日本に冬が訪れると、俺は少しだけ薄着をして比奈ちゃんの家に行く。感覚が戻った身体には肌寒さも少し辛いけど、それが酷く大切に思えるようになったのは、ああなってある意味良かった事の一つだ。後は比奈ちゃんの料理がより美味しく感じられるとか、比奈ちゃんがより一層可愛く見えるとか。我ながら比奈ちゃんの事ばっかりだと自分に苦笑しつつ、俺は泉家のチャイムを鳴らした。
インターホンに映る俺があまりにも薄着だという事に、比奈ちゃんはすぐに気付いたようだ。玄関まですぐに飛んで来た彼女の顔には、心配してるんですけど、という文字が貼り付けてあるかのようで可愛かった。あまりの愛しさに、自然と頬が緩む。
「ただいま、比奈ちゃん」
自分でも可笑しくなってしまう程緩んだ顔でそう言えば、比奈ちゃんの怒り顔が少し困ったような笑顔に変わった。映司君が嬉しそうにふにゃって笑うのを見ると、何だか毒気が抜けちゃうのとは彼女の談だ。それは俺の笑顔が好き、という解釈でいいのかな。そうだったらいいな。
「おかえり、映司君。またこっちの季節間違えたの?」
「まあ、そんなとこ」
「早く入って。暖房ついてるし、外よりは暖かいから」
「うん、お邪魔します」
扉がぱたりと閉ざされれば、もうそこに俺を刺す寒さは無い。泉家の中に満ち満ちた暖かい空気と安らぐ生活の匂いが、俺を守るように包んでいる。ここの温もりと安心感に気付いたのも、感覚を一度失って取り戻してからだ。
泉家の一番好きな所はこの、突き刺す外から包み守る内へ招かれる瞬間なのではないかと、最近は思う事も増えた。その瞬間の余韻に浸っていたい気持ちはあったけど、先を行く比奈ちゃんを待たせたい訳じゃないから、後ろ髪を引かれつつも奥へ進んだ。
リビングに入るとすぐに美味しそうな香りが漂って来て、腹が素直に空腹を訴え始めた。今日はシチューだろうか。比奈ちゃんの料理はどれも美味しいけど、やっぱり寒い日はシチューだよね。流石、わかってる。
「お兄ちゃん、もう少しで帰って来るんだ。そしたらご飯にするね。ココア持ってくるから、映司君は座って待ってて」
手伝うよ、という事は簡単だったけど、俺は彼女の言葉に従ってソファに身体を沈めた。あ、やばい。気を抜くと寝てしまいそうだ。信吾さんがもうじき来るのに、寝落ちして出迎えるのだけは避けたい。
何とか眠気と戦う事一分と少し、俺の格闘を傍目で察したらしい比奈ちゃんが、くすりと笑って湯気の立つマグカップを差し出した。淹れたてのそれを飲み込むと、身体の芯からじんわりと温まっていく感じがした。
「美味しい」
「よかった。もう寒くない?」
「うーん・・・まだちょっと手が冷たいかな。握っててくれる?」
「いいよ」
優しい力で握ってくれる温かい手が、冷え切った俺の手にぼんやりと熱を灯す。ココアによるものとも、暖房によるものとも違うふんわりとした温かさが、内から溢れ出す。多分、何よりも愛おしい彼女が、他でもない俺の為にくれる温もりのお陰だ。
いつだっただろう。俺が本気で日本の季節を間違えて、丁度今くらいの薄着で泉家を訪れた、あの最初の日は。その日、比奈ちゃんが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた幸せを忘れられなくて、また優しくされたいなんて我儘の為に、間違えたふりをするようになったのは。
あの時。俺が人じゃなくなった時。私は、貴方を温められなかったから。だから、今は貴方を寒さから守れるのが嬉しいんだよ。そう、切ないような甘いような彼女の笑みに、俺がどれほど救われたか。きっと、彼女は一生気付かないだろう。
「比奈ちゃん」
「なぁに?」
「抱きしめていい?」
「・・・お兄ちゃんが帰って来るまでね」
二人してソファに寝転がって、抱きしめ合う。あの時と違って、抱きしめても比奈ちゃんの柔肌を傷つけたり、凍えさせたりしなくていいのが本当に嬉しい。そうじゃなかったら、俺は一生好きな人と寄り添って眠る幸福を知る事は無かっただろう。尤も、それを俺に教えてくれた彼女がいなかったら、結局俺は一生知らないままだっただろうけど。
「あー、温かいって幸せ」
「そうだよ。今気付いたの?」
「ううん。でも、比奈ちゃんが教えてくれるまで気付かなかった。だから、ありがと」
俺の答えに満足したのか、比奈ちゃんは俺が大好きな笑顔を浮かべた。
温める
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向き
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オーズ妄想
初公開日: 2022年12月31日
最終更新日: 2022年12月31日
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・喋りながら書けないので音声は基本オフ
・話自体は目茶苦茶したいのでコメントはしつこいレベルで打って下さい(懇願)
・小説と全然関係ない質問、リクエスト大歓迎
・他カプや他作品の話題も物によりますがあり
アンジュリDom/Subバース③
結局全然出来てないアフター第二弾!開始がだいぶ遅くなったので、日付変わる手前までは出来たらいいな。
ゆっくりゆきねこ
アンジュリDom/Subバース②
女攻めオンリーアフター第一弾!本日は予告通りアンジュリDom/Subユニバースを書きます!
ゆっくりゆきねこ
臣左同い年if ★
ぶれさんの素敵お題お借りしました!
のーべる