三人称限定 八戒
※思ったこと(一人称)は入れない こういうとき三人称で彼は〇〇と思ったみたいなのどんだけ入れて良いのか、いまだにわからない……
 点滅していた青信号を逃し、赤信号になってしまった。ゆっくりと歩きながら、二人で赤になった事を笑い合う。八戒はアイスを頬張り、隣でアイスを舐める恋人を見た。彼の恋人──三ツ谷隆はアイスを食べてなかったら間に合ったのに、と笑いながら動きをビク、と止める。ピスポケットから携帯電話を取り出し、訝し気に目を細めた。
「持ってて」
 そう三ツ谷に言われ、八戒はスティックタイプのアイスを受け取る。自販機で購入したアイスの棒はプラスチックで出来ていて、ひんやりと纏った空気と共に無機質な触感を彼に与える。八戒は両手で携帯を持ち、必要以上にボタンを強く押す三ツ谷に苦言する。そんなに強く打つと壊れてしまう。加え、両手で携帯を持ちながら首を曲げ噛み付くように画面を見られると誰からどんな連絡が来たか見ることができない。
 人の携帯を盗み見ることは良くないことだとわかってはいても、恋人が誰かと目の前でやりとりをしているという疎外感に寂しさと、同時に子供のような苛立ちを覚える。
 フン、と、三ツ谷に聞こえないように鼻を鳴らし、アイスをまた頬張った。
 
 横断歩道、白とコンクリートの灰色を順々に八戒は見、対岸へたどり着き赤いままの信号機を目を細め睨む。アイスクリームを味わうことなく一口、また一口と吸い込むような速度で頬張っていく。スティックを横に傾け、最後の一口を舐め取った。そこで、ふと、この行動は二回ではないかと目を瞬かせた。左右の手を腹部の前へ揃え視線を落とすと、そこには二本のスティックアイスの残骸がある。八戒は再び、眉根を寄せながら瞬きをした。腕に、何かがぶつかる。三ツ谷が肘で彼の腕を打った。
「……なに?」
「なにじゃねぇよ。アイス。わりぃな持たせて」
 食べてしまったことを告げるとそんなことあるかと三ツ谷は声を荒げ、信じられないと言いたげに口をパクパクと動かした。言葉にならない状態の空気を食べているのを八戒は頬を掻きながら見つめる。「貰えたのかと思って」という、口から出まかせを吐きながら、どうして素直に誤って食べてしまった事を言えないのかと口の端を歪めた。彼の唇の傷はその歪みに合わせて角度を変える。頬を掻く指の先は唇の端へと移り、代わりのように傷跡を掻く。指先に唇の感触を感じ、また、深い考えもなしに彼の口から言葉が出る。
「ごめんごめんタカちゃん。キスしてあげるから許して」
 チュ、とリップ音を立てながら三ツ谷へと指先を向ける。ウィンクは無意識のうちにしてしまったようで、八戒は両目を開けてからバツが悪そうに三ツ谷から目を逸らした。三ツ谷は目を大きく見開き、八戒を矯めつ眇めつ眺めている。
「……言ったな」
 三ツ谷の言葉が八戒の耳に届く頃には八戒のワイシャツの首元は掴まれ二人の距離はぐっと近付く。三ツ谷は首を傾げ八戒の唇へと噛み付いた。噛みつき、唇に歯を沈めたままもう一度強く襟を引き寄せた。唇同士を強く重ね合わせる。八戒は息を詰め唇を舐られる。
「んっふ、──んん」
 八戒のくぐもった声が口ん中から響いて、舌挿れようと一旦口開けたら肩を手で押された。そのまま身体が離れる。
「……は、あ、っ! た、タカちゃん、こんな、人、多いとこで……」
 真っ赤になった八戒の向こうには、停車中の車が見えた。同時に、アイドリングの音が聞こえる。重ねて人の話し声、歩いている音、全てのボリュームが上がり耳に届いた。交差点の向かい側からの視線、八戒の奥側からの視線、オレからは見えないけど、オレの背中に向けられた視線。
「……」
「……タカちゃん……耳まで赤くなってっけど……」
「……」
 八戒は背を丸め、オレの頬に顔を寄せる。対向車線の車が停車を始め、歩行者用の信号機が青に変わるのは秒読みだ。
「タカちゃんさ……たまに、全く周りが見えなくなるよね……」
「……」
 口元を手で隠して、八戒の唇の位置は耳の方へと上がる。こそ、っと小さく囁かれた。
「タカちゃんの、そういうとこも、好き」
「……止めろ! わかってたんなら止めろ!」
「ぷっ あはは! オレがわりいのぉ?! してきたの、タカちゃんじゃあん!」
 
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