初め。これは仁義の仁、思いやり。これは他人、別物」
 少女は興味津々にボールペンの軌跡を目で追う。半開きになった口にも気づいていないようだ。
 粋那は隣のページに移り、『有』と書いていく。
「これはある、存在する。これは右、ライト。これは宇宙。これは羽、翼……」
 思いつく限りの漢字を並べ、それぞれの意味を
「さ、どれがいい?」
 メモ帳を少女に擦り寄せる。少女の開けっぱなしの口から涎が垂れた。真下にいた文字が滲む。
 粋那は「ハハッ」と笑って滲んだ文字を確認した。
「じゃあ一羽で決まりだな」
 一羽の小さな口の端が少しだけ笑った。
「こんなトコでうんこすんな!」
食糞する一羽
「うんこ食うな!」
⑤ 朝、研究所の追手、逃げながら戦う、一羽を逃すが物陰から見てる、「なにがあった?」「言わんと分からんで」、声帯がない一羽足ダン
一羽の服に知ってるロゴ、ググると奥多摩の研究所
⑥ 研究所に行く、潰れてる、父親の足跡がある
「親父……!」
木更城源五郎の影武者だった父親、選挙に勝つため消えることを受け入れた、一羽辛い実験を思い出しキーキー
「俺は一旦地元に帰るけど、お前はどうする?」裾を掴んだ指に力が込もった。
「しょうがねぇなぁ!」
粋那を追いかけて撫でられて目を細めて頭を擦り付ける一羽
⑦ 深夜、元担任の家に集う御郷と粋那
「よっ」
「うん」
青年は素っ気なく返す。
連れ帰った一羽見て
「それ、なに?」
庭で食品サンプル作る元担任
「「おぉー」」
粋那が仕入れてきた父親の足跡を話す
御郷が予想する
「どこかで生きてるかもしれんし、かもしない」
「曖昧だなぁ」
「もし、まだ生きてたらどうする?」
 粋那は「そうなぁ……」と視線を落とし、続けた。
「俺と母さんのこと、どう思ってるのか聞きたいかな」
「ほんとは?」
「……嫌な聞き方するな。ほんとは、そうだな……」
「ただ撫でて欲しい、のかな」
 粋那はそう呟くと、一羽の瞳を優しく見つめた。髪を撫で、頬を摘む。かつて、父親がしてくれたように。
研究所が潰れて正解検証はできない
「また高校行くの?」
「旅楽しかったし、日本一周でもしようかな」「良い相棒もできたことだし」
⑧ 一羽と旅道中の粋那、街で父親をたまたま目にする、新子家族と観光客でもんじゃ食べる親父
 妻らしき女性と、幼い子供の三人でテーブルを囲んでいる。整形手術でも施したのだろう、顔は全くの別人だ。
 子供の頭を撫でると、手を下にずらして頰を柔らかく摘む。別人のようでいても、その仕草は父親のものだった。
「親父……」
 粋那は小さくぽつりと零した。何かに気づいた一羽が、下から顔を覗き込む。
 それ以上は何も言わず、歩みを進めた。
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